2024年07月23日

コロナ禍後のインバウンド需要~地方での回復の遅れと旅行単価の増加は続くのか~

経済研究部 研究員 安田 拓斗

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1――はじめに

新型コロナウイルスの感染症法上の分類が5類へ引き下げられてから1年以上が経過した。コロナ禍で減速した日本経済は、対面型サービス消費を中心に回復を続けてきた。観光分野は日本経済にとって極めて重要な分野になりつつある。

日本人の国内旅行は、コロナ禍においても、GoToトラベルキャンペーンや全国旅行支援など各種政策の後押しを受けて段階的に回復してきた。しかし、それらは既に終了し、消費者物価の高まりによる実質賃金の低下によって国内旅行需要が停滞してきている。

一方で、インバウンド需要はリベンジ消費に加え、円安が追い風となって急速に回復している。旅行需要を牽引するのは、国内旅行からインバウンドへと移行している。本レポートでは、観光庁が公表している宿泊旅行統計を用いて、最近のインバウンド需要について分析し、先行きを考えていく。

2――外国人延べ宿泊者数の回復状況

2――外国人延べ宿泊者数の回復状況

1外国人延べ宿泊者数はコロナ禍前の水準を回復
宿泊旅行統計によると、2023年の外国人延べ宿泊者数は2019年比1.8%増と、コロナ禍前の水準を上回り、2022年の水準からは大幅に回復した。月別には2023年7月に2019年比2.3%増とプラスに転じ、8月以降は同二桁の高い伸びが続いている。
外国人延べ宿泊者数の推移/外国人延べ宿泊者数の推移(2019年比)
2023年国籍別外国人延べ宿泊者数 2|中国人延べ宿泊者数の回復の遅れ
国籍別のデータが確認できる従業員数10人以上の施設で、外国人延べ宿泊者数をコロナ禍前と比較すると、韓国は2019年比46.8%増、米国は同45.3%増と大幅に回復している。一方、台湾は2019年比▲1.8%、香港は同▲2.9%、中国は同▲63.4%となっている。台湾、香港もコロナ禍前に比べて減少しているマイナス幅は小さい。一方、中国は大幅に回復が遅れている。
2024年5月の中国から日本への旅行者数は2019年比▲27.9%、韓国へは同▲24.8%、タイへは同▲29.6%といずれもコロナ禍前を下回り続けている。海外への団体旅行が政府によって制限されていた中国は、2023年8月に団体旅行が解禁された後も中国国内の不動産不況などによって、経済が停滞しており、日本への旅行者数だけではなく、海外への旅行者数全体の回復が遅れている。日本では、コロナ禍前に外国人延べ宿泊者数のおよそ30%を占めていた中国人延べ宿泊者数のシェアが、2023年には全体の12%に低下している。
外国へ旅行する中国人数/外国人延べ宿泊者数の内訳
3東京都の大幅回復が全体を押し上げている
延べ宿泊者数を都道府県別にみると、2023年は外国人延べ宿泊者数上位15都道府県(東京都、大阪府、京都府、北海道、福岡県、沖縄県、千葉県、神奈川県、愛知県、長野県、山梨県、広島県、大分県、岐阜県、石川県)だけで全体の91.3%を占めた。東京都が2019年比48.7%増と、全国平均に比べて大幅に回復している。

2019年における中国人延べ宿泊者数のシェア(依存度)と、2023年の外国人延べ宿泊者数の回復状況を延べ宿泊者数上位15都道府県で確認すると、2019年の中国人依存度が全国平均と同程度で、2023年の外国人延べ宿泊者数が回復しているグループと、2019年の中国人依存度が大きく、2023年の外国人延べ宿泊者数の回復が遅れているグループと、それらとは違う動きをする都府県に分けられる。なお全国平均は2019年の中国人依存度が29.5%、2023年の外国人延べ宿泊者数が2019年比1.8%増となっている。
外国人延べ宿泊者数の回復率と中国人依存度
2019年の中国人依存度が全国平均と同程度で、2023年の外国人延べ宿泊者数が回復しているグループには福岡県、広島県、大分県、石川県、京都府、神奈川県、長野県が該当する。このグループでは中国人延べ宿泊者数の回復が遅れているものの、それ以外の国籍・地域の外国人宿泊者数が回復しているため、全体の外国人延べ宿泊者数は回復している。

2019年の中国人依存度が全国平均に比べて大きく、2023年の外国人延べ宿泊者数の回復が遅れているグループには北海道、山梨県、千葉県、岐阜県、愛知県が該当する。このグループは中国人延べ宿泊者数への依存度が大きかったために、全体の外国人延べ宿泊者数の回復が大きく遅れている。

東京都、大阪府、沖縄県は上記2つのグループとは違った動きをしている。東京都は2019年の中国人依存度が25.2%と全国平均と同程度だったが、2023年の外国人延べ宿泊者数は2019年比48.7%増と全国平均を大幅に上回り、外国人延べ宿泊者数のシェアが2019年の25%から2023年には37%まで上昇した。

2023年の外国人延べ宿泊者数は2019年比1.8%増となったが、東京都を除く全体でみると、同▲14.1%のマイナスとなっている。2023年の外国人延べ宿泊者数が2019年の水準を上回ったのは、東京都の外国人延べ宿泊者数が大幅に増加したためである。
2023年外国人延べ宿泊者数の回復率/外国人延べ宿泊者数のシェア
外国人延べ宿泊者数(2023年) また国籍別には、東京都では、中国からの宿泊者数は2019年比▲39.3%とマイナスだが、全国平均(同▲63.4%)に比べると回復が進んでおり、韓国(同102.5%増)、米国(同52.7%増)、台湾(同53.1%増)、香港(同47.6%増)からの宿泊者数は2019年の水準を大幅に上回っている。

大阪府は、2019年の中国人依存度が39.0%と全国平均に比べて大きいが、2023年の外国人延べ宿泊者数は2019年比4.6%増と全国平均より回復している。中国人宿泊者数の回復が2019年比▲62.3%と全国平均(同▲63.4%)同様遅れているが、韓国が同103.6%増、米国が同73.7%増、台湾が同30.7%増と大きく回復している。

沖縄県は、2019年の中国人依存度が21.2%と全国平均より小さいにもかかわらず、外国人延べ宿泊者数は2019年比▲42.2%と、15都道府県の中で最も中国人依存度が大きかった愛知県(中国人依存度:50.2%、外国人延べ宿泊者数:▲44.7%)の次に回復が遅れている。沖縄県は中国人延べ宿泊者数が2019年比▲87.8%と全国平均(同▲63.4%)に比べて大きく回復が遅れていることに加えて、韓国が同▲47.3%、台湾が同▲59.4%、香港が同▲58.6%と東アジアからの宿泊者数の回復も大幅に遅れていることが全体を押し下げている。

外国人延べ宿泊者数は、中国人依存度の大きい都道府県で回復が遅れている一方、2019年の中国人依存度が全国平均と同程度の都道府県では、全国平均並みの回復となった。また、東京都は中国以外の国籍・地域からの宿泊者数が大幅に増加しており、中国からの宿泊者数も全国平均に比べると急速に回復している。大幅に増加している東京都に加えて、福岡県、広島県、大阪府、京都府、石川県などが外国人延べ宿泊者数を押し上げた一方で、東京都、京都府、大阪府といったゴールデンルートから外れた地方を中心に回復が遅れたままとなっている。

(2024年07月23日「基礎研レポート」)

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経済研究部   研究員

安田 拓斗 (やすだ たくと)

研究・専門分野
日本経済

経歴
  • 【職歴】
     2021年4月  日本生命保険相互会社入社
     2021年11月 ニッセイ基礎研究所へ

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