2024年07月09日

さくらレポート(2024年7月)~景気の総括判断は4地域で「回復している」との表現が使われたが、先行きへの警戒感は強い~

経済研究部 研究員 安田 拓斗

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1.景気の総括判断は、全9地域中、2地域で引き上げ、5地域で据え置き、2地域で引き下げ

7月8日に日本銀行が公表した「地域経済報告(さくらレポート)」によると、景気の総括判断は、全9地域のうち、2地域で引き上げ、5地域で据え置き、2地域で引き下げとなった。景気の総括判断が引き上げられたのは、北陸と近畿、据え置かれたのは、東北、関東甲信越、東海、中国、九州・沖縄、引き下げられたのは、北海道、中国となった。

北陸では、「持ち直しの動きがみられている」から「回復に向けた動きがみられている」へ、近畿では「持ち直している」から「回復している」へ景気の総括判断が上方修正された。これによって「回復している」との表現を用いた地域は、前回調査(2024年3月)の2地域から、関東甲信越、東海、近畿、九州・沖縄の4地域となった。
各地域の景気の総括判断
各地域の判断をみると、需要項目別には、個人消費は物価上昇の影響から一部に弱めの動きがみられるが、緩やかに回復している地域が多い。設備投資は高水準の企業収益を背景に増加している。住宅投資は住宅価格の上昇を受けて減少している。

他には、生産は自動車メーカーの不正問題発覚に伴う生産停止が解除されたが、横ばい圏内で推移している。雇用・所得環境は労働需給の引き締まりを背景に、緩やかに改善している。

2.業況判断は4地域で改善、2地域で横ばい、3地域で悪化、先行きの警戒感も強い

「地域別業況判断DI(全産業)」をみると、全9地域中、4地域で改善、2地域で横ばい、3地域で悪化し、全国では横ばいとなった。前回調査からの変化幅をみると、北海道、北陸が+4ポイントと改善幅が最も大きく、次いで中国が+3ポイント、東北が+1ポイント、関東甲信越、近畿が横ばいとなった。一方、四国が▲4ポイント、東海、九州・沖縄が▲2ポイントと悪化した。

先行き(2024年9月)の景況感は、全9地域中、1地域で改善、8地域で悪化を見込んでおり、全国では▲2ポイントの悪化を見込んでいる。先行きの改善幅をみると、東北が+1ポイントと改善を見込んでいる。一方、先行の悪化幅は北海道、北陸が▲6ポイントと最も大きく、次いで九州・沖縄が▲3ポイント、北海道、関東甲信越、近畿、中国が▲2ポイント、東海、四国が▲1ポイントとなった。景況感は高水準を維持しているが、先行きへの警戒感が強い状態が続いている。
地域別の業況判断DIと変化幅(全産業)/全産業の改善・悪化幅(前回→今回)・全産業の改善・悪化幅(今回→先行き)

3.製造業は改善し、先行きも改善を見込む

地域別の業況判断DIと変化幅(製造業) 製造業の業況判断DIは、全9地域のうち6地域で改善、3地域で悪化し、全国では+1ポイントの改善となった。

地域別に前回調査からの変化幅をみると、中国が+7ポイントと最も改善し、次いで九州・沖縄が+4ポイント、東北が+3ポイント、関東甲信越が+2ポイント、北海道、北陸が+1ポイントの改善となった。一方、東海、近畿、四国は▲2ポイントと悪化した。

前回調査から改善した中国では、木材・木製品が+53ポイントと大幅に改善した。加えて、化学が+18ポイント、繊維が+13ポイント、輸送用機械が+12ポイントと改善幅が大きかった。一方、前回調査から悪化した近畿では、金属製品が▲15ポイント、鉄鋼が▲11ポイント、窯業・土石製品が▲10ポイントと悪化幅が大きかった。四国では、電気機械が▲10ポイントと悪化幅が大きかった。

地域別の製造業の景況感は、価格転嫁の進展や高水準の企業収益を背景とした設備投資需要の高まりが追い風となり持ち直している。

先行きについては、全9地域中、5地域で改善、4地域で悪化、全国では+1ポイントの改善を見込んでいる。
地域別に先行きの変化幅をみると、最も改善を見込むのは東北で、改善幅は+8ポイントだった。次いで四国が+5ポイント、北海道が+4ポイント、東海、近畿が+3ポイントとなった。一方、悪化を見込む地域をみると、九州・沖縄が▲4ポイントと悪化幅が最も大きく、次いで北陸、関東甲信越、中国が▲1ポイントとなった。

先行きの改善が見込まれる東北では、特に木材・木製品(+33ポイント)、輸送用機械(+29ポイント)、鉄鋼(+15ポイント)で大幅な改善が見込まれている。一方、先行きの悪化幅が最も大きかった九州・沖縄では、特に食料品(▲17ポイント)、鉄鋼(▲10ポイント)で大幅な悪化が見込まれている。

地域別の製造業の先行きは、一部地域で悪化を見込むものの、非鉄金属や輸送用機械を中心に持ち直しを見込んでいる。

なお、日銀短観2024年6月調査では、2024年度の想定為替レート(全規模製造業ベース)が144.33円と、足もとの実勢(161円台前半)と比べて円高の水準を想定している。為替が現在の水準で推移すれば、利益計画の上方修正を通じて製造業の景況感は上振れていくだろう。
製造業の改善・悪化幅(前回→今回)/製造業の改善・悪化幅(今回→先行き)

4.非製造業は横ばい、先行きは悪化を見込む

地域別の業況判断DIと変化幅(非製造業) 非製造業の業況判断DIは全9地域中、5地域で改善、1地域で横ばい、3地域で悪化し、全国は+1ポイントの改善となった。地域別に変化幅をみると、最も改善しているのは北陸で+6ポイントとなった。次いで北海道が+4、関東甲信越、近畿、中国が+1ポイント、東北が横ばいとなった。一方、四国、九州・沖縄が▲4ポイント、東海が▲1ポイントの悪化となった。

改善幅が最も大きかった北陸では、震災被害があったものの、北陸応援割による押し上げ効果もあり、宿泊・飲食サービスが+68ポイントと大幅に悪化した前回調査(▲86ポイント)から急速に改善している。また、対個人サービスが+32ポイント、電気・ガスが+25ポイントと大幅に改善した。一方、悪化幅が大きかった四国では宿泊・飲食サービスが▲18ポイント、卸売が▲14ポイントと大幅に悪化した。また九州・沖縄では、宿泊・飲食サービスが▲12ポイント、物品賃貸が▲10ポイントと悪化した。非製造業の業況判断は地域ごとにばらつきはあるが、全体的に弱い動きとなっている。
先行きについては、全9地域で悪化を見込み、全国では▲6ポイントの悪化を見込んでいる。

地域別に先行きの悪化幅をみると、最も大きいのは北陸で▲10ポイントの悪化を見込んでいる。次いで北海道で▲9ポイント、近畿が▲7ポイント、関東甲信越、東海、四国が▲6ポイント、中国が▲4ポイント、東北、九州・沖縄が▲3ポイントの悪化を見込んでいる。

悪化幅が最も大きい北陸では、宿泊・飲食サービスが▲37ポイント、対個人サービスが▲22ポイント、物品賃貸が▲20ポイントと大幅な悪化を見込んでいる。また北海道では、物品賃貸が▲25ポイント、情報通信が▲22ポイント、対事業所サービスが▲22ポイントの悪化を見込んでいる。

非製造業の先行きは、人件費や仕入れコスト増、人手不足、物価高など下押し圧力が残存していることから、全ての地域で警戒感が強い状況が続いている。
非製造業の改善・悪化幅(前回→今回)/非製造業の改善・悪化幅(今回→先行き)
 
 

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(2024年07月09日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   研究員

安田 拓斗 (やすだ たくと)

研究・専門分野
日本経済

経歴
  • 【職歴】
     2021年4月  日本生命保険相互会社入社
     2021年11月 ニッセイ基礎研究所へ

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