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日本のエネルギー政策の現状と課題-再生可能エネルギーは環境に優しいが高コストか

金融研究部 准主任研究員・サステナビリティ投資推進室兼任 原田 哲志
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3――地政学リスクの高まり
特定の国からの輸入に依存することは、地政学リスクが顕在化した場合にエネルギー確保に大きな影響を受けることにつながる。2022年2月には、ロシアがウクライナに侵攻したことにより世界の貿易は混乱し、エネルギーや食糧をはじめ様々なものの供給網が寸断された。こうした場合にもエネルギーの安定供給を維持するためには、エネルギー資源の輸入先の分散化や国産のエネルギーとなる再生可能エネルギーの普及が、エネルギーの安全保障の面から求められている。
4――日本のエネルギー政策の今後の課題
現在では、太陽光発電をはじめとした再生可能エネルギー施設の増加に伴って、近隣住民とのトラブルなども増加しており、再生可能エネルギー施設の地域社会との共生が課題となっている。
2023年に成立したグリーントランスフォーメーション(GX)実現に向けた関連法の整備を行う「GX脱炭素電源法」では(1)地域と共生した再エネの最大限の導入拡大支援と(2)安全確保を大前提とした原子力の活用を柱とした法整備を進めている8。
(1)の再エネの導入拡大支援では、再エネを効果的に活用するための送電網の整備や投資促進、地域住民と再エネ施設の共生を目指した事業規律強化に関する制度の整備を行う。再生可能エネルギーの固定価格買取制度(Feed-in Tariff:FIT)の認定要件に事業内容の周辺地域に対する事前周知を追加することや事業者に委託先に対する監督義務を課し委託先を含め関係法令遵守等を徹底することで、地域社会に配慮した再生可能エネルギー施設の開発を行う。
(2)の原子力の活用では、電力の安定供給に向けて原子力発電の安全対策強化と再稼働・長期稼働に向けた法改正を行う。原子力発電は電力の安定供給と脱炭素化を両立できることから、安全最優先で再稼働・長期稼働を進める。
多くの課題があるが、カーボンニュートラルの実現やエネルギーコストの低減による産業競争力の強化には、再生可能エネルギーのさらなる活用は避けられないものとなっている。またそれに加えて地域や社会との共生、エネルギーの安定供給といった社会の要請をふまえたエネルギー供給体制を構築していくことが求められている。エネルギー政策の動向に引き続き注目していきたい。
8 内閣府(2023)
【参考文献】
経済産業省資源エネルギー庁(2024)、「日本のエネルギー 2023年度版 『エネルギーの今を知る10の質問』」2024年2月
内閣府(2020)、「革新的環境イノベーション戦略」、2020年1月21日
経済産業省資源エネルギー庁(2021a)「電気をつくるには、どんなコストがかかる?」、2021年12月28日
経済産業省資源エネルギー庁(2021b)、「電力ネットワークの次世代化」、2021年9月7日
経済産業省資源エネルギー庁(2023)、「国内外の再生可能エネルギーの現状と今年度の調達価格等算定委員会の論点案」、2020年10月
自然エネルギー財団、「日本とドイツにおける太陽光発電のコスト比較~日本の太陽光発電はなぜ高いか~」
内閣府(2023)、「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案【GX脱炭素電源法】の概要」、2023年2月28日
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2024年07月18日「ニッセイ基礎研所報」)

03-3512-1860
- 【職歴】
2008年 大和証券SMBC(現大和証券)入社
大和証券投資信託委託株式会社、株式会社大和ファンド・コンサルティングを経て
2019年 ニッセイ基礎研究所(現職)
【加入団体等】
・公益社団法人 日本証券アナリスト協会 検定会員
・修士(工学)
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