- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経営・ビジネス >
- 環境経営・CSR >
- 日本のエネルギー政策の現状と課題-再生可能エネルギーは環境に優しいが高コストか
日本のエネルギー政策の現状と課題-再生可能エネルギーは環境に優しいが高コストか
金融研究部 准主任研究員・ESG推進室兼任 原田 哲志
1――日本のエネルギー供給を取り巻く環境
電気料金の急騰は天然ガスや石油、石炭といった火力発電に必要な燃料の価格が高騰したことが影響している(図表2)。発電に用いられるエネルギー源の構成は国により大きく異なっており、化石燃料に依存する国はその価格の上昇の影響を受けやすい。図表3は各国の発電に用いられるエネルギー源の割合を示している1。これを見ると、日本は天然ガス34.5%、石炭31.0%、石油その他7.4%となっており、火力発電の割合が大きいことが特徴となっている。また、日本はこうした火力発電の燃料調達を海外からの輸入に頼っていることから、海外のエネルギー市場の動向や地政学リスクの影響を受けやすい状況となっている。脱炭素化に向けた再生可能エネルギーへの転換や地政学リスクが高まる中での安定的なエネルギー供給の確保が求められており、エネルギー政策への注目が高まっている。
1 経済産業省資源エネルギー庁(2024)
2――世界的な再生可能エネルギー価格の低下
研究開発投資により既存分野での太陽光発電のコストが大幅に低下するとともに、立地制約の克服と更なる太陽光発電の導入拡大を目指し、高効率、軽量、曲面追従といった優れた特性を持つ次世代の太陽電池の開発が進められている2。
再生可能エネルギーのコストが大幅に低下したことから、再生可能エネルギーは火力発電や原子力発電といった従来のエネルギー源よりも低コストのエネルギー源となりつつある。
経済産業省は、2030年に向けたエネルギー政策の議論の参考材料となる電源別発電コストの試算では、「太陽光のコストは石油・石炭火力や原子力を下回る」との結果を公表している。これによれば、太陽光(事業用)の発電コストは8.2~11.8円/kwhとなっており、石油火力24.9~27.6円/kwh、LNG火力10.7~14.3円/kwh、原子力11.7~円/kwhなどを概ね下回っている(図表4)3。
ただし、電源別のコストの比較では、太陽光や風力といった自然変動電源の大量導入により、火力発電の効率低下や揚水発電の活用などに伴う費用が高まることを考慮する必要がある4。電力はその周波数を一定に保つために常に需要に合わせて供給を調整し、バランスを保つ必要があるためである。しかし、太陽光や風力の発電量は天候・時間帯といった気象条件により変動する。このため、発電量の変動を吸収することが必要となり、LNG、石炭、揚水発電などの出力を調整する必要がある。
資源エネルギー庁は「太陽光発電・風力発電ともに、(日本での)コストは着実に低減しているものの、依然として世界より高く、低減スピードも鈍化の傾向」と指摘している6。
日本でこれらのコストが高い理由としては(1)太陽光発電などの適地の不足に加えて、(2)施工効率の低さが挙げられる。
自然エネルギー財団が公表した「日本とドイツにおける太陽光発電のコスト比較」では、1000kwの設備容量の太陽光発電の標準的施工期間はドイツが2-3週間に対して、日本は4-5カ月と、施工期間に大きな差があることなどを指摘している7。
これはドイツでは太陽光パネルを載せる架台と基礎を一部一体化することでボルト留め作業が極力少なくなる架台が普及するなど、効率的に施工を行っていることが影響している。
日本のエネルギーコストは現状でも諸外国と比較して高い状況だが、安価な電源となりつつある再生可能エネルギーの導入が諸外国に遅れることでその差がさらに拡大することは、日本が産業競争で不利となることにつながりかねない。再生可能エネルギーの量的な拡大とともにコストや価格面での改善が、重要かつ喫緊の課題となっている。
2 内閣府(2020)
3 経済産業省資源エネルギー庁(2021a)
4 揚水発電とは夜間や休日昼間など電力需要が少ない時間帯に水を汲み上げておき、平日昼間など電力需要が高い時間帯に汲み上げた水を利用して発電する水力発電を指す。
5 経済産業省資源エネルギー庁(2021b)
6 経済産業省資源エネルギー庁(2023)
7 自然エネルギー財団
(2024年07月18日「ニッセイ基礎研所報」)
03-3512-1860
- 【職歴】
2008年 大和証券SMBC(現大和証券)入社
大和証券投資信託委託株式会社、株式会社大和ファンド・コンサルティングを経て
2019年 ニッセイ基礎研究所(現職)
【加入団体等】
・公益社団法人 日本証券アナリスト協会 検定会員
・修士(工学)
原田 哲志のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2024/09/24 | グローバル株式市場動向(2024年8月)-主要国の金融政策が注目される | 原田 哲志 | 基礎研レター |
2024/09/04 | ベンチャー投資促進に向けた環境整備 | 原田 哲志 | ニッセイ年金ストラテジー |
2024/08/15 | グローバル株式市場動向(2024年7月)-半導体関連銘柄は反落 | 原田 哲志 | 基礎研レター |
2024/07/18 | 日本のエネルギー政策の現状と課題-再生可能エネルギーは環境に優しいが高コストか | 原田 哲志 | ニッセイ基礎研所報 |
公式SNSアカウント
新着レポートを随時お届け!日々の情報収集にぜひご活用ください。
新着記事
-
2024年10月08日
今週のレポート・コラムまとめ【10/1-10/7発行分】 -
2024年10月07日
さくらレポート(2024年10月)~景気の総括判断は2地域で引き上げられ、7地域で横ばい、先行きは非製造業で悪化を見込む~ -
2024年10月07日
ベトナム経済:24年7-9月期の成長率は前年同期比7.4%増~輸出と製造業に支えられ2四半期連続で加速 -
2024年10月07日
不透明感を増す利上げの行方~日銀金融政策のポイントと見通し -
2024年10月07日
投信市場で尾を引く7、8月の急落~2024年9月の投信動向~
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
-
2024年02月19日
News Release
【日本のエネルギー政策の現状と課題-再生可能エネルギーは環境に優しいが高コストか】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
日本のエネルギー政策の現状と課題-再生可能エネルギーは環境に優しいが高コストかのレポート Topへ