2024年07月18日

日本のエネルギー政策の現状と課題-再生可能エネルギーは環境に優しいが高コストか

金融研究部 准主任研究員・ESG推進室兼任 原田 哲志

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1――日本のエネルギー供給を取り巻く環境

2022年、家庭の電気代が高騰し家計への負担増加などが懸念され、大きな話題となった。経済産業省電力・ガス取引監視等委員会が公表するデータによれば、電力価格(低圧電灯)は2021年初め頃から上昇が続き、2023年1月には31.25円/kwhまで上昇した(図表1)。電気代の高騰は家庭だけでなく、企業のコストの増加につながり経済に悪影響を与える。特に電力を多く必要とする製造業においては、電気代の高騰が工場の運用コストに与える影響は大きい。

電気料金の急騰は天然ガスや石油、石炭といった火力発電に必要な燃料の価格が高騰したことが影響している(図表2)。発電に用いられるエネルギー源の構成は国により大きく異なっており、化石燃料に依存する国はその価格の上昇の影響を受けやすい。図表3は各国の発電に用いられるエネルギー源の割合を示している1。これを見ると、日本は天然ガス34.5%、石炭31.0%、石油その他7.4%となっており、火力発電の割合が大きいことが特徴となっている。また、日本はこうした火力発電の燃料調達を海外からの輸入に頼っていることから、海外のエネルギー市場の動向や地政学リスクの影響を受けやすい状況となっている。脱炭素化に向けた再生可能エネルギーへの転換や地政学リスクが高まる中での安定的なエネルギー供給の確保が求められており、エネルギー政策への注目が高まっている。
図表1 電力価格(低圧電灯)の推移/図表2 天然ガス(日本輸入価格)の推移
図表3 主要国のエネルギーミックスと再エネ比率
 
1 経済産業省資源エネルギー庁(2024)

2――世界的な再生可能エネルギー価格の低下

2――世界的な再生可能エネルギー価格の低下

脱炭素化に向けた再生可能エネルギーへの転換はエネルギー政策における大きな課題となっている。これは日本だけでなく世界各国が再生可能エネルギーの導入や開発を進めている。こうしたことから、近年では太陽光発電をはじめとした再生可能エネルギーを取り巻く環境は大きく変化している。生産量の増加による規模のメリットの向上や技術革新により、太陽光発電をはじめとした再生可能エネルギーのコストの大幅な低下が続いている。

研究開発投資により既存分野での太陽光発電のコストが大幅に低下するとともに、立地制約の克服と更なる太陽光発電の導入拡大を目指し、高効率、軽量、曲面追従といった優れた特性を持つ次世代の太陽電池の開発が進められている2

再生可能エネルギーのコストが大幅に低下したことから、再生可能エネルギーは火力発電や原子力発電といった従来のエネルギー源よりも低コストのエネルギー源となりつつある。

経済産業省は、2030年に向けたエネルギー政策の議論の参考材料となる電源別発電コストの試算では、「太陽光のコストは石油・石炭火力や原子力を下回る」との結果を公表している。これによれば、太陽光(事業用)の発電コストは8.2~11.8円/kwhとなっており、石油火力24.9~27.6円/kwh、LNG火力10.7~14.3円/kwh、原子力11.7~円/kwhなどを概ね下回っている(図表4)3

ただし、電源別のコストの比較では、太陽光や風力といった自然変動電源の大量導入により、火力発電の効率低下や揚水発電の活用などに伴う費用が高まることを考慮する必要がある4。電力はその周波数を一定に保つために常に需要に合わせて供給を調整し、バランスを保つ必要があるためである。しかし、太陽光や風力の発電量は天候・時間帯といった気象条件により変動する。このため、発電量の変動を吸収することが必要となり、LNG、石炭、揚水発電などの出力を調整する必要がある。
図表4 2030年の電源別発電コスト試算結果
少ない調整電源で大きな調整力を発揮するには、原子力発電などコストは比較的安いが出力調整が困難な電源よりもLNG火力などコストは高いが調整しやすい電源を多用することが必要となる。この結果、電力システム全体のコストが上昇することを考慮する必要がある(図表5)5
図表5 電力の出力調整のイメージ
また、日本の再生可能エネルギーの価格は大幅に低下しているものの、諸外国と比べた場合その価格はまだまだ高止まりしている状況にある(図表6、7)。

資源エネルギー庁は「太陽光発電・風力発電ともに、(日本での)コストは着実に低減しているものの、依然として世界より高く、低減スピードも鈍化の傾向」と指摘している6
日本でこれらのコストが高い理由としては(1)太陽光発電などの適地の不足に加えて、(2)施工効率の低さが挙げられる。

自然エネルギー財団が公表した「日本とドイツにおける太陽光発電のコスト比較」では、1000kwの設備容量の太陽光発電の標準的施工期間はドイツが2-3週間に対して、日本は4-5カ月と、施工期間に大きな差があることなどを指摘している7

これはドイツでは太陽光パネルを載せる架台と基礎を一部一体化することでボルト留め作業が極力少なくなる架台が普及するなど、効率的に施工を行っていることが影響している。

日本のエネルギーコストは現状でも諸外国と比較して高い状況だが、安価な電源となりつつある再生可能エネルギーの導入が諸外国に遅れることでその差がさらに拡大することは、日本が産業競争で不利となることにつながりかねない。再生可能エネルギーの量的な拡大とともにコストや価格面での改善が、重要かつ喫緊の課題となっている。
図表6 世界と日本の太陽光発電のコスト推移/図表7 世界と日本の陸上風力発電のコスト推移
 
2 内閣府(2020)
3 経済産業省資源エネルギー庁(2021a)
4 揚水発電とは夜間や休日昼間など電力需要が少ない時間帯に水を汲み上げておき、平日昼間など電力需要が高い時間帯に汲み上げた水を利用して発電する水力発電を指す。
5 経済産業省資源エネルギー庁(2021b)
6 経済産業省資源エネルギー庁(2023)
7 自然エネルギー財団

(2024年07月18日「ニッセイ基礎研所報」)

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金融研究部   准主任研究員・ESG推進室兼任

原田 哲志 (はらだ さとし)

研究・専門分野
資産運用、ESG

経歴
  • 【職歴】
    2008年 大和証券SMBC(現大和証券)入社
         大和証券投資信託委託株式会社、株式会社大和ファンド・コンサルティングを経て
    2019年 ニッセイ基礎研究所(現職)

    【加入団体等】
     ・公益社団法人 日本証券アナリスト協会 検定会員
     ・修士(工学)

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