2024年07月08日

米雇用統計(24年6月)-雇用者数こそ市場予想を上回ったものの、全般的に労働市場の減速を示唆

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:雇用者数が市場予想を上回る一方、失業率は予想を上回る

7月5日、米国労働統計局(BLS)は6月の雇用統計を発表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+20.6万人の増加1(前月改定値:+21.8万人)と+27.2万人から下方修正された前月を下回った一方、市場予想の+19.0万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)を上回った(後掲図表2参照)。

失業率は4.1%(前月:4.0%、市場予想:4.0%)と前月から+0.1%ポイント上昇、横這いを見込んだ市場予想を上回った(後掲図表6参照)。労働参加率2は62.6%(前月:62.5%、市場予想:62.6%)と前月から+0.1%ポイント上昇、市場予想に一致した(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:雇用者数以外の指標は全般的に労働市場の減速を示唆

事業所調査の非農業部門雇用者数(前月比)は+20.6万人と市場予想を上回ったものの、過去2ヵ月分が合計▲11.1万人の大幅な下方修正となった結果、24年4-6月期の月間平均増加ペースは+17.7万人増と20年11-21年1月期(+14.1万人増)以来の水準に鈍化した。

家計調査も失業率が6月は4.1%と3ヵ月連続で上昇し、21年11月以来の水準となるなど、労働需給の緩和を示した。

一方、時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比+0.3%(前月:+0.4%、市場予想:+0.3%)と前月から低下、市場予想に一致した。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 また、前年同月比は+3.9%(前月:+4.1%、市場予想:+3.9%)とこちらも前月から低下し、市場予想に一致するなど賃金上昇圧力の低下を示した(図表1)。

このようにみると、6月の雇用統計は非農業部門雇用者数こそ市場予想を上回ったものの、過去2ヵ月分の大幅な下方修正を考慮すれば足元の雇用増加ペースが明確に鈍化したことを示したほか、失業率の上昇や賃金上昇率の低下など、全般的には労働市場が減速していることを示す結果となった。

3.事業所調査の詳細:政府部門、医療・社会扶助サービス以外全般的に伸びは低調

事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+11.7万人(前月:+18.1万人)と前月から伸びが大幅に鈍化した(図表2)。
(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 民間サービス部門の中では、医療・社会扶助サービスが前月比+8.2万人(前月:+8.3万人)と概ね前月並みの堅調な伸びを維持した一方、運輸・倉庫が+0.7万人(前月:+1.2万人)、娯楽・宿泊が+0.7万人(前月:+2.2万人)と前月から伸びが鈍化した。さらに、一時派遣業が▲4.9万人(前月:▲1.6万人)と前月から大幅にマイナス幅が拡大したこともあって専門・ビジネスサービスが▲1.7万人(前月:+3.1万人)と前月からマイナスに転じたほか、小売業も▲0.9万人(前月:+0.7万人)とマイナスに転じた。

財生産部門は前月比+1.9万人(前月:+1.2万人)と前月から伸びが加速した。製造業が▲0.8万人(前月:横這い)と前月からマイナスに転じた一方、建設業が+2.7万人(前月:+1.6万人)と前月から伸びが加速して全体を押し上げた。

政府部門は前月比+7.0万人(前月:+2.5万人)と前月から伸びが加速した。内訳をみると、連邦政府が+0.5万人(前月:+0.3万人)と前月から小幅に伸びが加速したほか、州・地方政府が+6.5万人(前月:+2.2万人)と大幅に伸びが加速した。
前月(5月)と前々月(4月)の雇用増加数(改定値)は前月が+21.8万人(改定前:+27.2万人)と▲5.4万人下方修正されたほか、前々月が+10.8万人(改定前:+16.5万人)と▲5.7万人下方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は▲11.1万人の大幅な下方修正となった(図表3)。
 
BLSの公表に先立って7月3日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+15.0万人(前月改定値:+15.7万人、市場予想:+16.5万人)と+15.2万人から小幅上方修正された前月、市場予想を下回った。この結果、ADP社の統計は前月から雇用者数の伸びが小幅鈍化した雇用統計と整合的な結果となった。
 
6月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が35.00ドル(前月:34.90ドル)となり、前月から+10セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.3時間(前月:34.3時間)と前月から横這いとなった。この結果、週当たり賃金は1,200.50ドル(前月:1,197.07ドル)となり、前月から増加した(図表4)。
(図表3)前月分・前々月分の改定幅/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:就業者数がプラスに転じたこともあって労働参加率が上昇

家計調査のうち、6月の労働力人口は前月対比で+27.7万人(前月:▲25.0万人)と前月から大幅なプラスに転じた。内訳を見ると、就業者数が+11.6万人(前月:▲40.8万人)と前月からプラスに転じたほか、失業者数が+16.2万人(前月:+15.7万人)と前月から小幅ながら伸びが加速した。非労働力人口は▲8.7万人(前月:+43.3万人)とこちらは3ヵ月ぶりにマイナスに転じた。これらの結果、労働参加率は62.6%と+0.1%ポイント上昇した(図表5)。

一方、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率は6月が83.7%(前月:83.6%)と前月から+0.1%ポイント上昇し、02年2月以来の水準となった。男女の内訳は、男性が89.6%(前月:89.2%)と前月から+0.4%ポイント上昇した一方、女性は77.9%(前月:78.1%)と前月から▲0.2%ポイント低下した。

失業率は6月が4.1%となった(図表6)。この結果、過去3ヵ月の平均は4.0%となり、23年7月につけた3.5%から+0.5%ポイントの上昇となった。元FRBのエコノミストであるサーム氏が考案したサームルールでは失業率の3ヵ月移動平均が過去12ヵ月の最低水準から+0.5%ポイント上昇した場合にリセッションが始まるとされており、6月はサームルールに抵触した。株価が軒並み史上最高値を更新するなど足元でリセッションが始まった兆候はみられないが、労働市場は全般的に減速を示しており、今後どの程度のスピードで失業率が上昇するのか注目される。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
6月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は151.6万人(前月:135.0万人)と前月から+16.6万人増加した。一方、長期失業者の失業者全体に占めるシェアは22.2%(前月:20.7%)と前月から+1.5%ポイント上昇した(図表7)。平均失業期間は20.7週(前月:21.2週)とこちらは前月から▲0.5週短期化した。

最後に、周辺労働力人口(150.8万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(422.0万人)も考慮した広義の失業率(U-6)4は、6月が7.4%(前月:7.4%)と前月から横這いとなった(図表8)。この結果、通常の失業率(U-3)との乖離幅は+3.3%ポイント(前月:+3.4%ポイント)と前月から▲0.1%ポイント縮小した。
(図表7)失業期間の分布と平均失業期間/(図表8)広義失業率の推移
 
3 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
4 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
 
 

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(2024年07月08日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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