2024年06月13日

米FOMC(24年6月)-予想通り、政策金利を据え置き。24年内に1回の利下げを見込む

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.金融政策の概要:市場の予想通り、政策金利を据え置き。24年内に1回の利下げを見込む

米国で連邦公開市場委員会(FOMC)が6月11-12日(現地時間)に開催された。FRBは事前の予想通り、政策金利を7会合連続となる5.25-5.5%で据え置いた。量的引締め政策の変更はなかった。

今回発表された声明文では、景気判断部分で足元のインフレ鈍化を踏まえて「ここ数ヵ月は委員会の物価目標2%に向けた進展が緩やかであった」と前回の「進展がみられない」からインフレ低下を反映する表現に変更された。その他の声明文の変更はなかった。

今回の金融政策方針は全会一致での決定となった。

FOMC参加者の経済見通し(SEP)は前回(3月)から、成長率見通しが据え置かれた一方、25年以降の失業率が上方修正されたほか、コアPCE価格指数の24年と25年分が上方修正された(後掲図表1)。

政策金利見通し(中央値)は24年が5.1%と前回から+0.5%ポイント上方修正され、年内は1回0.25%で利下げ回数が前回の3回から1回に下方修正された。一方、25年が+0.25%ポイント、長期見通しも+0.2%ポイント上方修正された。

2.金融政策の評価:インフレ見通しに引き続き慎重姿勢を維持

政策金利の据え置きや声明文の修正が小幅に留まったことは予想通りだった。一方、注目されたFOMC参加者の見通しで24年内の利下げ回数が1回に下方修正されたのも予想通りであった。

パウエル議長の記者会見では、今朝発表された5月の消費者物価が落ち着いていたことを踏まえて、最近のインフレデータを「インフレ目標に向けた緩やかなさらなる進展を支持するもの」と評価した一方、「先行きは不透明であり、委員会は引き続きインフレリスクに細心の注意を払っている」としてインフレ見通しに対して引き続き慎重な見方を示した。また、足元のインフレ傾向が今後2ヵ月から3ヵ月続いて場合の9月利下げの可能性についても曖昧な回答に終始した。

当研究所は本日のFOMC会合を受けて引き続き12月会合での利下げ開始予想を維持する。4月から2ヵ月続けて消費者物価は落ち着いたものの、それが今後も継続するかFRBはインフレ動向を、時間をかけて慎重に判断しよう。

3.声明の概要

(金融政策の方針)
  • 委員会はFF金利の目標レンジを5.25-5.5%に維持することを決定(変更なし)
  • 加えて、財務省証券、エージェンシー債、エージェンシーの住宅ローン担保証券の保有を引き続き削減する(変更なし)
  • 委員会は6月より、財務省証券の月間償還上限額を600億ドルから250億ドルに引下げることで、保有証券の縮小ペースを減速させる(今回削除)
  • 委員会はエージェンシー債およびエージェンシーの住宅ローン担保証券の月間償還上限額を350億ドルに維持し、その全額を財務省証券に再投資する(今回削除)
 
(フォワードガイダンス)
  • 委員会は雇用の最大化と長期的な2%のインフレ率の達成を目指す(変更なし)
  • FF金利の目標レンジの調整を検討する際には、委員会は入ってくるデータ、進展する見通し、およびリスクのバランスを注意深く評価する(変更なし)
  • 委員会はインフレ率が持続的に2%に向かっているとの確信が深まるまで、目標レンジを引き下げることは適切でないと考えている(変更なし)
  • 委員会はインフレを2%の目標に戻すことに強くコミットしている(変更なし)
  • 金融政策の適切なスタンスを評価するにあたり、委員会は経済見通しに対する今後の情報の影響を引き続き監視する(変更なし)
  • 委員会は目標の達成を妨げる可能性のあるリスクが生じた場合には、金融政策のスタンスを適宜調整する用意がある(変更なし)
  • 委員会の評価は労働市場の情勢、インフレ圧力とインフレ期待に関する指標、金融情勢、国際情勢など幅広い情報を考慮する(変更なし)
 
(景気判断)
  • 最近の指標は、経済活動が堅調なペースで拡大を続けていることを示唆している(変更なし)
  • 雇用の増加は依然として力強く、失業率は低水準を維持している(変更なし)
  • インフレ率はこの1年で緩和したが、依然高止まりしている(変更なし)
  • ここ数ヵ月は委員会の物価目標2%に向けた進展が緩やかであった(前回の「進展がみられない」”a lack of further progress”から「進展が緩やかであった」”modest further progress”にインフレ低下を反映する表現に変更)
 
(景気見通し)
  • 委員会は雇用とインフレの目標達成に向けたリスクは、この1年でより良いバランスに移行していると判断している(変更なし)
  • 経済見通しは不透明であり、委員会はインフレリスクに引き続き高い注意を払っている(変更なし)

4.会見の主なポイント(要旨)

記者会見の主な内容は以下の通り。
 
  • パウエル議長の冒頭発言
    • 本日、FOMCは政策金利を据え置き、保有有価証券の削減を継続することを決定した。我々は需要を供給と一致させ、インフレ圧力を低下させるため、金融政策の制限的なスタンスを維持している。
    • 労働市場では需給バランスが改善した。ここ2~3年の力強い雇用創出は25歳から54歳までの労働参加率の上昇と、移民の継続的な増加ペースを反映して労働供給の増加を伴っている。全体として労働市場の状況はパンデミック前夜とほぼ同じ状態に戻ったことを示唆している。
    • インフレ率は過去2年間で顕著に緩和したが、長期目標である2%を依然上回っている。今年はじめに発表されたインフレ率は予想を上回ったが、最近の月次のインフレ率はやや緩やかになっている。失業率とインフレ率の目標達成に向けたリスクは、より良いバランスへと向かっている。しかし、経済の先行きは不透明であり、インフレリスクには引き続き細心の注意を払っている。
    • インフレ率が持続的に2%に向かっているという確信が得られるまでは、フェデラルファンド金利の目標レンジを引下げることは適切でないと考えている。今年のこれまでのデータからはその確信が得られていない。インフレ率が2%に向かっているという確信を強めるためには、さらに良好なデータを見る必要がある。
    • 経済が堅調に推移し、インフレが持続するのであれば、適切な限り、現在の政策金利の目標レンジを維持する用意がある。労働市場が予想外に弱まったり、インフレ率が予想以上に急速に低下した場合には、対応する用意がある。
 
  • 主な質疑応答
    • (今朝のようなインフレが2回、3回と続けば9月の利下げは可能か)今後のミーティングについてはまだ意思決定していない。今朝の報告を前進であり、信頼感の醸成であるとみているが、現時点で政策緩和を開始することを正当化するような信頼感を我々が持っているとはみてない。
    • (今朝のインフレ率をうけて誰か金利見通しを変更したのか)SEPに掲載されているのは、今日発表されたデータを1日で反映できる範囲で反映したものだ。一部は変更したが、ほとんどの人は変更しなかった。
    • (SEPの利下げ回数が大きく変化したが、この3ヵ月で委員会の姿勢はどのように変化したのか)インフレ予想が大きく変わった。昨年後半は本当に良いインフレデータだったが、第1四半期に進捗が停滞した。そこから学んだことは、政策の緩和を始めるのに必要な確信を得るには。おそらくもっと時間がかかるだろうということだ。つまり、今年実施されるかもしれない利下げが来年実施されるということだ。
    • (成長率や失業率の大幅な減速を予想していないほか。インフレも基本的に平均して変化がないことを予想しているにも関わらず利下げをする理由は何か)金融政策は制限的であると考えており、それを継続することで最終的には経済が弱体化すると考えている。このため、引き続き経済を支えるためにどこかのタイミングで金利を引き下げる必要があると考えている。
    • (労働市場が予想外に弱まれば利下げが早まるとしているが、それはどのようなものか)労働市場というのは時にはすぐに弱くなる傾向があるため、我々は注意深く見守っている。我々はすべての労働市場データをモニターしており、予想以上に労働市場が低迷しているようなら、その時は対応を検討することになるだろう。

5.FOMC参加者の見通し

FOMC参加者(FRBメンバーと地区連銀総裁の19名 )の経済見通しは(図表1)の通り。前回(3月)見通しとの比較では、実質GDP成長率は据え置かれた。失業率は25年から長期見通し全般が+0.1%ポイント上方修正された。コアPCE価格指数は24年が+2.8%と前回から+0.2%ポイント上方修正されたほか、25年が+2.3%と前回から+0.1%ポイント上方修正された。
(図表1)FOMC参加者の経済見通し(6月会合)
(図表2)政策金利見通し(年末時点) 政策金利の見通し(中央値)は、24年が5.1%(前回:4.6%)と前回から+0.5%ポイント上方修正され、利下げ回数が年内1回(前回:3回)に下方修正された(図表2)。

ドットチャートでは24年内に2回の利下げを予想した人数が19人中8人と最も多かったものの、1回の利下げを予想する人数が7人と前回の2名から増加したほか、年内利下げ見送りを予想した人数も4人と前回の2人から増加した。

一方、25年は4.1%(前回:3.9%)と前回から+0.25%ポイント上方修正された。この結果、25年内の利下げ回数は4回(前回:3回)と前回から上方修正された。

26年は3.1%(前回:3.1%)と前回から据え置かれたものの、利下げ回数は4回(前回:3回)とこちらも上方修正された。

最後に長期見通しは2.8%(前回:2.6%)と前回から+0.2%上方修正された。
 
 

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(2024年06月13日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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