2024年06月10日

米雇用統計(24年5月)-雇用者数は市場予想を大幅に上回ったほか、賃金上昇率も前月、市場予想を上回る

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:雇用者数が市場予想を上回る一方、失業率は予想に反して上昇

6月7日、米国労働統計局(BLS)は5月の雇用統計を発表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+27.2万人の増加1(前月改定値:+16.5万人)と+17.5万人から下方修正された前月、市場予想の+18.0万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)を大幅に上回った(後掲図表2参照)。

失業率は4.0%(前月:3.9%、市場予想:3.9%)と前月から+0.1%ポイント上昇、横這いを見込んだ市場予想を上回った(後掲図表6参照)。労働参加率2は62.5%(前月:62.7%、市場予想:62.7%)と前月から▲0.2%ポイント低下、市場予想も下回った(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:賃金の伸びが加速し、早期利下げの可能性は後退

事業所調査の非農業部門雇用者数は5月が前月比+27.2万人と過去1年(23年5月~24年4月)の月間平均増加ペース(+23.2万人)を上回り、足元で雇用増加ペースが再加速したことを示した。

これに対し、家計調査は就業者が前月比▲40.8万人と年初から最大の減少となったほか、労働参加率の低下、失業率の上昇など労働市場が減速していることを示しており、回復を示した事業所調査と対照的な結果となった。家計調査はサンプル数が6万世帯と事業所調査の14.4万社に比べて小さいため変動が大きいほか、サンプル調査結果を加重平均するための人口調節で最近の移民急増を十分反映できておらず、雇用を過少評価している可能性が指摘されており、家計調査の結果を評価する際に注意が必要だろう。

一方、時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比+0.4%(前月:+0.2%、市場予想:+0.3%)と前月、市場予想を上回り賃金上昇圧力の高まりを示した。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 また、前年同月比は+4.1%(前月改定値:+4.0%、市場予想:+3.9%)とこちらも+3.9%から上方修正された前月を4ヵ月ぶりに上回ったほか、市場予想も上回った(図表1)。

このようにみると、5月の雇用統計は家計調査では就業者数の大幅な減少や失業率の増加など労働市場の減速を示したものの、事業所調査では雇用者数の大幅な増加に加え、賃金上昇率が上昇に転じるなど足元で労働市場が再加速している可能性を示唆した。とくに、インフレ動向で注目される賃金上昇率の低下傾向が一服したことでコアサービスインフレが高止まりする可能性が示唆されたため、FRBが早期に利下げを開始する可能性は低下したと言えよう。

3.事業所調査の詳細:医療、政府部門、娯楽・宿泊の伸びが加速

(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+20.4万人(前月:+15.8万人)と前月から伸びが加速した(図表2)。

民間サービス部門の中では、小売業が前月比+1.3万人(前月:+2.3万人)、運輸・倉庫が+1.1万人(前月:+2.0万人)と前月から伸びが鈍化した。一方、専門・ビジネスサービスが+3.3万人(前月:▲0.1万人)と前月からプラスに転じたほか、医療サービスが+6.8万人(前月:+6.0万人)、娯楽・宿泊が+4.3万人(前月:0.7万人)と前月から伸びが加速した。

財生産部門は前月比+2.5万人(前月:横這い)と前月から伸びが加速した。製造業が+0.8万人(前月:+0.6万人)と前月から小幅に伸びが加速したほか、建設業が+2.1万人(前月:横這い)とこちらも伸びが加速した。

政府部門は前月比+4.3万人(前月:+0.7万人)と前月から伸びが加速した。内訳をみると、連邦政府が+0.4万人(前月:+0.2万人)と前月から小幅に伸びが加速したほか、州・地方政府が+3.9万人(前月:+0.5万人)と大幅に伸びが加速した。
前月(4月)と前々月(3月)の雇用増加数(改定値)は前月が+16.5万人(改定前:+17.5万人)と▲1.0万人下方修正されたほか、前々月が+31.0万人(改定前:+31.5万人)と▲0.5万人下方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は▲1.5万人の下方修正となった(図表3)。
 
BLSの公表に先立って6月5日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+15.2万人(前月改定値:+18.8万人、市場予想:+17.5万人)と+19.2万人から小幅下方修正された前月、市場予想を下回った。この結果、ADP社の統計は前月から雇用者数の伸びが大幅に加速した雇用統計とは不整合な結果となった。
 
5月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が34.91ドル(前月:34.77ドル)となり、前月から+14セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.3時間(前月:34.3時間)と前月から横這いとなった。この結果、週当たり賃金は1,197.41ドル(前月:1,192.61ドル)となり、前月から増加した(図表4)。
(図表3)前月分・前々月分の改定幅/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:全体の労働参加率は低下もプライムエイジは上昇

家計調査のうち、5月の労働力人口は前月対比で▲25.0万人(前月:+8.7万人)と前月から大幅なマイナスに転じた。内訳を見ると、失業者数が+15.7万人(前月:+6.3万人)と前月から伸びが加速した一方、就業者数が▲40.8万人(前月:+2.5万人)と前月から大幅なマイナスに転じて労働力人口全体を押し下げた。非労働力人口は+43.3万人(前月:+9.4万人)とこちらは前月から大幅に伸びが加速した。これらの結果、労働参加率は62.5%と▲0.2%ポイント低下した(図表5)。

一方、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率は5月が83.6%(前月:83.5%)と前月から+0.1%ポイント上昇し、02年5月以来の水準となった。男女の内訳は、男性が89.2%(前月:89.1%)と前月から+0.1%ポイント上昇したほか、女性も78.1%(前月:78.0%)と前月から+0.1%上昇した。

失業率は23年8月から24年4月まで3.7%~3.9%の狭いレンジで推移していたが、5月が4.0%となりレンジを上抜けし22年1月以来の水準となった(図表6)。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
5月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は135.0万人(前月:125.0万人)と前月から+10.0万人増加した。一方、長期失業者の失業者全体に占めるシェアは20.7%(前月:19.6%)と前月から+1.1%ポイント上昇した(図表7)。平均失業期間は21.2週(前月:19.9週)とこちらは前月から+1.3週長期化した。

最後に、周辺労働力人口(152.5万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(441.9万人)も考慮した広義の失業率(U-6)4は、5月が7.4%(前月:7.4%)と前月から横這いとなった(図表8)。この結果、通常の失業率(U-3)との乖離幅は+3.4%ポイント(前月:+3.5%ポイント)と前月から▲0.1%ポイント縮小した。
(図表7)失業期間の分布と平均失業期間/(図表8)広義失業率の推移
 
3 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
4 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2024年06月10日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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