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「2024年女性版骨太」が金融業・保険業に迫る男女間賃金格差の是正~旧「一般職」女性のキャリア形成が課題に

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子
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1――はじめに
そこで、2024年女性版骨太で、企業に女性人材の育成を促すと同時に、その進捗を測るための“物差し”として盛り込まれた課題が、「男女間賃金格差の是正」である。具体的には、女性活躍推進法で従業員の男女間賃金格差について公表を義務付ける対象企業を、現在の「常用労働者300人以上」から「101人以上」に拡大するほか、特に男女間賃金格差が大きい業界に対しては、実態把握・分析・課題の整理と、アクションプランの策定を促すことが明記された。また、企業に対して賃金差異の把握・分析を促進するように、賃金差異分析ツールの開発に取り組むことも盛り込まれた。
それでは、対応が迫られる「男女間賃金格差の大きい業界」とはどこだろうか。実は、筆頭が「金融業・保険業」である。2で詳述するが、日本全体だと、女性の平均賃金は男性の平均賃金の4分の3だが、金融業・保険業に限ると、約6割にとどまっており、あらゆる産業の中で最も低いのである。
そこで本稿では、産業別の男女間賃金格差の現状について、政府統計を基に報告し、格差の要因について、先行研究などを基に考察する。そして、金融業・保険業大手の現状と対策について、企業が厚生労働省の「女性活躍推進データベース」で公表している情報から報告し、今後の方向性について検討する。
2――産業別にみた男女間賃金格差
これに準じて、筆者が同調査から、産業別に男女間賃金格差を割り出し、格差が大きい順に、男女別の1か月分の平均賃金や平均年齢、平均勤続年数とともに並べたものが図表2である。この結果、「男女間賃金格差」が16産業のうち最も大きい61.5だったのが、「金融業・保険業」である。因みに男性の平均賃金は49万8,000円、女性の平均賃金は30万6,000円だった。女性の平均賃金の額を見れば、16産業のうち5番目に高いが、男性の平均賃金が全産業の中でも突出して高いため、男女間賃金格差が最も大きくなっている。「金融業・保険業」の平均勤続年数の男女差は4年弱であり、「全体」の平均勤続年数の男女差よりは小さい。
因みに、「男女間賃金格差」が2番目に大きいのは「製造業」の68.2、3番目に大きいのは「卸売業、小売業」の71.1などとなっている。ただし、この男女間賃金格差の値は、単純に男女の平均賃金を比較したものであり、男女の雇用形態や労働時間の違いなどは考慮に入れていない。そこで3では、何が男女間賃金格差を生む要因となっているのかついて、先行研究を基に考察する。
1 同調査でいう「賃金」は、きまって支給される現金給与額のうち、時間外勤務手当や休日出勤手当などを除いたものであり、所得税等を控除する前の額である。
3――男女間賃金格差を生む要因に関する考察
ここからは、男女間賃金格差を生じる要因について考察する。厚生労働省が、学識経験者による研究会の成果を基に、2014年にまとめた「男女間の賃金格差解消のためのガイドライン」では、2でも紹介した賃金構造基本統計調査の2013年のデータを基に、賃金格差の要因分析をした結果が掲載されている(図表3)。これは、図表3の「調整した事項」の列に記載された各項目について、女性と男性を同じと仮定したら、男女間賃金格差がどれぐらい縮小するかを算出したものである。
これによると、女性の「職階」が男性と同じになったと仮定したところ、男女間賃金格差は73.5から83.8となり、10.3ポイント縮小した。同じように、女性の「勤続年数」を男性と同じと仮定したところ、男女間賃金格差は71.3から76.3となり、5ポイント縮小した。つまり、この二つが、男女間賃金格差を生んでいる大きな要因だと考えられる。
逆に、「労働時間」は、男性と女性を同じと仮定しても、男女間賃金格差の縮小幅は1.4ポイントにとどまった。つまり、労働時間の差では、男女間賃金格差の差をほとんど説明できないということになる。同様に、「年齢」や「学歴」、「企業規模」についても、男女が同じになっても、男女間賃金格差は1ポイント前後しか縮小せず、大きな要因ではないと考えられる。「産業」もマイナスとなるため、要因ではないと考えられる。
3-1の分析からは、「職階」(役職)や「勤続年数」の違いが、男女間賃金格差の最も大きな要因であることが示された。しかし、少なくとも勤続年数の男女差は、図表2の通り、「金融業・保険業」が全体より大きいという訳ではない。それでは、産業の中でも特に「金融業・保険業」で男女間賃金格差が大きいのはなぜだろうか。この点について、重要な示唆をしているのが、山口一男(2017)『働き方の男女不平等 理論と実証分析』(日本経済新聞出版社)である。
山口氏は、2009年の経済産業研究所の調査データを用いて、ホワイトカラー正社員に限った男女の所得について分析した。これによると、男性の平均年間所得は530.8万円、女性の平均年間所得は341.1万円で、男性を100とすると女性の値は64.3だった。この所得格差について、要因を分析すると、「学歴、年齢、勤続年数」といった人的資本に関する3変数で、賃金格差の35%が説明でき、「職階と職業」によって41%が説明できることを明らかにした。それらのうち、最も大きな要因が「職階」だったという。
従って、男女間賃金格差の問題は、男女間の「昇進率の不平等」と言うことができ、昇進機会の差を生んでいる理由が何であれ、昇進率を男女同等にしない限り、男女間賃金格差は大きく狭まることはない、と指摘した。ここまでは、職階を男女間賃金格差が最大の要因とした厚労省の分析(3-1)とも整合する。
しかし、山口氏の指摘で最も興味深いのは、これらの変数だけでは説明できない男女格差の要因を明らかにしたことである。その大きな要因が「職業」の男女差、具体的に言うと、ホワイトカラー正社員の女性の大半が、昇給機会や昇進機会の少ない「事務職」に就いているという点である(経済産業研究所の調査のサンプルでは、ホワイトカラー正社員のうち「事務」職に就いていたのは、男性では26.6%だったが、女性では大半の78.3に上った)。
山口氏の分析では、事務職の女性は、事務職の男性に比べても、年齢や勤続年数の長さに対する所得の見返り“年功賃金プレミアム”が小さく、他のホワイトカラー職種と比べても、課長以上の役職に就く割合が著しく低い。さらに、潜在的に男性と同様の多様な事務能力を持っていても、「女性」ということでひとくくりにされ、比較的簡単で責任の少ない仕事に配置されるという日本企業の慣行のために、賃金が低く抑えられている、と説明した。
また、事務職の大部分は、コース別雇用管理制度がある企業では「一般職」だと考えられるため、これまで企業が大半の女性を一般職で採用してきたことが、現在の男女間所得格差の大きな要因となってきたことを示唆した。
(2024年07月08日「基礎研レポート」)

03-3512-1821
- 【職歴】
2002年 読売新聞大阪本社入社
2017年 ニッセイ基礎研究所入社
【委員活動】
2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
2023年度 日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員
坊 美生子のレポート
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