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訪日外国人消費の動向(2024年1-3月期)-円安効果で消費額はコロナ禍前の1.5倍、2倍の国も

生活研究部 上席研究員 久我 尚子
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4――訪日外国人旅行消費額の内訳~訪日中国人観光客の回復でモノ消費は3割へ
次に訪日外国人旅行消費額の内訳について見ると、中国人の「爆買い」が流行語となった2015年5頃は「買い物代」(モノ消費)の割合が約4割を占めて高かったが、その後は「買い物代」は減り、「宿泊費」や「飲食費」、「娯楽等サービス費」(コト(サービス)消費)が増えている(図表5)。この背景には、中国政府が中国人の日本での「爆買い」による中国国内の消費低迷を懸念し、海外で購入した商品(高級腕時計や化粧品など)に課す関税を引き上げた影響や、モノ消費よりもコト消費志向の高い欧米からの訪日客が増えたこと、また、訪日客のリピーターが増えてモノを買うよりも体験を重視する志向が高まったことなどがあげられる。
コロナ禍後にインバウンドが再開して以降は、訪日中国人観光客は回復途上にある一方、欧米など他国からの訪日客が増える中で、2022年(26.3%)や2023年(26.5%)の「買い物代」の割合は4分の1程度に減っている。ただし、訪日中国人観光客の回復傾向が強まる中で、「買い物代」の割合は上昇しており、足元では3割に近づいている(2024年1-3月:29.2%)。
5 「爆買い」は2015年のユーキャン新語・流行語大賞における年間大賞。
回復途上とはいえ、訪日中国人観光客の消費額は既に首位を占めており、インバウンド消費全体に多大な影響を与える。あらためて訪日中国人観光客の消費内訳をみると、コロナ禍前の2019年では「買い物代」(52.9%)が過半数を、足元でも約45%を占め(2024年1-3月:44.7%)、全体と比べて「買い物代」が15%程度高くなっている(図表6)。
なお、2022年以降は調査時期によって「買い物代」の割合のバラつきが大きいが、前述の通り、中国政府による日本旅行の規制の影響で、従来の訪日客と属性が異なるためである。足元では訪日中国人観光客数はコロナ禍前の6割まで回復しているが、今後一層、回復していく中で、中国人だけでなくインバウンド全体で「買い物代」の割合はコロナ禍前の水準まで高まる可能性がある。
訪日外国人旅行消費額の内訳について、国籍・地域による特徴を見ると、中国をはじめとしたアジア諸国ではモノ消費が、欧米諸国ではコト消費が多い傾向がある(図表7)。
なお、モノ消費が圧倒的に多いのは中国(44.7%)で唯一4割を超える。次いで香港(35.3%)、フィリピン(33.9%)、台湾(33.7%)と3割台で続く。一方、コト消費(「宿泊費」や「飲食費」、「交通費」、「娯楽サービス費」)が最も多いのはオーストラリア(86.4%)で、次いでドイツ(84.2%)、カナダ(83.9%)、イタリアおよび米国(83.6%)、スペイン(83.5%)、フランス(82.5%)、英国(81.3%)と8割台で続く。
5――おわりに~強まる需要に対して供給不足による機会損失も、多方面からの生産性向上策に期待
国籍・地域別には、訪日中国人観光客は回復途上にあり、外客数は韓国や台湾に次いで3位にとどまっていたが、消費額で見れば既に首位を占め、全体の約2割を占めていた。また、訪日中国人観光客はコロナ禍前の約6割まで回復しており、特に2023年10-12月から2024年1-3月にかけて改善傾向が強まっていた。また、引き続き円安による日本旅行に対する割安感から、欧米からの旅行客も堅調に増えており、コロナ禍前と比べて一人当たり旅行支出額は2倍前後に増えていた。
また、消費の内訳を見ると、足元ではコト消費が7割、モノ消費が3割を占めるが、モノ消費に旺盛な訪日中国人観光客がコロナ禍前と同程度に回復すれば、モノ消費がさらに増える可能性がある(コロナ禍前の2019年は約35%)。
一方で、今後、リピーターも増え、滞在日数が伸長する中では、モノを買うというよりも、日本ならではの体験をしたいというコト消費の需要が強まっていくと見られる。つまり、宿泊や飲食、娯楽サービスなどのコト消費の内訳を占める様々なサービスに対するバリエーションや質の高さなどの付加価値が一層求められるようになるだろう。特に、娯楽サービス(現地ツアーやテーマパーク、舞台・音楽鑑賞、スポーツ観戦、美術館、温泉やエステ、マッサージ、医療費など)は、現在のところ内訳の6%程度に過ぎないが、今後の伸びしろが期待される。特に日本では他国と比べて、ナイトタイムエコノミーに該当するサービスや富裕層向けの質の高いサービスが不足している6。これらの領域については伸長の余地があり、新たなサービス需要の開拓は、成熟しつつある日本人の消費市場の更なる発展にもつながる。
サービス業では特に人手不足が深刻だが、労働生産性には改善の余地があり、効率的な労働投入(宿泊業などの繁閑の差が激しい業種における地域全体での雇用シェアや物品の共同購入など)や業務の効率化(デジタル化、無人化など)に加えて、付加価値の向上(デジタル化でサービスが同質化する中で文化芸術や地域文化の伝承などを根幹に据えたサービス提供など)などが指摘されている7。
少子高齢化による労働力不足という日本の構造的な課題によって、供給不足による機会損失も生じている。多方面から生産性向上を図る施策が進められることで、インバウンドのみならず、国内の個人消費の底上げも期待される。
6 国土交通省「ナイトタイムエコノミー推進に向けたナレッジ集」(平成31年3月)や株式会社日本総合研究所「平成30年商取引・サービスの適正化に係る事業(日本版ブロードウェイ構想に関する基盤調査)報告書」など。
7 経済産業省「サービス産業×生産性研究会」報告書(2022年3月)
(2024年07月04日「基礎研レポート」)

03-3512-1878
- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
久我 尚子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/04/22 | 家計消費の動向(二人以上世帯:~2025年2月)-物価高の中で模索される生活防衛と暮らしの充足 | 久我 尚子 | 基礎研レポート |
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