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2024年07月08日
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● リベンジ消費はなぜ不発なのか-過剰貯蓄による押し上げ効果はすでに消滅
(下振れが続く個人消費)
新型コロナウイルス感染症の影響で急速に落ち込んだ個人消費は、新型コロナの収束とそれに伴う社会経済活動の正常化に伴い急回復することが期待されていた。しかし、コロナ禍で抑圧されていた消費が一気に拡大する現象、いわゆる「リベンジ消費」は今のところ顕在化しておらず、個人消費の回復ペースは鈍いものにとどまっている。
2023年5月には新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けが5類に変更されたが、GDP統計の民間消費は2023年4-6月期から2024年1-3月期まで4四半期連続で前期比マイナスとなり、逆に停滞色を強めている。
新型コロナウイルス感染症の影響で急速に落ち込んだ個人消費は、新型コロナの収束とそれに伴う社会経済活動の正常化に伴い急回復することが期待されていた。しかし、コロナ禍で抑圧されていた消費が一気に拡大する現象、いわゆる「リベンジ消費」は今のところ顕在化しておらず、個人消費の回復ペースは鈍いものにとどまっている。
2023年5月には新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けが5類に変更されたが、GDP統計の民間消費は2023年4-6月期から2024年1-3月期まで4四半期連続で前期比マイナスとなり、逆に停滞色を強めている。
社会経済活動の正常化にもかかわらず消費が低迷している背景には、言うまでもなく物価高による悪影響がある。しかし、前年比で2%を超える物価上昇は2022年4月に始まっており、そうした中でも2022年度中の個人消費は比較的堅調に推移していた。この背景には、コロナ禍の度重なる行動制限に伴う消費水準の大幅低下、特別定額給付金の給付などの各種支援策によって、家計の貯蓄率が高水準となっていたことがある。

家計貯蓄率はコロナ禍前の2015~2019年平均で1.2%だったが、2020年4月の緊急事態宣言の発令によって消費が急激に落ち込んだこと、特別定額給付金の支給によって可処分所得が大幅に増加したことから、2020年4-6月期に21.1%へ急上昇した。その後、行動制限の緩和による消費の持ち直しや物価高の影響で貯蓄率は低下したが、2022年まではコロナ禍前に比べれば高水準を維持していた。このため、物価高の逆風を受けながらも高水準の貯蓄率を引き下げることにより、個人消費は堅調を維持することができたのである。
しかし、家計貯蓄率は2023年入り後にコロナ禍前を下回る水準まで大きく低下し、2023年7-9月期(▲0.1%)、10-12月期(▲0.3%)には小幅なマイナスとなっている(図表3)。貯蓄率引き下げによる消費押し上げ効果はすでに消滅している。
(実質可処分所得の水準はコロナ禍前よりも低い)
家計貯蓄率がコロナ禍前の水準を下回ったにもかかわらず、実質ベースの消費がコロナ禍前の水準を回復していないのは、実質可処分所得が減少しているためである。
家計貯蓄率がコロナ禍前の水準を下回ったにもかかわらず、実質ベースの消費がコロナ禍前の水準を回復していないのは、実質可処分所得が減少しているためである。

直近(2023年10-12月期)の実質可処分所得(ニッセイ基礎研究所による試算値)は、2019年平均を▲14.3兆円(季節調整済年率換算値、2019年の実質可処分所得比では▲4.7%)下回っている。内訳をみると、雇用者報酬(名目)は順調に伸びているが、物価高による押し下げ幅がそれを上回っている。また、その他所得は特別定額給付金による一時的な押し上げはあったが、雇用者報酬の増加に伴う「所得・富等に課される税」の増加などから、足もとでは実質可処分所得の減少要因となっている。
(積み上がった貯蓄は物価高で目減り)
フローベースの貯蓄はすでにコロナ禍前の水準を下回っているため、貯蓄率の引き下げによるリベンジ消費は今後も期待できない。しかし、家計にはコロナ禍で積み上がった累積的な貯蓄が潤沢にあるはずである。
実際、フローの貯蓄額が積み上がった結果、ストックとしての家計の現金・預金残高も大幅に増加している。家計の現金・預金残高はコロナ禍前から年間10~20兆円ペースで増加し2019年末には1,000兆円を超えたが、コロナ禍における貯蓄額の増加を受けて増加ペースが加速し、直近(2023年10-12月期)では1,100兆円台となっている。コロナ禍前のトレンドからの乖離幅は2022年7-9月期の51.1兆円をピークに徐々に縮小しているが、2023年10-12月期も39.7兆円と高水準を維持している(図表5-1)。
しかし、物価高は所得(フロー)だけでなく金融資産(ストック)の目減りにもつながる。家計の現金・預金残高を消費者物価(2020年基準)で実質化すると、コロナ禍の当初は名目ベースと同様にコロナ禍前のトレンドを上回っていた。実質現金・預金残高のトレンドからの乖離幅は2021年10-12月期に63.6兆円まで拡大したが、その後は物価上昇の影響で急速に縮小し、2023年10-12月期にはトレンドを▲3.0兆円下回った(図表5-2)。
フローでみてもストックでみても、過剰貯蓄が消費を押し上げる力はなくなっている。
フローベースの貯蓄はすでにコロナ禍前の水準を下回っているため、貯蓄率の引き下げによるリベンジ消費は今後も期待できない。しかし、家計にはコロナ禍で積み上がった累積的な貯蓄が潤沢にあるはずである。
実際、フローの貯蓄額が積み上がった結果、ストックとしての家計の現金・預金残高も大幅に増加している。家計の現金・預金残高はコロナ禍前から年間10~20兆円ペースで増加し2019年末には1,000兆円を超えたが、コロナ禍における貯蓄額の増加を受けて増加ペースが加速し、直近(2023年10-12月期)では1,100兆円台となっている。コロナ禍前のトレンドからの乖離幅は2022年7-9月期の51.1兆円をピークに徐々に縮小しているが、2023年10-12月期も39.7兆円と高水準を維持している(図表5-1)。
しかし、物価高は所得(フロー)だけでなく金融資産(ストック)の目減りにもつながる。家計の現金・預金残高を消費者物価(2020年基準)で実質化すると、コロナ禍の当初は名目ベースと同様にコロナ禍前のトレンドを上回っていた。実質現金・預金残高のトレンドからの乖離幅は2021年10-12月期に63.6兆円まで拡大したが、その後は物価上昇の影響で急速に縮小し、2023年10-12月期にはトレンドを▲3.0兆円下回った(図表5-2)。
フローでみてもストックでみても、過剰貯蓄が消費を押し上げる力はなくなっている。
(対面型サービス消費の回復も期待外れ)
社会経済活動の正常化が進むもとでは、外食、宿泊などの対面型サービスが消費の牽引役となることが見込まれていたが、現時点では期待外れとなっている。
総務省統計局の「家計調査」によれば、対面型サービス消費(一般外食、交通、宿泊料、パック旅行費、入場・観覧・ゲーム代)は、最初に緊急事態宣言が発令された2020年4月にコロナ禍前(2019年平均)の2割程度の水準まで急速に落ち込んだ。その後、緊急事態宣言の再発令やまん延防止等重点措置の実施などの行動制限が繰り返されるたびに足踏み状態となったが、均してみれば持ち直しの動きが続いていた。2022年は特別な行動制限が課されなかったことからそのペースが加速する局面もあったが、2023年入り後は横ばい圏の動きとなっている。直近の対面型サービス消費は依然としてコロナ禍前よりも▲10%以上低い水準となっている(図表6)。
対面型サービス消費を世帯主の年齢別にみると、65 歳以上の高齢者は他の年齢層よりも落ち込みが大きかったうえに、その後の持ち直しペースも鈍い。34歳以下の若年層では、2022年以降にはコロナ禍前( 2015~2019 年平均)の水準を上回る月が増えているが、65歳以上の高齢者は一貫して34歳以下、35~64歳の伸びを下回り、足もとでもコロナ禍前を▲20%前後下回る水準にとどまっている(図表7)。 新型コロナはほぼ収束したものの、高齢者は重症化リスクが高いため、感染症への警戒感が依然として強く、外出や対人接触を避ける傾向が他の年齢層に比べて高いことがその背景にあると考えられる。
社会経済活動の正常化が進むもとでは、外食、宿泊などの対面型サービスが消費の牽引役となることが見込まれていたが、現時点では期待外れとなっている。
総務省統計局の「家計調査」によれば、対面型サービス消費(一般外食、交通、宿泊料、パック旅行費、入場・観覧・ゲーム代)は、最初に緊急事態宣言が発令された2020年4月にコロナ禍前(2019年平均)の2割程度の水準まで急速に落ち込んだ。その後、緊急事態宣言の再発令やまん延防止等重点措置の実施などの行動制限が繰り返されるたびに足踏み状態となったが、均してみれば持ち直しの動きが続いていた。2022年は特別な行動制限が課されなかったことからそのペースが加速する局面もあったが、2023年入り後は横ばい圏の動きとなっている。直近の対面型サービス消費は依然としてコロナ禍前よりも▲10%以上低い水準となっている(図表6)。
対面型サービス消費を世帯主の年齢別にみると、65 歳以上の高齢者は他の年齢層よりも落ち込みが大きかったうえに、その後の持ち直しペースも鈍い。34歳以下の若年層では、2022年以降にはコロナ禍前( 2015~2019 年平均)の水準を上回る月が増えているが、65歳以上の高齢者は一貫して34歳以下、35~64歳の伸びを下回り、足もとでもコロナ禍前を▲20%前後下回る水準にとどまっている(図表7)。 新型コロナはほぼ収束したものの、高齢者は重症化リスクが高いため、感染症への警戒感が依然として強く、外出や対人接触を避ける傾向が他の年齢層に比べて高いことがその背景にあると考えられる。
(消費は腰折れリスクの高い状態が続く)
物価高の影響は所得(フロー)だけでなく、コロナ禍で積み上がった金融資産(ストック)の目減りにもつながり、このことがリベンジ消費不発の原因となっている。
過剰貯蓄による押し上げ効果が今後も期待できない中で、個人消費が回復基調を維持するためには、名目賃金の伸びが物価上昇率を上回ることなどから、実質可処分所得が増加することが不可欠である。
2024年の春闘賃上げ率が5%台と33年ぶりの高水準となったことを受けて、名目賃金上昇率は今後伸びが高まることが見込まれる。一方、消費者物価上昇率は2%台の推移が続き、日銀の物価目標である2%を割り込むのは2024年度後半となるだろう。このため、2022年4月から前年比でマイナスが続く実質賃金の伸びがプラスに転じるのは2024年度後半となる可能性が高い。2024年6月に始まる所得・住民税減税による押し上げ効果はあるものの、個人消費は当面腰折れリスクの高い状態が続くだろう。
物価高の影響は所得(フロー)だけでなく、コロナ禍で積み上がった金融資産(ストック)の目減りにもつながり、このことがリベンジ消費不発の原因となっている。
過剰貯蓄による押し上げ効果が今後も期待できない中で、個人消費が回復基調を維持するためには、名目賃金の伸びが物価上昇率を上回ることなどから、実質可処分所得が増加することが不可欠である。
2024年の春闘賃上げ率が5%台と33年ぶりの高水準となったことを受けて、名目賃金上昇率は今後伸びが高まることが見込まれる。一方、消費者物価上昇率は2%台の推移が続き、日銀の物価目標である2%を割り込むのは2024年度後半となるだろう。このため、2022年4月から前年比でマイナスが続く実質賃金の伸びがプラスに転じるのは2024年度後半となる可能性が高い。2024年6月に始まる所得・住民税減税による押し上げ効果はあるものの、個人消費は当面腰折れリスクの高い状態が続くだろう。
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(2024年07月08日「ニッセイ基礎研所報」)

03-3512-1836
経歴
- ・ 1992年:日本生命保険相互会社
・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
・ 2019年8月より現職
・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2018年~ 統計委員会専門委員
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