2024年06月27日

資金循環統計(24年1-3月期)~個人金融資産は前年比146兆円増の2199兆円と大きく増加、企業の資金余剰も急拡大

経済研究部 主席エコノミスト 上野 剛志

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1.個人金融資産(24年3月末):前年比146兆円増、前期末比56兆円増

2024年3月末の個人金融資産残高は、前年比146兆円増(7.1%増)の2199兆円となった。過去最高であった昨年12月末の水準を上回り、5四半期連続で過去最高を更新した1。年間で見た場合、資金の純流入が23兆円あったほか、株高・円安が大きく進んだことで時価変動2の影響がプラス124兆円(うち国内株式等がプラス83兆円、投資信託がプラス21兆円)発生し、個人金融資産残高を大きく押し上げた。
 
四半期ベースで見ると、個人金融資産は前期末(昨年12月末)比で56兆円増と、6四半期連続で増加した。例年、1-3月期は一般的な賞与支給月を含まないことから資金の純流出が進みやすい傾向があり 、今回も5兆円の純流出となった。一方で、この間に内外の株価が大きく上昇し、円安も進んだことで、時価変動の影響がプラス61兆円(うち国内株式等がプラス42兆円、投資信託がプラス9兆円)発生し、資産残高の増加に寄与した(図表1~4)。
(図表1) 家計の金融資産残高(グロス)/(図表2) 家計の金融資産増減(フローの動き)
(図表3) 家計の金融資産残高(時価変動)/(図表4) 株価と円相場の推移(月次終値)
(図表5)家計金融資産残高の伸び率(名目・実質) なお、3月にかけても物価の高い伸びが続いたため、その分個人金融資産の実質的な価値(購買力)は目減りしている。一年間の物価上昇の影響 を加味した実質ベースの個人金融資産の伸びは前年比3.9%増と既述の名目増加率(前年比7.1%増)を大きく下回っている(図表5)。
(図表6)家計の金融資産と金融純資産 また、家計の金融資産(グロス)は、既述のとおり1-3月期に56兆円増加したが、この間に金融負債が6兆円増加したため、金融資産から負債を控除した純資産残高は昨年12月末比49兆円増の1808兆円となった(図表6)。
 
足元の4-6月期については、一般的な賞与支給月を含むことから、例年、資金の純流入が進む傾向がある。また、内外株価はこれまでのところ若干上昇し、円安が進んでいることから(図表4)、時価変動の影響もプラスに寄与しているものと推測される。

従って、6月末にかけて市場が急変しなければ、6月末時点の個人金融資産残高は3月末からさらに増加し、過去最高を更新する可能性が高い。
 
1 今回、2005年以降の計数が遡及改定されている。
2 統計上の表現は「調整額」(フローとストックの差額)だが、本稿ではわかりやすさを重視し、「時価(変動)」と表記。

2.家計の資金流出入の詳細:NISA拡充の影響で投信が大幅増

1-3月期の個人金融資産への資金流出入について詳細を確認すると(図表7)、例年同様、季節要因(賞与の有無等)によって現預金が純流出(取り崩し)となった。

現預金(9.2兆円の純流出・前年同期は10.5兆円の純流出)の内訳としては、季節的な要因もあり、現金(3.3兆円の純流出)、流動性預金(普通預金など・0.8兆円の純流出)、定期性預金(5.1兆円の純流出)ともに純流出となった(図表8)。
(図表7)家計資産のフロー(各年1-3月期)/(図表8)現・預金のフロー(各年1-3月期)
(図表9)家計資産のフロー(4四半期累計フロー)/(図表10)外貨預金・投信(確定拠出年金内)・国債等のフロー
次に、リスク性資産等への投資フロー(時価の変動は含まない)を確認すると(図表7)、まず代表格である株式等が1.2兆円の純流出(前年同期は0.5兆円の純流入)となった。株価が過去最高値圏へ上昇したことで利益確定売りが優勢になったとみられる。一方、NISAの拡充が追い風となり、投資信託への純流入は3.5兆円(前年同期は0.6兆円の純流入)へと大きく拡大した。3.5兆円という純流入の規模は2007年4-6月期以来の水準にあたる。トレンドを見るために4半期累計フローを確認した場合でも(図表9)、投資信託への資金流入拡大が顕著になっている。また、確定拠出年金内の投資信託も堅調な純流入が続いており、1-3月期の純流入は4042億円と過去最高を記録している。

なお、預金金利よりも金利水準が優位にある国債(主に個人向け国債とみられる)や社債などの債務証券(0.4兆円の純流入)についても、規模こそ限定的ながら、5四半期連続の純流入が続いている。

NISAの拡充や長引くインフレによる資産価値の目減りを受けて、家計の資産配分において、従来よりも収益性を重視する動きが強まってきた可能性がある。

3.その他注目点:企業の資金余剰が過去最大に、日銀の国債保有割合はやや低下

(図表11)部門別資金過不足(季節調整値) 1-3月期の資金過不足(季節調整値)を主要部門別にみると(図表11)、民間非金融法人(企業)の資金余剰が14.4兆円と過去最大3を記録した。資源・エネルギー高が一服するなかで価格転嫁が進展したうえ、設備投資が伸び悩んだことなどが余剰拡大の背景にあると考えられる。

一方、家計部門については3.0兆円の資金余剰となった。2四半期ぶりに余剰に転換したが、余剰の水準はコロナ禍前4をやや下回る。物価上昇による実質賃金の押し下げが影響したと考えられる。

なお、政府部門は7.7兆円の資金不足(昨年10-12月期は2.5兆円の資金不足)、海外部門は6.0兆円の資金不足(10-12月期は6.5兆円の資金不足)となっており、それぞれ資金不足が継続している。
(図表12)国債保有シェア 3月末の国債(国庫短期証券を含む)発行残高は1224兆円と、昨年12月末(1222兆円)比でほぼ横ばいとなった。この間に国債の利回りがやや上昇し、時価変動の影響が残高の押し下げに働いた面もある。

最大保有者である日銀の国債保有高は3月末時点で580兆円と昨年12月末から5兆円減少した。金利上昇に伴う時価下落と国債買入れ額の減少が減少の要因となった。この結果、日銀の保有シェアも47.4%と過去最高であった12月末(47.9%)をやや下回った(図表12)。このうち1年超の長期国債に限った場合の日銀のシェアも53.2%と12月末(53.8%))からやや低下したが、引き続き全体の過半を日銀が保有している状態が続いている。
 
3 統計で遡れる2005年4-6月期以降
4 2017~19年における各四半期の平均は4.0兆円の資金余剰
 

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(2024年06月27日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   主席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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