2024年06月11日

貸出・マネタリー統計(24年5月)~マイナス金利解除後、定期預金等への資金流入が鮮明に

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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1.貸出動向:高い伸びを維持

(貸出残高)                                                                  
6月10日に発表された貸出・預金動向(速報)によると、5月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前年比3.38%と前月(同3.50%)からやや低下した(図表1)。低下は2カ月連続ながら、高い伸びが続いている。引き続き、円安進行による外貨建て貸出の円換算額嵩上げの影響もあるが、実勢としても経済活動再開や原材料価格の高止まりに伴う資金需要、M&A・不動産向けの資金需要などが複合的に寄与する形で堅調な推移が続いているとみられる。

業態別では、都銀の伸びが前年比3.96%(前月は4.18%)、地銀(第2地銀を含む)の伸びが同2.89%(前月は2.91%)と共に低下した(図表2)。都銀の伸び率低下は大きめであったものの、外貨建て貸出の嵩上げに加え、M&Aなどに絡む大口案件の寄与がうかがわれ、伸び率は引き続き高水準で推移している。一方、地銀ではゼロゼロ融資(コロナ対応の実質無利子・無担保融資)の返済が重荷になっている面もあるとみられ、緩やかな低下基調にある。
(図表1) 銀行貸出残高の増減率/(図表2) 業態別の貸出残高増減率/(図表3) ドル円レートの前年比(月次平均)/(図表4)貸出先別貸出金
(貸出金利)
3月の新規短期貸出金利は0.54%と前月(0.336%)から大きく上昇し、1年ぶりの高水準となった(図表5)。ただし、当統計は月々の振れが大きいうえ、3月は例年金利が上昇する傾向が強い。移動平均で均してトレンドを見ると、短期貸出金利は2020年以降低位で底這う展開が続いている。

一方、日銀が3月にマイナス金利政策を解除したため、以降の短期市場金利は明確に上昇している。主要行の短期プライムレートは据え置かれたことで全体への影響は限定的とみられるが、4月以降の短期貸出金利はやや上昇する可能性が高い。
 
3月の長期貸出金利は0.918%と前月(0.979%)からやや低下したが、移動平均で見ると、2021年以降、国債利回りの上昇を背景として緩やかな上昇基調にある(図表6)。

日銀が3月にYCC(長短金利操作)を撤廃したほか、追加利上げや長期国債買入れ減額に対する観測の高まりを受けて10年国債利回りは上昇基調にあり、足元では1%の節目を超えている。従って、4月以降の長期貸出金利は引き続き緩やかな上昇トレンドを示す可能性が高いだろう。
(図表5)国内銀行の新規貸出平均金利(短期)/(図表6)国内銀行の新規貸出平均金利(長期)

2.マネタリーベース:円買い介入が押し下げ要因に

6月4日に発表された5月のマネタリーベースによると、日銀による資金供給量(日銀当座預金+市中に流通する紙幣・貨幣)を示すマネタリーベース(平残)の伸び率は前年比0.9%と、前月(同2.1%)から低下した(図表7)。伸び率はコロナオペの回収によって伸びが大きく押し下げられていた昨年7月以来の低水準にあたる。

伸び率低下の主因はマネタリーベースの約8割を占める日銀当座預金の伸び率低下である。為替介入によって当座預金から9.8兆円の資金が吸収されたほか、資金供給要因である国債買入ペースが落ち着いていることで伸びが抑制された(図表8)。

その他の内訳では、貨幣流通高の伸びが前年比▲1.6%(前月は▲1.7%)日銀券発行高の伸び率が同▲1.3%(前月は▲1.0%)とともに前年割れが続いており(図表7)、マネタリーベースの伸び率抑制に繋がっている。キャッシュレス化の進展に加え、紙幣ではインフレによるタンス預金の目減り懸念等により、一部で現金離れが進んでいるものと考えられる。
 
なお、季節性を除外した季節調整済み系列(平残)で見ても、5月のマネタリーベースは前月比8.6兆円減と2022年10月以来の減少幅を示している(図表10)。
(図表7)マネタリーベースと内訳(平残)/(図表8)日銀の国債買入れ額とコロナオペ(月次フロー)/(図表9)マネタリーベース残高の伸び率/(図表10)マネタリーベース残高と前月比の推移

3.マネーストック:定期預金等への資金流入が鮮明に

6月11日に発表された5月分のマネーストック統計によると、金融部門から市中に供給された通貨量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比1.86%(前月は2.22%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同1.31%(前月は1.60%)と、ともに2カ月連続で大きく低下した(図表11)。
 
M3の内訳では、前月同様、最大の項目である預金通貨(普通預金など・前月4.2%→当月3.3%)の伸びが急低下し、全体の伸び率低下に繋がった。また、キャッシュレス化の波を受ける現金通貨(前月▲0.8%→当月▲1.1%)のマイナス幅が拡大したことも全体の伸びを抑制した(図表12)。
(図表11) M2、M3、広義流動性の伸び率/(図表12) 現金・預金の伸び率
(図表13)準通貨の伸び/(図表14) 店頭表示預金金利(300万円未満)
一方、定期預金などの準通貨(前月は前年比▲1.0%→当月は同▲0.1%)のマイナス幅が大きく縮小したことが、全体の伸び率の下支えとなった(図表13)。前月比で見ると4月以降2カ月連続で3兆円を超える増加を見せている。

準通貨は超低金利を背景に長期にわたって減少傾向が続いてきたが、足元の反転が鮮明になっている。3月半ばに日銀がマイナス金利の解除など金融政策の正常化に踏み切ったことを受け、多くの銀行が預金金利の引き上げに動いた(図表14)。相対的に金利引き上げ幅が大きかった中長期物を中心に、現金や普通預金などから定期預金への資金流入が進んだとみられる。
 
なお、広義流動性(M3に投信や外債といったリスク性資産等を加算した概念)の伸び率は前年比3.33%(前月は2.69%)と大幅に上昇した(図表11)。

内訳では、既述の通り、M3の伸びが低下したほか、投資信託(私募やREITなども含む元本ベース、前月▲0.8%→当月▲2.8%)の伸び率も低下したが、規模の大きい金銭の信託(前月8.5%→当月13.6%)が急伸し、広義流動性の伸び率を大きく押し上げた。また、国債(前月1.9%→当月3.7%)、外債(前月2.9%→当月4.2%)の伸び率上昇も追い風となった。
 
 

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(2024年06月11日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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