2024年06月25日

認知症基本法はどこまで社会を変えるか-当事者参加などに特色 問われる自治体や事業者の取り組み

保険研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 三原 岳

文字サイズ

■要旨

認知症の人が安心して暮らせるための国や自治体の責務などを定めた「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」(通称、認知症基本法)が2024年1月に施行された。この法律では、認知症の人が尊厳と希望を持って暮らせるようにするため、認知症施策の推進に関わる国や自治体の責務を規定したほか、認知症の人の社会参加機会の確保とか、医療や福祉サービスの充実、接遇改善に関する事業者の役割なども盛り込まれた。

さらに、同法に基づき、国が「認知症施策推進基本計画」を定めることになっており、秋頃の策定に向けて、認知症の人や医療・介護業界関係者や自治体関係者、有識者などが加わる「認知症施策推進関係者会議」で検討が進んでいる。

この法律の特徴の一つとして、認知症の人が制定過程に参画した点を指摘できる。具体的には、超党派の議員連盟で条文の検討が進んだ際、認知症の人の意見を聞くなど丁寧な合意形成プロセスが採用された。

しかし、この法律に限らず、議員立法による基本法では具体的な施策が盛り込まれないのが通例であり、今後の施策展開を考える上では、政府が検討している認知症施策推進基本計画の内容が重要になる。さらに、認知症の人の暮らしを支える上では、自治体の主体性が必要になるほか、接遇改善などでは事業者の積極的な貢献も求められる。本稿では、認知症基本法の制定過程や内容を考察した上で、その意味合いや関係者に期待される役割など検討する。

■目次

1――はじめに~認知症基本法はどこまで社会を変えるか~
2――認知症基本法の経緯と内容
  1|当初は与党主導、その後は超党派に
  2|認知症基本法の内容
  3|認知症基本法の意味合い
3――認知症基本法の条文の変化
  1|第1条の目的規定
  2|第3条の基本理念の変化
4――今後の論点
  1|国による計画策定
  2|問われる自治体の取り組み
  3|事業者の工夫も必要
5――おわりに

(2024年06月25日「保険・年金フォーカス」)

Xでシェアする Facebookでシェアする

保険研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

三原 岳 (みはら たかし)

研究・専門分野
医療・介護・福祉、政策過程論

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     1995年4月~ 時事通信社
     2011年4月~ 東京財団研究員
     2017年10月~ ニッセイ基礎研究所
     2023年7月から現職

    【加入団体等】
    ・社会政策学会
    ・日本財政学会
    ・日本地方財政学会
    ・自治体学会
    ・日本ケアマネジメント学会

    【講演等】
    ・経団連、経済同友会、日本商工会議所、財政制度等審議会、日本医師会、連合など多数
    ・藤田医科大学を中心とする厚生労働省の市町村人材育成プログラムの講師(2020年度~)

    【主な著書・寄稿など】
    ・『必携自治体職員ハンドブック』公職研(2021年5月、共著)
    ・『地域医療は再生するか』医薬経済社(2020年11月)
    ・『医薬経済』に『現場が望む社会保障制度』を連載中(毎月)
    ・「障害者政策の変容と差別解消法の意義」「合理的配慮の考え方と決定過程」日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク編『トピック別 聴覚障害学生支援ガイド』(2017年3月、共著)
    ・「介護報酬複雑化の過程と問題点」『社会政策』(通巻第20号、2015年7月)ほか多数

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【認知症基本法はどこまで社会を変えるか-当事者参加などに特色 問われる自治体や事業者の取り組み】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

認知症基本法はどこまで社会を変えるか-当事者参加などに特色 問われる自治体や事業者の取り組みのレポート Topへ