コラム
2024年06月24日

エスコンフィールドHOKKAIDO×ラーメン-消費の交差点(6)

生活研究部 研究員 廣瀬 涼

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本コラムのポイント

1――エスコンフィールドHOKKAIDOでの反省

先日、贔屓にしている球団と北海道日本ハムファイターズとのセ・パ交流戦を観戦するために2023年に開場したばかりの「エスコンフィールドHOKKAIDO」に足を運んだ。日本初の開閉式屋根付き天然芝球場であるという事や、世界初の球場内温泉・サウナ施設が設営されているという事もあり、開場前から話題であった当施設。筆者も最新設備やグルメを堪能しようと大いに期待していた。しかし、筆者はそこで一消費者として大いに反省させられる経験をした。

2――せっかく北海道に来たんだから

スタジアム内ではバラエティ豊富な球場グルメが提供されているが、北海道がお膝元という事もあり、北海道ローカルフードのザンギ(北海道風唐揚げ)やジンギスカン、北海道発祥のチェーン店や、北海道産を中心に厳選した食材を使用した海鮮丼など、北海道グルメが集結している。ザンギ、ジンギスカンときたら忘れてはいけないのがラーメンだ。札幌近郊に所在する新千歳空港内の「北海道ラーメン道場」には、道内の有名ラーメン店が並んでいる。エスコンフィールドHOKKAIDOが立地している北広島市も、新千歳空港同様に札幌から1時間圏内であり、筆者は当然のように札幌味噌ラーメンがあることを期待していたが、スタジアム内に出店しているラーメン店のラインナップを見ると、大阪、京都、東京、愛知などから出店しており、北海道系のラーメン店の店舗数より圧倒的に多かったのだ。「せっかく北海道に来たんだから、北海道ラーメンが食べたかったなー」と独り言をつぶやいたのだが、その直後、自分がどれだけ東京中心の見方をしていたか認識することになった。

3――来場者の7割は道内から

確かに我々北海道外からくるファンからすれば球場は観光先のひとつであり、当然そこには北海道らしさを求めてしまう。しかし、冷静に考えればそこは、北海道を拠点とする北海道日本ハムファイターズのファンが足を運ぶ場所であり、来場者の中心は北海道在住の人々である。株式会社ファイターズの2023年度の年度報告によれば来場者の72.3%は道内からであったという1
図1 道内・道外の来場者比率
例えば、北海道の小中高生の5%(計 339 校、23,000 名)ほどが F ビレッジ(エスコンフィールドHOKKAIDOを含む一帯のエリア)に訪れており、課外学習の主要な訪問先となっていたり、施設別の道内・道外比率をみると「こどもの遊び場」では70%(道外30%)と道内在住者が中心に利用していることがわかる2。また、全体の来場者の内、野球観戦以外の来場者が42%を占めていることも特徴的だ。球場内外にドッグランやペットシート、クラフトビールを扱うブルワリーレストラン、温泉・サウナ、キャンプ場などを設けているため、試合のない日でも平日4500人、休日1万500人規模の来場者があり、野球に興味がない層にとっての「行楽地」にもなっている。地方在住の消費者が休日になんとなくイオンなどの大型ショッピングモールに足を運ぶように、近隣住民にとってはちょっとしたドライブや、なんとなく行く場所になりつつあり、他のエリアの道民にとっても気軽に行ける観光地となっている。また、クリスマスには音楽祭が開かれるなど、野球シーズンがオフの時にもイベントがある。いくらエスコンフィールドが話題だからと言って、わざわざ道外から試合のない日やシーズン外に野球場まで足を運ぶのは野球ファンくらいで少数だろう。

北海道経済部観光局観光振興課の「令和4年度北海道観光入込客数調査報告書」によれば、北海道観光を行った道内客は3,756万人、道外客は404万人であり、北海道を観光する旅行者の約9割は道内客である3。2023年10月25日に札幌市で行われた「まちづくりメイヤーズフォーラム」で、プロジェクトを牽引してきたファイターズスポーツ&エンターテイメント(S&E)取締役事業統轄本部長の前沢賢氏が道内外、国内外問わず集客を目指すことを強調はしているが4、実態をみると、北海道民にとって魅力的な施設づくりに注力すべきだ。そのように考えれば、北海道民の消費者にとっては、北海道ラーメンをわざわざ野球場で食べる動機は生まれにくく、それよりも彼らにとって地理的に行きづらい東京を始めとした他の都市のグルメを楽しみたいと思うのは当然である。
 
1 株式会社ファイターズ スポーツ&エンターテイメント「HOKKAIDO BALLPARK F VILLAGE ANNUAL REPORT 2023」2024/01/24 https://data.hkdballpark.com/private/pdfs/240124_HOKKAIDO%20BALLPARK%20F%20VILLAGE%20ANNUAL%20REPORT2023-1.pdf (2024年6月19日閲覧)
2 株式会社ファイターズ スポーツ&エンターテイメント「HOKKAIDO BALLPARK F VILLAGE REPORT ‐Autumn 2023-」2023/10/13 https://www.fighters.co.jp/cmn/images/news/2023/10/FVILLAGEREPORT_2023.pdf (2024年6月19日閲覧)
3 北海道経済部観光局観光振興課「令和4年度北海道観光入込客数調査報告書」令和5年(2023年)9月 https://www.pref.hokkaido.lg.jp/fs/9/1/0/2/9/2/5/_/%E5%8C%97%E6%B5%B7%E9%81%93%E8%A6%B3%E5%85%89%E5%85%A5%E8%BE%BC%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E5%A0%B1%E5%91%8A%E6%9B%B8(R4_%E6%9C%AC%E7%B7%A8).pdf
4 栗田洋子「「まちづくりメイヤーズフォーラム」リポート(1)半年で300万人が訪れた「北海道ボールパークFビレッジ」の戦略 まちづくりへの関わり方をキーパーソン・前沢賢氏が語る」新・公民連携最前線 2023/12/20 https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/report/121100383/?P=1

4――“向け”

筆者自身地方出身という事もあり、幼少期から東京在住でないことで消費機会においても情報においても格差が存在していると感じていた。当然のように最新の流行は東京で生まれ、どんなものでも東京では手に入る。テレビや雑誌の情報の中心は東京で、ブラウン管に映し出される「おいしそうだな」「観てみたいな」と思うモノのほとんどが東京にしかなく、東京に憧れがあった。そしていざ上京してみれば、思い描いていたとおり、情報の中心は東京であり、欲しいと思ったものは何でも売っている消費の中心であり、そこに長く身を置くことで、東京と同化し、東京中心の考え方に陥っていた。そのような考え方が、私に「北海道の球場には道外から来た人のために北海道ラーメンの店舗が充実しているはず」という視野の狭い厚顔な考えに行きつかせたのだろう。

我々消費者は日常の購買経験の中で「なんで○○何だろう」「どうせなら○○すればいいのに」といった願望と裏合わせの失望や疑問を持つことがある。その商品やサービスが自分にとっては不便だったり、非合理的に感じるからである。しかし、それは往々にして、自分(自分のようなターゲット)を想定して市場に導入されているわけではなく、大概他の層を意識して導入されている「Not For You」な商品やサービスなのである。もちろん、提供者や販売者は通常どのような消費者にも分け隔てなくそれを提供してくれるわけで、結局消費する側がそれは自分「向け」なのか判断する必要がある。自分向けではないモノに対して不満を持つのはお門違いと言えよう。

極論を言えば対象年齢6歳以上のパズルを大人がやって「なんでこんなに簡単なんだ」と不満を持つのと変わらない。明らかに女性活動人口が多い街のカフェで提供された料理の量が少なくとも、それは彼女たちの需要に合わせた量であり、大食漢の消費者のニーズは最初から考慮されていないのと同じだ。高級ホテルのラウンジのコーヒーの金額が高いと不満を持ったならそれは、ただその人向けでないだけの話なのである。大抵の場合店は客を選ぶことはできないため、店側の意図とは異なる消費がなされ、店側にとって理不尽なクレームに繋がることがある。提供する側が「誰に消費してもらいたいのか」検討することは当然であるが、消費する側も「それは誰に消費してもらいたいモノなのか」を考える事で、消費した際のミスマッチが生まれにくくなる。

「誰がターゲットなのか」というマーケティングの基本を、消費者側からも意識する必要性があるという事を改めて認識できた北海道旅行であった。

(2024年06月24日「研究員の眼」)

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生活研究部   研究員

廣瀬 涼 (ひろせ りょう)

研究・専門分野
消費文化論、若者マーケティング、サブカルチャー

経歴
  • 【経歴】
    2019年 大学院博士課程を経て、
         ニッセイ基礎研究所入社

    ・令和6年度 東京都生活文化スポーツ局都民安全推進部若年支援課広報関連審査委員

    【加入団体等】
    ・経済社会学会
    ・コンテンツ文化史学会
    ・余暇ツーリズム学会
    ・コンテンツ教育学会
    ・総合観光学会

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