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TikTokの依存性問題-TikTokはEUのDigital Services Actに違反したか。

保険研究部 取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登
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1――はじめに
続いて2024年4月22日、欧州委員会は同じくTikTokに対して、別の件でDSAに違反しているかどうかの検証手続を開始したことを公表した。これはフランスとスペインでサービスが開始された、TikTok Liteにかかわるものである。
TikTokは広く知られていると思うが、中国のByteDanceが運営するショート動画に特化したアプリである。また、TikTok Liteはアプリ内で動画を視聴したり、動画に「いいね」を押したり、友人を招待する「タスク」を行うとポイント(アワード)がたまり、ポイントはAmazonギフト券などと交換できるTikTokのサービスである。
2――DSAとは
DSA規制をごく簡単にまとめると、仲介サービス提供者(ネット上での情報のやり取りを仲介する事業者、FacebookやInstagramなど)は、自社のプラットフォームに違法コンテンツが掲載されていても、実際に知らなければ責任を負うことはない。ただし、利用者や信頼できる警告者(Trusted Flaggers)から通知を受けた場合には迅速に削除等の措置を取る必要があるというものである。
今回問題となったTikTokは特に大きなオンラインプラットフォーム(Very Large Online Platform、以下VLOP)に2023年4月25日に指定されている。VLOPにはDSAの中でも特別な規定が適用されることとなっている。具体的には、システミックリスクを管理(34条)し、かつ抑制(35条)しなければならないとなっている。
ここでシステミックリスクとはさまざまなものが指定されているが、たとえば「人間の尊厳、個人的・家族生活への尊重、個人情報保護、メディアの自由と多元性を含む表現と情報の自由、差別禁止、子どもの権利、高水準の消費者保護といった基本的な権利に与える現実あるいは予測可能な悪影響」(34条1項(b))がその一つとして挙げられている。
1 詳細は基礎研レポート「EUのデジタルサービス法施行-欧州における違法コンテンツへの対応」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=74016?site=nli 参照。
3――EUでの調査
2024年2月19日に公表された手続をここでは第1次調査と呼ぶこととする。第1次調査で問題とされているのは、以下の4点である。
(1) TikTokのアルゴリズムを含む設計(design)から生ずる実際あるいは予見できる悪影響(negative effect)という観点から、システミックリスクの評価とそのリスク低減措置に関する義務が遵守されていたか。特にTikTokの設計が、利用者の依存性を刺激し、ラビットホール効果2を作り出しているのではないかという点に焦点を当て、評価とリスク低減措置が行われていたかどうか。
ここでの評価とは、潜在的なリスク-身体および精神の安寧(well-being)という根源的権利の行使、こどもの権利の尊重、過激思想化する過程への影響-に対処するものでなければならない。
そしてこのような諸点に関するリスク低減措置、このうち特に不適切なコンテンツに未成年者がアクセスすることを防ぐためにTikTokが利用する年齢認証ツールは、合理的、比例的(proportionate)かつ効果的ではない可能性があると欧州委員会は指摘している。
(2) DSAは未成年者における高度なプライバシーやその安全を確保するために適切で比例的な措置を導入することを求めている。特にDSAは未成年のプライバシーに関して適切な初期設定がなされること等を求めているが遵守されているか。
(3) DSAは、VLOPであるTikTokで表示された広告については、検索可能で信頼できる保管を行わなければならないことを要求しているが遵守されているか。
(4) DSAは、研究者がVLOPであるTikTokの公開データにアクセスできるようにすることを要求する。しかし、研究者のデータアクセスに支障をきたしている疑いがあると欧州委員会は指摘する。
これらから、欧州委員会がこどものTikTokへの依存性について強く危機感を有していることがわかる。
2 ラビットホール効果とは、ウサギの穴に深く落ち込んで出られなくなる効果のことを言う。
2024年4月22日に公表された調査をここでは第2次調査と呼ぶ。第2次調査ではTikTok Liteがフランスとスペインでサービス開始する際に、DSA違反があったのではないかという点について調査を行うこととされた。
上述の通り、TikTok Liteでは動画視聴など「タスク」を行うとポイントがつき、これを「タスクアンドリワードプログラム」と呼ぶ。このサービスがもたらすリスク、特にプラットフォームの依存的効果に関連するリスクを事前に真摯に評価することなく、また効果的なリスク低減措置を講じることなく開始されたのではないかと欧州委員会は指摘している。第2次調査では以下の点を確認することとされている。
(1) システミックリスクに致命的な影響を与える可能性の高いタスクアンドリワードプログラムを展開する前に、リスクアセスメント報告書を実施・提出するというDSAの義務をTikTokが遵守していたかどうか。特にこのサービスは依存行動を刺激するため、未成年を含むメンタルヘルスに悪影響を及ぼす可能性が高いと欧州委員会は指摘する。
(2) 上記(1)についてリスク低減措置を取ったかどうか。
4――おわりに
TikTokを含むSNSの依存性については広く問題視され、上記日経記事によると米国では「7割の州でこどもがSNSアカウントを持つことを禁じたり、保護者の同意を義務付けたりする州法の制定に動く」との状況である。
また、気になるのがエコーチェンバー効果である。SNSでは自分と同じ意見や考えを持つユーザーをフォローしがちである結果、小部屋で音響が反響するように同じ意見ばかりに触れることになり、思考が偏向する。これをエコーチェンバー効果という。TikTokは依存性が高いと見られており、教育や政治的、その他様々な点について極端な意見を持つ集団が醸成されるのではないかという懸念がある。
日本では依存性のあるネットサービスを取り締まる法律はない。したがって立法によって解決するほかはないが、筆者の知る限り、そのような動きは見えてこない。米国では連邦ベースでもTikTok規制の動きがある。日本はどうするか、今後の動きを注視したい。
(2024年06月10日「基礎研レター」)
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03-3512-1866
- 【職歴】
1985年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
2018年4月 取締役保険研究部研究理事
2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
2025年4月より現職
【加入団体等】
東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等
【著書】
『はじめて学ぶ少額短期保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2024年02月
『Q&Aで読み解く保険業法』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2022年07月
『はじめて学ぶ生命保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2021年05月
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