2024年06月05日

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今年1月に弊社が実施した「不動産市況アンケート1」(以下、弊社アンケート)において、「不動産投資市場全体(物件売買、新規開発、ファンド組成)の現在の景況感」について質問したところ、プラスの回答(「良い」と「やや良い」の合計)が約6割、「平常・普通」が約3割、マイナスの回答(「悪い」と「やや悪い」の合計)が約1割となった(図表1)。前回調査(2023年初)から大きな変化はなく、プラスの回答が半数以上を占める結果となった。
 
不動産投資市場では良好な景況感が維持されるなか、不動産価格の上昇が継続するとの見方が増えている。弊社アンケートにおいて、「東京の不動産価格のピーク時期」について質問したところ、「東京の不動産価格のピーク時期」について、「2023年あるいは現時点(既に価格はピーク)」(35%)との回答が最も多く、次いで「2024年」(30%)、「2025年」(25%)との回答が多かった。前回調査では、2023年中にピークアウトするとの見方が約8割を占めていたことから、価格のピーク時期に対する見解がやや後ろ倒しされる結果となった。

こうした情勢を背景として不動産利回りが一段と低下している。J-REITの開示データをもとに、東京中心部に所在する大規模オフィスビルの還元利回り(以下、キャップレート)を推計すると、2023年は、前年比▲0.1%低下の2.8%となり、過去最低水準を更新した(図表2)。同様に、東京中心部に所在する住宅のキャップレートも大きく低下しており、2023年は3.1%(前年比▲0.2%)となった。
図表1:不動産投資市場全体の現在の景況感、図表2:オフィスと住宅のキャップレート推移(東京中心部)
ただし、キャップレートの低下が進むなか、投資不動産の選別が進んでいる点に留意が必要である。弊社の推計によれば、オフィスビルに関して「築浅物件」と「築古物件」のキャップレート格差は、キャップレートの低下が始まった2011年と比較して、「築年数20年以上」と「築年数5年未満」の格差は約40bp、「築年数10年以上20年未満」と「築年数5年未満」の格差は約+20bp拡大した(図表3)。
 
日本政策投資銀行・価値総合研究所「オフィスビルに対するステークホルダーの意識調査2023」によれば、オフィスビルの選択において築年数の重要度が高いとの回答は、中堅・中小企業で27%、大企業で45%に達している。多くの企業は従業員満足度やエンゲージメントの向上を目指して、建物設備のグレートアップ等オフィス環境の整備に取り組んでいる。こうした状況を踏まえて、不動産投資家は築年数により投資物件を選別していると推察される。
 
ところで、弊社アンケートにおいて、「不動産投資市場への影響が懸念されるリスク」について質問したところ、「建築コスト」(68%)との回答が最も多く、次いで、「国内金利」(59%)、との回答が多い結果となった。建築物価調査会「建築費指数」によれば、資材価格の高騰や労務費の上昇などにより、「事務所」の建築費(2023年平均)は前年比+7%、「集合住宅」は前年比+8%と上昇が続いている。国内金利についても、日本銀行は2024年3月の金融政策決定会合で、マイナス金利政策の解除と長短金利操作(YCC)の撤廃を決定した。
 
コロナ禍を経ても、堅調に推移してきた不動産投資市場だが、今後は、建築コストの上昇や、金融政策の変更に伴う金利上昇が及ぼす影響等、市場動向の変化をこれまで以上に注視することが求められる。
図表3:築浅物件と築古物件とのキャップレート格差(オフィス)、図表4:不動産投資市場への影響が懸念されるリスク

(2024年06月05日「ニッセイ年金ストラテジー」)

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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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【キャップレートの低下が継続するなか、投資不動産の選別が進む】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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