2024年05月10日

東京オフィス市場は調整局面を脱する。ホテル市場は一段と改善-不動産クォータリー・レビュー2024年第1四半期

金融研究部 不動産調査室長 岩佐 浩人

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(2) 賃貸マンション
東京23区のマンション賃料は、全ての住居タイプが前年比でプラスとなった。三井住友トラスト基礎研究所・アットホームによると、2023年第4四半期はシングルタイプが+3.5%、コンパクトタイプが+3.7%、ファミリータイプが+5.2%となった(図表-11)。
図表-11 東京23区のマンション賃料
総務省によると、2024年1-3月累計の東京23区の転入超過数は+41,566人(2019年同期比+5%)となりコロナ禍前の水準を上回った(図表-12)。都市部への人口回帰を受けて住宅需要が高まるなか、賃料が上昇している。
図表-12  東京23区の転入超過数(年間、2024年は1月~3月累計)
(3) 商業施設・ホテル・物流施設
商業セクターは、百貨店を中心にインバウンド消費が好調で施設売上が増加している。商業動態統計などによると、2024年1-3月の小売販売額(既存店、前年同期比)は百貨店が+10.3%、スーパーが+3.8%、コンビニエンスストアが+2.3%となった。3月単月では、百貨店が+9.8%(25カ月連続プラス)、スーパーが+5.1%(18カ月連続プラス)、コンビニエンスストアが+0.4%(4カ月連続プラス)となっている(図表-13)。
図表-13 百貨店・スーパー・コンビニエンスストアの月次販売額(既存店、前年比)
ホテル市場は、インバウンド需要が牽引し宿泊者数はコロナ禍前の水準を上回って推移し、ホテル収益も大幅な改善を示している。宿泊旅行統計調査によると、2024年1-3月累計の延べ宿泊者数は2019年対比で+8%増加し、このうち日本人が+3%、外国人が+27%となった(図表-14)。また、STR社によると、3月のホテルRevPARは2019年対比で全国が+30%、東京が+48%、大阪が+24%と大きく上昇している。
図表-14 延べ宿泊者数の推移(2019年同月比、2020年1月~2024年3月)
物流賃貸市場は、首都圏では新規供給の影響を受けて空室率が一段と上昇している。シービーアールイー(CBRE)によると、首都圏の大型マルチテナント型物流施設の空室率(2024年3月末)は9.7%(前期比+0.4%)と、2012年以来12年ぶりの高水準となった(図表-15)。外縁部を中心に空室の消化に時間を要しており、来期の新規供給のプレリーシングが現時点で30%程度の進捗であることから、空室率は10%を超える可能性もあるとのことである。一方、近畿圏の空室率は5.3%(前期比▲0.7%)に低下し、空室は一部の物件や一部の地域に限られている。

また、一五不動産情報サービスによると、2024年1月の東京圏の募集賃料は4,620円/月坪(前期比+0.4%)に上昇した6
図表-15 大型マルチテナント型物流施設の空室率
 
6 J-REITが所有する物流施設は賃料の増額改定が続いている。GLP投資法人(2024年2月期)の満期更改時賃料上昇率は+7.2%、日本プロロジスリート投資法人(2023年11月期)の改定賃料変動率は+4.2%であった。

4.J -REIT(不動産投信)市場

4.J -REIT(不動産投信)市場

2024年第1四半期の東証REIT指数(配当除き)は昨年12月末比▲0.7%下落した。セクター別では、オフィスが▲2.7%下落する一方、住宅(+4.5%)と商業・物流等(+0.2%)は上昇した(図表-16)。金融政策正常化に伴う金利の先高観に加えて、需給面では新NISAを契機としたJリート投信(毎月分配型)からの資金流出が響き、東証REIT指数は一時2020年11月以来の安値水準に下落した。その後は期末にかけて反発したものの、株式市場(TOPIX+17.0%)の上昇率を大きく下回った。3月末時点のバリュエーションは、純資産11.9兆円に保有物件の含み益5.4兆円を加えた17.3兆円に対して時価総額は15.3兆円でNAV倍率7は0.89倍、分配金利回りは4.4%、10年国債利回りに対するイールドスプレッドは3.7%となっている。
図表-16 東証REIT指数の推移(2023年12月末=100)
また、J-REITによる第1四半期の物件取得額は5,091億円(前年同期比+39%)と大幅に増加した。アセットタイプ別では、オフィス(36%)・物流施設(28%)・住宅(17%)・ホテル(9%)・底地ほか(8%)・商業施設(3%)となり、オフィスと物流施設が全体の6割強を占めている(図表-17)。
図表-17 J-REITによるアセットタイプ別取得割合
ニッセイ基礎研究所は、3月にJ-REIT市場の分配金見通しを発表した8。2024年はプラス成長を維持するものの、借入金利の上昇が下押し要因となり、今後5年間の分配金成長率は▲5%となる見通しである。今後の「金利のある世界」「インフレのある世界」を前提にすると、J-REIT各社には金利とインフレに打ち克つ内部成長の実現が求められる。保有不動産のバリューアップを通じた賃料水準の引き上げや資本コストを意識したマネジメント力の発揮に期待したい。
 
7 NAV倍率は、市場時価総額がリートの解散価値(NAV:Net Asset Value)の何倍で評価されているかを表わす指標。
8 岩佐浩人『J-REIT市場の動向と収益見通し。借入金利上昇を背景に今後5年間で▲5%減益を見込む~シナリオ別の分配金レンジは「▲18%~+7%となる見通し~』
 
 

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(2024年05月10日「不動産投資レポート」)

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金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人 (いわさ ひろと)

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

経歴
  • 【職歴】
     1993年 日本生命保険相互会社入社
     2005年 ニッセイ基礎研究所
     2019年4月より現職

    【加入団体等】
     ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

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