2024年05月02日

為替介入再開、既に連発か?~状況の整理と今後の注目ポイント

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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2.日銀金融政策(4月)

(日銀)現状維持
日銀は4月25~26日に開催した金融政策決定会合(以下、MPM)において、金融政策の現状維持を決定した。なお、声明文の様式はこれまでと一変した。政策金利について、「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0~0.1%程度で推移するよう促す」としたうえで、その他については詳細な記述の代わりに、「なお、長期国債およびCP等・社債等の買入れについては、2024 年3月の金融政策決定会合において決定された方針に沿って実施する」と記載された。

ちなみに、前回3月MPMでは、金融市場調節方針(政策金利の設定)について2名(中村委員と野口委員)、長期国債買入れについて1名(中村委員)の反対票が出たが、今回は全員一致での決定となった。
 
声明文とともに公表された展望レポート(四半期に一度公表)では、消費者物価上昇率(除く生鮮食品)の政策委員大勢見通し(中央値)として、2024年度分を前回1月時点の2.4%から2.8%へ(最近の原油価格上昇が主因とのこと)、25年度分を1.8%から1.9%へとそれぞれ上方修正し、新たに公表した26年度分は2%に程近い1.9%とした。また、レポートの文中では、「消費者物価の基調的な上昇率は、マクロ的な需給ギャップの改善に加え、賃金と物価の好循環が引き続き強まり中長期的な予想物価上昇率が上昇していくことから、徐々に高まっていくと予想され、見通し期間後半には物価安定の目標と概ね整合的な水準で推移すると考えられる」と表記している。

そのうえで、金融政策運営については、「先行きの経済・物価・金融情勢次第であり、この点を巡る内外の経済・金融面の不確実性は引き続き高い」としつつも、「以上のような経済・物価の見通しが実現し、基調的な物価上昇率が上昇していくとすれば、金融緩和度合いを調整していくことになるが、当面、緩和的な金融環境が継続すると考えている」と説明している。
 
会合後の総裁会見において、植田総裁は物価目標達成について、「全般的に物価情勢が上振れてきている」、「見通し達成の確度が上がっている」と前向きに評価。展望レポートで示した物価見通しが「本当に実現していけば、ほぼ持続的・安定的な 2%の物価上昇の実現にかなり限りなく近づく」とし、「特に見通し期間の後半について、この通りの姿になっていくということであれば、そこでは私どもの政策金利もほぼ中立金利の近辺にあるという状態にあるんだろうなという展望は持っている」との見解を示した。

一方で、「基調的物価上昇率はまだ 2%を下回っているというふうに考えていますので、緩和的な金融環境、現実的には今のところは 0~0.1%という短期金利の水準が適当である」と言及した。さらに、利上げの影響は住宅ローンの借り手など広範な経済主体に及ぶことを指摘し、「多様な影響を考慮しつつ、利上げを注意深く、やるんであれば進めていくということになる」と述べた。
 
市場で縮小観測が燻っている長期国債買入れの減額については、将来的な減額を視野に入れていることに触れた後、「今日の会合では 6 兆円で続けるということに関して特に反対は出なかった」、「具体的にいつの時点でということを申し上げられる段階ではない」と回答。国債買入れの幅については、日々のオペにおいて金融市場局がある程度の幅を持って決定し得るとした上で、「長期的にオペの金額を減らしていくという際には、政策委員会で決定して、きちんとアナウンスをして進めていくということになる」と説明した。
 
また、会見では、足元で円安が進んでいることを踏まえ、円安が金融政策に与える影響に関する質問が相次いだ。総裁は、「まず、金融政策は、為替レートを直接コントロールの対象とするものではない」とした上で、「仮に、(中略)基調的な物価上昇率に無視し得ない影響が発生するということであれば、金融政策上の考慮あるいは判断材料となる」との見解を示した。そして、具体例として、「(為替変動が)長期化するという場合、(中略)24 年のインフレ率に影響が出て、来年の 25 年の春闘の賃金上昇率に跳ねるようなことになれば、それは影響が長期化する、あるいは「第二の力」に影響する基調的物価の動きに影響するということになるということ」、「そういう動きが予想できるような状況になれば、それは(25年春闘より)もっと手前で判断できる」と付け加えた。

一方、総裁は、これまでの円安の影響について、「基調的な物価上昇率に(中略)今のところ大きな影響を与えているということではない」とし、記者からの「今回は基調的な物価上昇率への影響は無視できる範囲だったという認識でよいか」との問いに対しても「はい」と答えた。また、円安の影響が現れる輸入物価についても、「21 年から 22 年にかけてものすごい上昇したわけですが、それと比べると足元の上昇はそれほどのものではない」との認識を示した。
展望レポート(24年4月)政策委員の大勢見通し(中央値)/日銀の長期国債買入額と保有残高
(今後の予想)
今回の展望レポートや総裁会見からは、日銀が物価目標の持続的・安定的な達成に向けて徐々に自信を深めている印象を受けた。今後も日銀は追加利上げを模索し続けることになるだろう。

とはいえ、正常化に踏み切ったばかりであるため、当面は慎重に情勢を見定める時間帯になると見ている。その後、今春闘での賃上げ拡大や賃金コストのサービス価格への転嫁がデータとして徐々に確認できるようになり、「賃金と物価の好循環の強まりが確認できた」として、今秋にも追加利上げの条件は概ね整うだろう。しかし、次の利上げは明確なプラス圏への利上げであり、(マイナス金利解除とは違い)短期プライムレートの上昇を通じて既存の住宅ローンや中小企業借入の返済負担増大に繋がる。世論や政治から強い反発や懸念を招く恐れもある。従って、日銀は利上げを正当化できる強い根拠である「来春闘での高めの賃上げ見通し」を待つと見ている。来年1月には、来春闘での高めの賃上げ実現が見通せるようになり、それを決め手として追加利上げに踏み切ると予想している。
 
ただし、日銀は物価目標の持続的・安定的な達成に向けて自信を強めつつあり、金利の正常化意向も感じられることから、利上げが数カ月前倒しされるリスクもある。また、今後も円安に歯止めがかからない場合には、日銀に対して円安抑制のための利上げを求める声が強まり、いずれにせよ将来の利上げを模索している日銀が、後押しされる形で数カ月前倒しで利上げに踏み切る可能性も否定はできない。

3.金融市場(4月)の振り返りと予測表

3.金融市場(4月)の振り返りと予測表

(10年国債利回り)
4月の動き(↗) 月初0.7%台半ばでスタートし、月末は0.8%台後半に。
月初、日銀短観の好調な結果や米金利上昇を受けて、2日に0.7%台後半にやや上昇。その後も日銀の追加利上げ観測や利下げ観測後退に伴う米金利上昇が追い風となり、10日に0.8%へ。翌11日には、米CPIの上振れを受けた米金利上昇に加え、インフレ要因となる円安進行を受けた日銀追加利上げ観測台頭もあり、0.8%台半ばへ水準を切り上げた。その後は中東情勢の緊迫化に伴う安全資産の国債需要でやや下げる場面もあったが、堅調な指標を受けた米金利上昇・円安が金利上昇圧力となり続けた。月終盤には、「日銀が国債買入れ縮小の方法を検討する」との報道を受けて一時0.9%台に乗せたが、MPMで買入れ額が維持されたことで低下し、月末は0.8%台後半で終了した。
日米長期金利の推移(直近1年間)/日本国債イールドカーブの変化/日経平均株価の推移(直近1年間)/主要国株価の騰落率(4月)
(ドル円レート)
4月の動き(↗) 月初151円台半ばでスタートし、月末は156円台後半に。
月の上旬は、原油価格の上昇や米雇用統計の良好な結果を受けたドル高圧力と、円買い介入への警戒が交錯し、151円台での推移が継続。その後、CPIが予想を上振れたことで米利下げ観測が後退し、12日には153円前後に。以降も堅調な米経済指標を背景にドル高圧力が続き、16日には154円台、25日には155円台に乗せた。この間、日本政府は口先介入を連発したほか、日米韓財務相会議の声明で円安懸念に言及するなど円安けん制を続けたが、実弾介入が見送られる中でズルズルと円安が進行。26日のMPMで強い円安けん制が無く、追加利上げへの警戒が後退したことで円安が加速し、29日には一時160円を突破したが、政府が円買い介入に動いたとみられ、月末は156円台後半で終了した。
(ユーロドルレート)
4月の動き(↘) 月初1.07ドル台半ばでスタートし、月末は1.07ドル台前半に。
月初、1.07ドル台で推移した後、パウエルFRB議長の発言がインフレ抑制に楽観的と受け止められたことで、4日に1.08ドル台半ばへ上昇。しばらく1.08ドル台で一進一退となった後、予想を上回る米CPI結果や中東地政学リスクへの警戒を受けてドル高が進み、12日には1.06ドル台半ばまで下落した。その後も米利下げ後ろ倒し観測が燻る中で1.06ドル台での低迷が継続したが、中東地政学リスクに対する警戒感の緩和や予想を上回るユーロ圏の経済指標を受けてユーロがやや戻し、月末は1.07ドル台前半で終了した。
ドル円レートの推移(直近1年間)/ユーロドルレートの推移(直近1年間)
金利・為替予測表(2024年5月2日現在)
 
 

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(2024年05月02日「Weekly エコノミスト・レター」)

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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