2024年04月26日

EUのDMA関連調査開始決定-GAFAそれぞれの問題を指摘

保険研究部 専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

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1――はじめに

2024年3月25日、欧州委員会はGoogle(Alphabet)、Apple、Facebook(Meta)、Amazonの行為について、デジタル市場法(Digital Market Act、DMA)18条(不遵守調査)に基いて、不遵守があるかどうかの調査、その他の情報収集を実施することを決定したと公表した。

DMAは2023年5月に施行されたデジタルプラットフォームに対する規則で、欧州におけるプラットフォーム間の競争可能性(contestability)を確保し、不公正な行為を規制するものである。詳細は基礎研レポート「EUのデジタル市場法の公布・施行 Contestability の確保1をご覧いただきたいが、競争法(欧州機能条約102条)違反を事前に防止することに主眼を置いた規則である。EUにおいて規則とは、指令(Directive)とは異なり、各国で立法しなくとも(この場合では)各国事業者に対して直接に効果が生ずるものである。

2――不遵守調査の対象

2――不遵守調査の対象

1|AlphabetとAppleの誘導ルール(Steering rules)
欧州委員会はAlphabet(Google)とAppleに対して、外部のウェブへの誘導ルールについて調査を開始した。根拠条文は5条4項である。5条4項は「GK(Gate Keeper、上記4社のほかByteDanceとMicrosoftが指定されている)は、ビジネスユーザーがGKのCPS(Core Platform Service、GKの運営するプラットフォームのうち欧州委員会によって指定されたもの)で獲得したエンドユーザーに対して、CPSあるいは他のチャネルを利用して、GK のCPSでの条件と異なる条件で行うことも含め、エンドユーザーとビジネスユーザーとが通信し、勧誘を行って契約を締結することを無料で認めなければならない」とする。

いわゆるアンチステアリング条項に係る条文である。具体的にはAlphabetはAndroid端末のGoogle Play、AppleはiOSのApp Storeというアプリストアからダウンロードしたゲームや音楽のアプリについて、そのアプリのコンテンツをアプリ外で購入し、支払うことができるようにしなければならないというものである。
2|Alphabetの自己優遇防止措置
欧州委員会はAlphabetのGoogle検索結果が、Googleの川上の検索サービス(Google Shopping; Google Flights; Google Hotels)を、競合社の検索サービスよりも優遇しているかどうかを決定するために調査を開始した。

根拠条文は6条5項であり、「GK は GK 自身によって提供されるサービスや製品に関するランキングと、それに関連するウェブサイト索引付与と巡回(indexing and crawling)について、類似する第三者のサービスや商品より有利に取り扱ってはならない。GK はランキング付与等にあたって透明性、公平性および非差別的条件を適用しなければならない」とするものである。
3|Appleの利用者選択義務
欧州委員会は、Appleに対して(1)iOS(Appleのオペレーティングシステム)上のアプリを容易にアンインストールできること、(2)iOS上の既定の設定を容易に変更できること、(3)iPhone上の閲覧ソフトや検索エンジンなどの既定の設定を効果的かつ容易に変更できるように利用者に対して変更画面を自動的に立ち上げることの3点に関して遵守しているかどうかの調査を開始した。

根拠条文は6条3項であり、「OS 上のソフトウェアアプリを技術的に削除可能とすべきであり、エンドユーザーが容易に削除できるようにすべきである。(中略)また、GK は OS 初期設定、特にオンライン検索エンジン、バーチャルアシスタント、ウェブブラウザといった機能であって GK が提供するサービスを利用するように仕向ける設定について、変更することを容認し、かつ技術的に容易に変更できるようにすべきである。(後略)」とするものである。
4|Metaの”pay or consent”
欧州委員会はMetaが最近導入した「支払うか同意せよ」について調査を開始した。

該当条文は5条2項であり「(前略)GKはCPSから得られた個人情報を、他のGKのCPSあるいは第三者のサービスから得られた個人情報と統合してはならない(中略)ただし、これらの義務は他の選択肢を示されたうえで同意をした場合には適用されない。」とするものである。

欧州委員会は個人情報の利用について同意しなければ、金銭支払いを要求する方式は、利用者から真に同意を得ていると言えるのか疑義を抱いている。
5|その他の情報収集事案
欧州委員会は市場調査権限(16条)を利用して、以下の情報収集を開始した。

(1) AmazonはAmazon Storeにおいて自社ブランドの優遇をしているかどうか(6条5項関係、上述)。

(2) Appleの代替アプリストア(App Store以外のアプリストア)への契約項目と条件が6条4項の規制目的を無視したものではないか(6条4項関係)。なお、6条4項は「GKはそのOSを利用または相互運用する第三者のアプリ及びアプリストアをインストールすることを許容し、効果的に利用することを技術的に可能にしなければならない。(後略)」とするものである。

また、欧州委員会はAlphabet、Amazon、Apple、Meta、Microsoftに対して書類保管命令を出した。

さらにMetaのFacebook Messengerについて7条3項の相互運用義務遵守について6か月の延長を許可した。

3――おわりにかえて

3――おわりにかえて

上記のうち、欧州委員会が調査を開始したもの(本文2の1|~4|)については12カ月以内に結論を出す計画である。調査の結果、違反が裏付けられた場合には、欧州委員会はGKに対して暫定的な見解とどうすれば欧州委員会の懸念点を解決できるかの方法について説明を行う。GKは確約計画などで違法状態を解消する機会があるが、最終的にDMA違反認定される可能性がある。

違反と認定された場合には、欧州委員会は全世界売り上げの10%までの制裁金を科すことができる。違反が繰り返された場合には20%までの制裁金を科すことができ、事業売却や買収の禁止などの命令を出すことができる。
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保険研究部   専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴
  • 【職歴】
     1985年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
     2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
     2018年4月 取締役保険研究部研究理事
     2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
     2024年4月より現職

    【加入団体等】
     東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
     東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
     大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
     金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
     日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

    【著書】
     『はじめて学ぶ少額短期保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2024年02月

     『Q&Aで読み解く保険業法』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2022年07月

     『はじめて学ぶ生命保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2021年05月

(2024年04月26日「基礎研レター」)

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【EUのDMA関連調査開始決定-GAFAそれぞれの問題を指摘】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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