2024年04月24日

米国でのiPhone競争法訴訟-司法省等が違法な独占確保につき訴え

保険研究部 専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

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4――Appleの独占力の不当な維持(その1)

1|総論
AppleはiPhoneの成功後、iPhoneそのものの排除(disintermediation)と、iPhoneのコモディティ化(汎用品化)を懸念し始めた。そのため、アプリの作成と配布を利用者のプライバシーやセキュリティ強化の名目でコントロールした。現実にはiPhoneのプラットフォーム手数料やプラットフォームそのものに対する直接的・破壊的な競争を阻止することで、Appleの利益につながる制限を課した。このための努力として、以下の3点が注目される10

第一に、AppleはサードパーティにiPhoneの革新のためにどのようにアプリを配布・構築するかを指示する一方で、Appleの独占力を脅かすような革新を停止または遅延させるために規則と契約上の制限を執行した。

第二に、AppleはiPhone利用者をAppleと競合関係にある製品やサービスから遠ざけた。そのことによりiPhoneから他のスマートフォンへ変更するコストと摩擦を上昇させた。その結果、サブスクリプションサービスやApp Store内の広告、ヘッドフォンやスマートウォッチなどの付属品から莫大な利益を生み出している。

第三に、Appleはこれらの制限を利用して、サードパーティから様々な料金(rent)を、アプリ手数料や収入シェア条項など様々な形で徴収した。過去15年間において、Appleはアプリのダウンロードに30%の報酬を徴収し、アプリ内購入にも30%の税金を課し、そもそものアプリ開発にあたってのツール利用料も徴収した。
 
10 同上
2|スーパーアプリへの制限
長い間、Appleはスーパーアプリを、既存のアプリ配布および構築パラダイム、究極的にはAppleの市場独占力を「根本的に破壊」するものとして利用者に対してアクセスすることを拒否してきた11

スーパーアプリとはインターネット上通常使われる言語で構成されるミニアプリのプラットフォームとして機能するアプリで、どのような機器のどのようなブラウザでも同じように動作するものを指す。そのためサードパーティはiPhoneでもiPhone以外のスマートフォンでも動く単一のアプリを構築することができる(図表5)。
【図表5】スーパーアプリ
なお、スーパーアプリとされるものは日本ではLINEが挙げられる。LINEは元々利用者同士のテキスト交換のためのアプリだが、決済や送金、クーポン、ゲーム、音楽などといったアプリも利用できる。

スーパーアプリは利用者のiPhoneへの依存度を下げる。なぜならスーパーアプリそのものがミドルウェアの一種であって、アプリ、サービスおよび体験をiPhoneのAPIやコードなしに利用できるようにするものだからだ。

最終的には、スーパーアプリが存在するスマートフォンであれば、同じインターフェイス、アプリ、コンテンツにアクセスできるため、利用者はより容易に別のスマートフォンを選択できるようになる。Appleはスーパーアプリを脅威と捉え、対策を打った12

少なくとも2017年以降、Appleはミニアプリとスーパーアプリを不必要かつ不当に制限する除外要件を恣意的に課してきた。米国においては、ミニアプリを平文の文字のみのリストとして示すことを要求している。また、ミニアプリの提供するコンテンツやサービスをアイコンやタイトルで表示することを禁止し、最近プレイしたゲームや同じサードパーティのゲームを表示することなども禁止している。また同様にミニアプリの収益化を妨害するためにアプリ内課金システムとのAPI連動を阻止している。
 
11 前掲注1 p29参照
12 前掲注1 p31参照
3|クラウドストリーミングアプリへの制限
クラウドストリーミングアプリとは、iPhoneの高性能のハードウェアを利用することなく、クラウドを利用することで、高度な演算を必要とする最先端のゲーム等を行えるアプリを指す13。このようなアプリの利用もAppleは阻止してきた。利用者はハイスペックのiPhoneを購入する必要がないと同時にサードパーティにもメリットがある。アプリをiOSやAndroid向けに個別に書き直す必要がなく、単一のアプリとしてクラウド上で動くように設計すればよい(図表6)。
【図表6】クラウドストリーミングアプリ
しかし、Appleはアプリ配信に関する権限を行使し、サードパーティがiPhoneのアプリとしてクラウドゲームのサブスクリプションサービス提供を事実上阻止した。Appleはクラウド上のゲームアプリを個々のゲームごとにiPhoneにダウンロードすることを要求し、結果としてクラウドストリーミングアプリのメリットがなくなり、iPhone向けにクラウドストリーミングアプリを設計するサードパーティはいなくなった。また、AppleはクラウドゲームにAppleの決済システムの利用を強制し、クラウドゲームの再設計を余儀なくさせた14
 
13 前掲注1 p32参照
14 前掲注1 p34参照

5――Appleの独占力の不当な維持(その2)

5――Appleの独占力の不当な維持(その2)

1|メッセージアプリの妨害
Appleはプラットフォーム間のメッセージアプリの機能を弱体化させた。メッセージアプリの一つはいわゆる「ショートメッセージ」と呼ばれるSMSがある。SMSは電話番号に紐づけられたアプリだが、大きなファイル、ハートマークなどのリアクションなど最新のメッセージ機能をサポートしていない。

もうひとつのメッセージアプリはOTT(over the top)と呼ばれるアプリで、暗号化、既読受信、リアクション、時間がたつと消えるメッセージなど、より安全で高度な機能が含まれる。OTTは同じメッセージアプリにサインアップして通信する利用者間でのみ機能する(図表7)。
【図表7】メッセージアプリの妨害
AppleはSMSを実装するためのAPIを「プライベート」に指定して、OTTアプリを提供するサードパーティにアクセスを許諾していない。つまり、OTTはSMSと組み合わせて提供することができない15

iPhoneの利用者がデフォルトのメッセージアプリであるApple Messageを利用して、非iPhone利用者にメールを送信すると、そのメカニズムは緑色の吹き出しとして表示され、限定した機能しか利用できない。

非iPhone利用者がグループでのチャットに参加する場合には、チャットを「壊す」ことになり、排除されることになる。このことは非iPhoneスマートフォンが低品質であるというシグナルを利用者に送ることとなる。

最近でもAppleはApple MessageとAndroid利用者間の通信を暗号化しようするサードパーティを妨害したケースがあった16
 
15 前掲注1 p36参照
16 前掲注1 p39参照
2|スマートウォッチにおける妨害
Appleはスマートウォッチという高価なアクセサリを使い、iPhone利用者が他のスマートフォンを選択するのを防ごうとしている(図表8)。
【図表8】スマートウォッチ
スマートウォッチはディスプレイと付属のアプリを備えた手首に装着する機器で、時刻表示のほか、健康データのモニタリング、メッセージや通知への応答、モバイル決済など様々な機能を実行できるものである。電子メールやテキストメールの受信や返信、電話の応答など機能利用のためには、一般的にスマートフォンとのペアリングを必要とする。スマートウォッチは高価なため、所有しているスマートフォンと互換性のないスマートウォッチは選択されない。Apple WatchはiPhoneとしか連動しない17

他方、クロスプラットフォームのスマートウォッチが存在する。これはブルートゥース接続18でiPhoneやAndroid端末に接続できる。

Appleは、高価なApple Watchを保有することが、利用者がiPhoneからAndroid端末に乗り換えない理由だと考えており、クロスプラットフォームのスマートウォッチの機能を制限している19。それは以下の3点である。

(1) クロスプラットフォームのスマートウォッチを保有するiPhone利用者から、通知に応答することができないようにしている。具体的にはAppleはApple Watch以外に高度な通知対応APIへの接続を拒否しているため、クロスプラットフォームのスマートウォッチでは、通知されたメッセージに返信したり、カレンダーの招待を受けたりといったアクションを実行できないような、限定的なAPI連動しか認めていない。

(2) クロスプラットフォームのスマートウォッチがiPhoneとの信頼できる接続を維持することを阻害している。iPhone上でブルートゥースの機能を利用者が誤ってオフにしても、Apple Watchでは接続が継続される。一方、クロスプラットフォームのスマートウォッチではこの場合、接続を切断されることをAppleは要求している。

(3) 携帯電話のネットワークに直接接続するクロスプラットフォームのスマートウォッチの性能を損なわせている。セルラー製のスマートウォッチはセルラーネットワークに直接接続する機能を備えており、スマートフォンと接続していなくとも利用者は通話、メッセージ送信、データのダウンロードができる。一般的にはスマートフォンとセルラー製スマートウォッチは同一の電話番号を利用することが可能である。しかし、この場合、AppleはiPhoneのiMessageサービスを無効にすることを要求している。これはiPhone利用者にとっては非現実的である。
 
17 前掲注1 p40参照
18 スマートフォンにデフォルトで導入されている近距離の通信技術を指す。
19 前景注1 p40参照
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保険研究部   専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴
  • 【職歴】
     1985年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
     2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
     2018年4月 取締役保険研究部研究理事
     2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
     2024年4月より現職

    【加入団体等】
     東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
     東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
     大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
     金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
     日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

    【著書】
     『はじめて学ぶ少額短期保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2024年02月

     『Q&Aで読み解く保険業法』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2022年07月

     『はじめて学ぶ生命保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2021年05月

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