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ふるさと納税のデフォルト使途-ふるさと納税の使途は誰が選択しているのか?

金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・サステナビリティ投資推進室兼任 高岡 和佳子
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1――はじめに
一方、使途を選択できない地方公共団体2.3%にはそれなりの事情がある。令和5年度の調査結果には、使途を選択できない理由や今後の見通し等の情報も掲載されている。使途を選択できるよう検討中であるといった回答が多いが、予算規模が小さいので「特定の使途に予算が集まると困る」といった予算制約上の事情で、使途の選択には困難が伴うといった回答もある。予算制約の本質が、必要な経費に対する制約付きの資金の割合の問題ならば、規模が大きい地方公共団体であっても、使途が限定される資金(寄附金)が相対的に多額であれば同様の問題が発生する可能性はある。それにも関わらず、多額の寄付金が集まる地方公共団体ほど、選べる使途のバリエーションが多い。実は、多額の寄付金が集まる地方公共団体ほど使途を選択しない寄付(「使途指定なし」を選択した寄付を含む)の割合が高い傾向があるので2、特定の使途に予算が集まりすぎるといった問題が生じないのかもしれない。
多額の寄付金が集まる地方公共団体ほど使途を選択しない寄付の割合が高い根本的な原因として、返礼品を目的とする寄付者は使途に特段関心がなく、かつ人気の返礼品を有する地方公共団体が多額の寄付を集めていることが考えられる。しかし、使途に関心が低い寄付者が多いと考えられるからこそ、特定の使途をデフォルト(既定値)にするとか、使途の表示順を調整することで、地方公共団体が望む使途へ誘導することも可能だろう。
そこで、総務省が公表する「ふるさと納税に関する現況調査結果」の内、地方公共団体毎の使途の分野別受領寄付金額のデータを用いて、デフォルト設定や使途の表示順が寄付者の使途選択に及ぼす影響や、多額の寄付金が集まる地方公共団体が寄付者の使途選択を誘導している可能性を確認したい。
1 分野又は具体的な事業を選択できる11.9%と、具体的な事業を選択できる5.1%の合計
2 基礎研レポート「ふるさと納税、使途選択の効果 人気の使途は寄付額アップにつながるのか?」参照
2――デフォルト設定や使途の表示順に誘導される寄付者
使途の分野別受領寄付金額の割合を全地方公共団体の合計で確認すると、使途を選択しない寄付額(「使途指定なし」を選択した寄付に加え、使途を指定できない地方公共団体への寄付を含む)が最も多く、次いで「子ども・子育て」分野、「教育・人づくり」分野、「地域・産業振興」分野の順に多いが、個別の地方公共団体別に確認すると、結果は大きく異なる(図表1の左)。
使途の分野別受領寄付金額の割合が異なる理由の一つとして、地方公共団体によって選択可能な使途の分野(ラインナップ)が異なることが考えられる。例えば、A市は、「子ども・子育て」分野、「教育・人づくり」分野が突出して高い。これは、A市では、この二つの分野と「まちづくり・市民活動」分野及び「その他」の4つの分野しか選択できないことに起因する。また、B市は「地域・産業振興」が高く、全国的には人気の「子ども・子育て」分野、「教育・人づくり」分野は0.0%である。これは、B市では様々な分野が選択可能だが、この人気の2分野が選択できないことに起因する。
具体的には、図表1の右のように、全国平均的な使途の分野別受領寄付金額の割合をベースに、各地方公共団体のラインナップに応じた平均的な使途の分野別受領寄付金額の割合を推定する。その推定結果(図表1、右端)と実際の使途の分野別受領寄付金額の割合(図表1、左)との乖離(距離)を基準に調査対象の地方公共団体を抽出した。但し、「その他の使途」については、地方公共団体によって内容が全く異なるため、分析対象から外している。
使途の分野別受領寄付金額の割合が全国平均から大きく乖離する108の地方公共団体を抽出し3、個別に乖離の要因を調べた結果を表2に示す。

次に多い要因は使途の表示順で4割弱を占める。特定の使途をデフォルトとして設定していることは確認できなかったが、選択可能な使途のうち最初に表示される使途の割合が極端に高い地方公共団体がこのケースに該当する。スクロールが不要、もしくはマウスの移動距離が最も短いといった作業効率の点で、最初に表示される使途が最も優れるため、使途のデフォルト設定同様に、使途の表示順にも寄付者の使途選択を誘導する効果がある。
デフォルト設定や使途の表示順が乖離の要因と考えられる地方公共団体が8割以上を占めるが、それ以外にも要因はある。例えば、返礼品(お礼状は除く)を送付していないケースや、寄付を受領する地方公共団体が被災地であり、かつ「災害支援・復興」の割合が高いケースである。被災地への寄付の場合、返礼品を受け取っている可能性もあるが、いずれのケースも「寄付を行う最大の目的が返礼品とは考えにくい」という共通点がある。
なお、中には使途の分野別受領寄付金額の割合が全国的な平均から大きく乖離する要因が分からないケースもあり、そのようなケースはその他の8.3%に含めている。但し、その他8.3%の大部分は、分析対象から外している「その他の使途」がデフォルトとして設定されていたり、複数の分野にまたがる使途に集まった寄付金を「その他の使途」に合算して報告していたりと、分析方法やデータの不完全さに起因するものである。
以上から、寄付を行う最大の目的が返礼品ではないケースを除き、デフォルト設定や使途の表示順が、寄付者による使途の選択に大きく影響していると考えることができる。
3 使途を選択できる全地方公共団体を対象に、使途の分野別受領寄付金額の割合の全国平均からの乖離(距離)を算出し、これらの平均及び標準偏差を基に95%点を超える地方公共団体を抽出した。
3――デフォルト設定や使途の表示順によって地方公共団体が誘導しているかもしれない
寄付を受け取る地方公共団体にとっては、使途が限定された資金より、使途が限定されない(自由度が高い)資金の方が好ましい。また、使途が限定されている資金間の比較でも、地方公共団体にとってニーズの低い使途より、ニーズの高い使途の方が好ましい。個人が定額給付金などの支援を受ける場合に置き換えるとわかりやすい。同じ金額をもらうなら、使えるお店が限られている商品券よりもどこでも使える現金の方が好ましく、また使えるお店が限られている商品券間の比較でも、普段利用しないお店でしか使えない商品券より、普段利用しているお店で使える商品券の方が好ましいからだ。
2章で説明したように、寄付を行う最大の目的が返礼品ではないケースを除き、寄付者の使途の選択はデフォルト設定や使途の表示順の影響を受けやすい。そして、寄付者の大多数が返礼品を目的としていることは公然の事実であり、寄付を受領する地方公共団体もそのことは当然理解しているはずだ。加えて、特定の使途をデフォルトとして設定するか否か(デフォルト設定可能なポータルサイトを選ぶか否かを含む)や、使途の表示順を決定するのは地方公共団体なのだから、デフォルト設定や表示順の決定を通じて寄付者の使途選択を誘導することも可能である。冒頭で、多額の寄付金が集まる地方公共団体ほど使途を指定しない寄付の割合が高い傾向について記したが、デフォルト設定や表示順の決定を通じて、地方公共団体が使途選択を誘導した結果かもしれない。そこで、3章ではこの可能性について検証する。
まず、多額の寄付を受領するほど、もしくは予算規模と比べて寄付額の割合が高い地方公共団体ほど、使途選択を誘導するインセンティブが高いはずだ。仮に、地方公共団体による使途選択の誘導があれば、使途選択を誘導するインセンティブが高い地方公共団体ほど特定の使途をデフォルトに設定したり、最初に表示される使途を「使途指定なし」にしたりする割合が高くなると考えられる。そこで、寄付受領額、及び予算規模に対する寄附受領額の比率が上位50の地方公共団体と中位(876位~925位)の地方公共団体を対象に、デフォルト設定の有無と最初に表示される使途が「使途指定なし」か、それ以外かを調査した。
なお、予算規模の代理変数として、地方交付税額の算出に用いられる基準財政需要額を採用した。
(2024年04月19日「基礎研レポート」)
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03-3512-1851
- 【職歴】
1999年 日本生命保険相互会社入社
2006年 ニッセイ基礎研究所へ
2017年4月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
高岡 和佳子のレポート
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