2024年04月05日

気候指数 2023年データへの更新-日本の気候の極端さは、1971年以降の最高水準を更新

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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3――気候指数の作成方法の振り返り

本章では、気候指数の作成方法を振り返っておく。多くは、前回のレポートに記載した内容と同様となっている。次章に示す、気候指数の計算結果を読み解くうえで、参考としていただきたい。

1|地域区分に分けて指数を作成し、その平均から日本全体の指数を作る
前章で述べたとおり、日本全体を12の地域区分に分ける。また、九州南部と奄美を合わせて、「九州南部・奄美」の地域区分もつくる。各地域区分の指数は、それぞれに含まれる観測地点の指数の単純平均とする。

そのうえで、日本全体の気候指数を、各地域区分の単純平均として作る。平均の計算にあたり、九州南部と奄美については、「九州南部・奄美」を用いる。

2|月ごとと季節ごとの指数を作成する
指数は、月ごとおよび四半期の季節単位(12~2月、3~5月、6~8月、9~11月)に作成する。そして、月や季節の指数と併せて、月の5年移動平均、季節の5年移動平均の指数も作成する。これは、気候変動を、短期間の変動としてではなく、より長いスパンで捉えようとする試みである。

なお、やや細かい点ではあるが、参照期間の当初5年間(1971~1975年)については、実績が5年分に満たないため、移動平均をとっても変動が大きくなる。そこで、この期間は、5年移動平均の不足分を1971~1975年の平均で補うこととする。

3|指数はゼロを基準に、プラスとマイナスの乖離度の大きさで表される
気候指数は、7つの項目の乖離度をもとに計算する。7つの項目とは、高温、低温、降水、乾燥、風、湿度、海面水位を指す。計算にあたり、1971~2000年の30年間を、参照期間とする。そして、あらかじめ、各項目の計数値について、参照期間中の同じ月(季節)の平均と標準偏差を求めておく。(以下、本章では季節については、「月」を「季節」と読み替えていただきたい。)

ある1つの項目に、注目する。この項目について、ある月の乖離度を求めることにしよう。そのためには、その月の計数値から、参照期間中の平均を引き算する。その引き算の結果を、参照期間中の標準偏差で割り算する。このようにすることで、その月の計数値が、標準偏差の何倍くらい、平均から乖離しているかという、乖離度が計算できる。
乖離度の計算式
乖離度が標準正規分布に従うものと想定すると、-1から1の間に入る確率は、約68.3%となる。逆に、乖離度が1を超える確率は、約15.9%となる。乖離度が2を超えるのは珍しいことで、その確率は、約2.3%。乖離度が3を超えるのは大変珍しいことで、約0.1%の確率となる。このようにして、気候に関する極端さの度合いを定量化していく。この乖離度を、7つの項目それぞれで計算する。

4|元データとして気象庁の気象データと潮位データを使用する
指数作成の元データは、高温、低温、降水、乾燥、風、湿度については過去の気象データ、海面水位については歴史的潮位資料と近年の潮位資料の潮位データとする。いずれも気象庁のホームページからダウンロードして取得したデータとする。

気象データは、日単位のものとし、各観測地点の「日最高気温 (℃)」、「日最低気温(℃)」、「降水量の日合計 (mm)」、「日平均風速 (m/s)」、「日平均相対湿度 (%)」のデータである。乾燥指数のために、降水に関しては、降水現象の有無に関する「現象なし情報」も用いる。

一方、潮位データは、月単位のものとし、各観測地点の「月平均潮位 (cm)」を用いる。

5|7つの項目について、指数を作成する
以下の(1)~(7)では、ポイントを絞って、項目別に作成方法を概観していく。いずれも、参照期間を基準として、それと比較した“極端さ”の度合いを示すものとして乖離度を用いる、という方針が貫かれている。

(1) 高温 : 上側10%に入る日の割合から算出
高温は、参照期間中の気温分布に照らした場合に、月のうち、上側10%の中に入る日が、何日を占めるかという割合をとる。例えば、ある年の4月5日については、1971年から2000年までの4月5日とその前後5日間(3月31日、4月1~4日および6~10日)の、合計330日分のデータのうち、33番目に高いデータが閾値(しきいち)となる。この閾値以上の日が何日あったか、をみることとなる。

気温は、1日のうちにも変動するため、日最高気温と日最低気温のそれぞれについて、その割合をとる。この割合から、参照期間の平均を差し引き、その結果を参照期間の標準偏差で割り算して、それぞれの乖離度が計算される。そして、その和半をとって、高温の指数とする。

(2) 低温 : 下側10%に入る日の割合から算出
低温は、高温と同様に、参照期間中の気温分布に照らした場合に、月のうち、下側10%の中に入る日が、何日を占めるかという割合をとる。日最高気温と日最低気温のそれぞれについて、その割合をとる。この割合から、参照期間の平均を差し引き、その結果を参照期間の標準偏差で割り算して、それぞれの乖離度が計算される。そして、その和半をとって、低温の指数とする。

(3) 降水 : 5日間の降水量の最大値から算出
降水は、月のうち、連続する5日間の降水量をみる。高温と同様に、参照期間中の降水量の上側10%の中に入る日が、その月にどれだけあるかという割合でみていく。この割合から、参照期間の平均を差し引き、その結果を参照期間の標準偏差で割り算して、降水の指数とする。

(4) 乾燥 : 乾燥日が連続する日数から算出
乾燥の指数は、連続乾燥日から算出する。すなわち、乾燥日が何日続くかという、最大連続日数についてデータをとる。その際、乾燥日をどのように判定するかが検討ポイントとなる。降水量が0ミリメートルでも、わずかながら降水が見られる場合と、まったく降水が見られない場合があるためだ。

これについては、気象データにおいて観測単位(降水量0.5ミリメートル)未満で、降水の現象の有無の観測をした結果として表示されている「現象なし情報」を用いて判定する10

参照期間中の同月の乾燥日の最大連続日数をもとに、その月の参照期間からの乖離度が計算される。これを、乾燥の指数とする。
 
10 現象なし情報は、降水の現象があった日は0、なかった日は1の値で表示されている。
(5) 風 : 上側10%に入る日の割合から算出
風は、参照期間中の日平均風速の分布に照らした場合に、月のうち、上側10%の中に入る日が、何日を占めるかという割合をとる。この割合から、参照期間の平均を差し引き、その結果を参照期間の標準偏差で割り算して、それぞれの乖離度が計算される。これを、風の指数とする。

(6) 湿度 : 上側10%に入る日の割合から算出
湿度は、参照期間中の日平均相対湿度の分布に照らした場合に、月のうち、上側10%の中に入る日が、何日を占めるかという割合をとる。この割合から、参照期間の平均を差し引き、その結果を参照期間の標準偏差で割り算して、それぞれの乖離度が計算される。これを、湿度の指数とする。

(7) 海面水位 : 参照期間中の同じ月のデータと比較して算出
海面水位は、月平均潮位から算出する。ただし、季節によって海面水位の高さは変わる。そこで、参照期間中の同月の30個のデータをもとに、参照期間の平均と標準偏差を計算する。それらをもとに、その月の平均潮位の参照期間からの乖離度が計算される。これを、海面水位の指数とする。

6|合成指数は、高温、降水、湿度、海面水位の4つの指数の平均とする
最後に、以上で算出された7項目の指数をもとに、合成指数を算出する。

7項目の指数のうち、高温と低温はともに気温についての項目であり、相互に関連があるものと考えられる。また、降水と乾燥は、反対の事象を表す項目と言えるため、負の相関があるものとみられる。さらに、風については、観測方法がよく変更されており、データが空欄となっていた日数も多いなど、データの一貫性に難があるという課題が残っている。11

このため、前回と同様に今回も、低温、乾燥、風は合成指数の計算には用いない。合成指数は、高温、降水、湿度、海面水位の4項目の平均として算出する。12
 
11 別表18に示すとおり、気象データのうち日平均風速については、1971~2022年の間に、すべての観測地点で少なくとも1回、多い地点では4回、観測方法が変更されている。また、空欄となっている日数は、他の気象データに比べて多い。
12 なお、観測地点ごとに合成指数を算出する場合には、海に面していない観測地点(気象データのみを観測している地点)では、高温、降水、湿度の3項目の平均として、合成指数を計算する。

4――気候指数の計算結果

4――気候指数の計算結果

本章では、1971年~2023年の期間に渡り、各地域区分と日本全体について、気候指数の計算結果をグラフで表示する。併せて、2023年の各月の動向を見るために、月ごとの気候指数の推移も別のグラフに示していく13

各地域区分と日本全体で、気候の極端さがどれくらい進んでいるか、概観していくこととしたい。
 
13 1971年~2023年の長期間の推移は、四半期ごとの5年平均の指数。2023年の各月の動向は、月ごとの指数で、5年平均はしないものとしている。一般に、両者の水準は異なることにご留意いただきたい。
1|合成指数は、すべての地域区分で昨年に比べて上昇
まず、12の気候区分ごとに、計算結果のグラフを見ていこう。九州南部と奄美については、両者を一体化した「九州南部・奄美」とともに、参考として、それぞれの地域区分のグラフも見ていく。各気候区分の計算結果は、ページごとに見ていく。

ページの上段のグラフでは、気候指数の長期間の推移を図示している。季節ごとの直近の5年平均の推移を概観する。

一方、下段のグラフでは、気候指数の2023年の月ごとの動向を示している。2023年の各月の動きを確認する。
(1) 北海道
図表4-1. 指数推移 (5年平均) [北海道]
北海道の合成指数は、上昇傾向にあり、2023年秋季には0.91(前年秋季は0.77)となっている。2000年代に比べて、2010年代は、参照期間からの乖離度が高まっている。特に、高温指数は近年、上昇の勢いが強く、2023年には1.5を超えて2に迫る水準に急騰した。また、湿度指数も近年ハイペースで上昇している。この2つの上昇が、合成指数の騰勢につながっている。

[2023年の各月の動向]
図表4-2. 指数推移 (2023年の各月の指数) [北海道]
高温指数は、3月、8月、9月に非常に高い水準となった。一方、海面水位指数は、3月にはマイナスとなる一方、6月と9月には高い水準を付けた。3月は、両者が相殺して、合成指数はあまり高まらなかった。9月は、両者がともに寄与する形で、合成指数が上昇した。
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

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