2024年04月05日

配偶者手当を廃止する企業が増えていることを知っていますか。

基礎研REPORT(冊子版)4月号[vol.325]

総合政策研究部 研究員 河岸 秀叔

文字サイズ

1―配偶者手当を廃止する企業が増加

配偶者手当とは、配偶者がいる従業員に対して支給される手当である。高度経済成長期の日本型雇用システムと共に企業に普及し、2009年には約74.7%の企業が採用していた。

しかし近年、配偶者手当を廃止する企業が増えている。2023年時点で、配偶者手当を支給する企業は約56.2%と、2009年と比較して大幅に減少した[図表]。本稿では、その理由について解説する。
[図表]配偶者手当を支給する企業の割合

2―国が先導し、民間が追随

1│就業調整という課題
配偶者手当を廃止する企業は2015年頃から増加した[図表]。2015年以降の変化の主な要因として、故安倍晋三元首相の女性活躍推進政策が挙げられる。同政策の一環として、第二次安倍政権は国民健康保険第3号被保険者(被扶養者)の就業調整の解消を図った。就業調整とは、収入を一定の範囲内で抑えるために就業時間を調整することを指す。

就業調整は、主に年収の壁による手取り額の減少と、配偶者手当の削減を回避するために行われる。配偶者手当は、受給条件として配偶者収入で103万円以下または130万円以下とする場合が多く、この条件から外れないように就業調整を行う、言わば年収の壁の様な効果を及ぼしてきた。少子高齢化による人手不足が深刻化する中、働く意思がありながら就業を調整する状況は、効率的な労働供給を妨げてしまう。こうした背景から、配偶者手当の廃止や削減(以下併せて「見直し」)が推進された。
2│国が先導、民間が追随という構図
配偶者手当見直しの特徴として、国の積極的な先導が挙げられる。特に、国家公務員の配偶者手当の見直しが果たした役割は大きい。見直しは、2016年の人事院勧告に従い、同年に実施された。

国家公務員の給与は民間に従うこと(民間準拠)が原則だが、配偶者手当見直しについては国が民間に先駆けて実施した点が画期的であった。国の率先により配偶者手当見直しを民間に波及させることを企図していたものと考えられる。

加えて、第二次安倍政権の呼びかけに、大企業や経済団体が呼応したことや、配偶者手当見直しの際の注意事項や実施例を政府主導でまとめたことも、企業の見直しに対するハードルを下げた。国の先導は企業を動かし、見直しの流れを作ったと言える。

3―時代に合わなくなりつつある

廃止が進んだ背景には、政策要因の他に、配偶者手当に対する社会的ニーズの低下も挙げられる。

従来、配偶者手当は、男性が配偶者を扶養するという前提で制度が成熟した。しかし、共働き世帯数は、1990年代に専業主婦世帯数を上回り、現在では専業主婦世帯数の2倍以上に達している。

さらに、未婚化・晩婚化の影響により、配偶者を有する人の数も減少した。1980年は、30代で約86%、40代で約91%が結婚をしていた。しかし、2020年では各々は、約58%、約67%まで低下している。

配偶者手当は、今や誰しもが受け取れる手当ではない。むしろ、配偶者を有するか否かで給与が変わる仕組みが、配偶者を有さない従業員にとって不公平という声もある。社会の変化とともに、配偶者手当に対するニーズが大きく変容していることが分かる。

4―前向きな見直しを

社会的ニーズの変化とは言え配偶者手当の見直しは、手当を受けている人にとり収入の減少を意味する。労使間の合意なしに賃金制度の変更を行えば、労働契約法で禁止される労働契約の変更にあたる可能性も指摘されている。

従って、見直しにあたっては丁寧な対応が必要だ。例えば、見直しと併せて子ども手当や介護手当の支給・増額や、削減額の基本給への組み入れ、また支給額を段階的に削減する激変緩和措置が挙げられる。こうした取り組み例は厚生労働省の実務資料にまとめられている。

配偶者手当の見直しが単なるコスト削減に留まるのであれば、近年の賃上げの流れにも逆らうことになる。見直しは、従業員ファーストという視点で、慎重かつ丁寧に実施されることが望ましい。
 
* 参考文献等は「配偶者手当を廃止する企業が増えていることを知っていますか。」(研究員の眼、2024年2月6日)を参照)
Xでシェアする Facebookでシェアする

総合政策研究部   研究員

河岸 秀叔 (かわぎし しゅうじ)

研究・専門分野
日本経済

経歴
  • 【職歴】
     2021年 日本生命保険相互会社入社
     2022年 ニッセイ基礎研究所へ

(2024年04月05日「基礎研マンスリー」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【配偶者手当を廃止する企業が増えていることを知っていますか。】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

配偶者手当を廃止する企業が増えていることを知っていますか。のレポート Topへ