2024年04月05日

2023~2025年度経済見通し

基礎研REPORT(冊子版)4月号[vol.325]

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1―2四半期ぶりのプラス成長

2023年10-12月期の実質GDPは、前期比0.1%(前期比年率0.4%)と2四半期ぶりのプラス成長となった。

高水準の企業収益を背景に設備投資が前期比2.0%の高い伸びとなったが、民間消費(前期比▲0.3%)、住宅投資(同▲1.0%)、公的固定資本形成(同▲0.8%)が減少したことなどから、国内需要は前期比▲0.1%の減少となった。輸出の伸び(前期比2.6%)が輸入の伸び(同1.7%)を上回り、外需寄与度が前期比0.2%のプラスとなったため、かろうじてプラス成長となったが、2023年7-9月期の大幅マイナス成長(前期比年率▲3.2%)の後としては戻りが弱い。新型コロナウイルス感染症の5類移行に伴い社会経済活動の正常化が進む中でも低迷が続く民間消費は2023年4-6月期から3四半期連続の減少となった。

2―春闘賃上げ率の見通し

2023年の春闘賃上げ率は3.60%(厚生労働省の「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」)と30年ぶりの高水準となった。2024年の春闘を取り巻く環境を確認すると、有効求人倍率が引き続き1倍を上回り、失業率が2%台半ばで推移するなど、労働需給は引き締まった状態が続いている。また、法人企業統計の経常利益(季節調整値)は過去最高に近い水準にあり、消費者物価上昇率は鈍化傾向にあるものの2%を上回る水準で推移している。賃上げの環境は引き続き良好と判断される。

消費者物価は2%台前半まで伸びが鈍化し、2023年春闘の時期(2024年1月は4.3%)より低くなっていることが賃上げに逆風との見方もある。しかし、2024年春闘ではこれまで物価上昇に賃上げが追い付かなかった分を取り戻すことが重視されるだろう。

連合は「2024春季生活闘争方針」において、2024年春闘の賃上げ要求を前年の5%程度から5%以上に引き上げていたが、3/7に発表した「2024年春季生活闘争要求集計結果」によると、連合傘下3102組合の賃上げ率は平均5.85%と、2023年の要求集計(4.49%)を大きく上回り、1994年春闘(5.40%)以来、30年ぶりに5%を上回った。

こうした状況を踏まえ、2024年の春闘賃上げ率は4.30%と前年を0.70ポイント上回り、1992年(4.95%)以来の4%台になると予想する[図表1]。
[図表1]春闘賃上げ率の長期推移
実質賃金は消費者物価の上昇ペース加速を主因として2022年4月以降、前年比でマイナスが続いている。今後、名目賃金の伸びは高まるものの、消費者物価上昇率が高止まりするため、実質賃金の下落はしばらく続く可能性が高い。実質賃金上昇率がプラスに転じるのは、消費者物価上昇率が2%を割り込むことが見込まれる2024年度後半と予想する[図表2]。
[図表2]名目賃金と実質賃金

3―GDP成長率の見通し

景気循環との連動性が高い鉱工業生産は2023年10-12月期に前期比1.3%と2四半期ぶりの増産となったが、2024年1月は自動車メーカーの不正問題発覚に伴う生産停止と能登半島地震による一部工場の稼働停止が重なったことで、前月比▲7.5%と急速に落ち込んだ。2024年1-3月期の鉱工業生産は自動車の大幅減産を主因として前期比でマイナスに転じることが予想される。

自動車販売台数は2024年1月、2月と大きく落ち込んでおり、生産停止の影響が販売にも表れている。物価高による下押し圧力が続く中、新たな供給制約の影響もあり、消費は当面弱い動きとなることが見込まれる。2024年1-3月期は、2023年10-12月期に高い伸びとなったサービス輸出の反動減などから、財貨・サービスの輸出が前期比▲0.7%と減少に転じること、民間消費が前期比▲0.1%と4四半期連続で減少することから、前期比年率▲0.4%と2四半期ぶりのマイナス成長となることが予想される。

2024年4-6月期は前期比年率1.6%とプラス成長に復帰すると予想するが、2024年春闘の結果が反映され、所得・住民減税が実施される2024年夏頃までは消費の低迷が続く可能性がある。また、インバウンド需要を中心にサービス輸出は増加するが、海外経済の減速を背景に財輸出が低迷するため、輸出が景気の牽引役となることは当面期待できない。2024年前半は内外需ともに下振れリスクの高い状態が続くだろう。

所得・住民減税は2024年6月に実施され、7-9月期の民間消費を押し上げる。2024年7-9月期は民間消費の高い伸びを主因として前期比年率2.7%の高成長となるだろう。減税の効果は一時的なものにとどまるが、2024年度後半以降は物価上昇率鈍化に伴う実質賃金の増加が消費を下支えするだろう。

実質GDP成長率は2023年度が1.3%、2024年度が1.0%、2025年度が1.1%と予想する。2023年度は、民間消費、設備投資を中心に国内需要が3年ぶりに減少するが、2024年度以降は賃上げの本格化と物価上昇率の鈍化を受けた実質所得の増加から民間消費が回復すること、高水準の企業収益を背景に設備投資が堅調に推移することから、国内需要中心の成長が続くことが予想される。

4―消費者の見通し

消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は、2023年1月に前年比4.2%と1981年9月以来41年4ヵ月ぶりの高い伸びとなった後、政府による電気・都市ガス代の負担緩和策の影響などから鈍化傾向が続き、2023年9月以降は2%台で推移している。

2022年1月から実施されてきたガソリン、灯油等に対する燃料油価格激変緩和措置は2024年4月末まで継続、2023年2月から実施されている電気・都市ガス代の激変緩和措置は2024年4月使用分まで継続し、5月使用分では激変緩和の幅を縮小することとなっている。

今回の見通しでは、ガソリン、灯油等の激変緩和措置は、2024年度末まで現行どおり、2025年度は補助率を縮小した上で継続、電気・都市ガス代の激変緩和措は、2024年度末まで補助額を縮小した上で継続、2025年度には終了することを前提とした。

激変緩和措置による消費者物価上昇率への影響は、2023年10-12月期まではコアCPI上昇率の押し下げ要因となっていたが、2024年1-3月期以降は押し上げ要因となるだろう。激変緩和措置によるコアCPI上昇率への影響を年度ベースでみると、2022年度が▲0.7%程度、2023年度が▲0.3%程度、2024年度が0.4%程度、2025年度が0.4%程度となることが見込まれる[図表3]。
[図表3]激変緩和措置による消費者物価(除く生鮮)
物価高の主因となっていた輸入物価の上昇には歯止めがかっており、財価格の上昇率はすでにピークアウトしている。

一方、人件費との連動性が高いサービス価格は2023年8月以降、前年比で2%台の伸びが続いており、2024年1月には前年比2.2%と財(生鮮食品を除く)の上昇率(同1.9%)を上回った。

コアCPI上昇率は、政府による各種支援策に左右される展開が続いているが、基調としては鈍化傾向が続いている。コアCPI上昇率が日銀の物価目標である2%を割り込むのは、円安による押し上げ効果が減衰し、食料品などの財価格の上昇率のさらなる鈍化が見込まれる2024年度後半になると予想する。

財・サービス別には、2022年度は物価上昇のほとんどがエネルギー、食料(除く生鮮食品、外食)を中心とした財の上昇によるものだったが、物価上昇の中心は財からサービスにシフトしつつある。2024年度以降、消費者物価上昇率への寄与度はサービスが財を上回るだろう。

コアCPIは、2022年度の前年比3.0%の後、2023年度が同2.8%、2024年度が同2.1%、2025年度が同1.5%と予想する[図表4]。
[図表4]消費者物価(生鮮食品を除く総合)の予測
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斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2024年04月05日「基礎研マンスリー」)

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