コラム
2024年04月04日

そもそも何が「保険業」?-保険業該当性に関するQ&A

保険研究部 専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

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「これって保険業なのかな?」時に保険会社や一般事業会社の法務部門が頭を悩ませる問題がある。保険業であれば保険業の免許や少額短期保険業の登録が必要となり、一般事業会社が行うことはできない。逆に保険業に該当しなければ、付随業務(保険業法(以下法)98条)や法定他業(法99条)等に該当しない限り、保険会社等は行うことができない(法100条)。

たとえば、会社の懇親会で従業員から会費を徴収し、弔慰金や結婚祝い金を支払う制度(親睦会)はどうか。あるいは大型量販店で販売時に料金を徴収して業者保証期間よりも長く無料修理保証をする仕組み(延長保証)はどうか。

このような問いが立てられるのは、保険業法が「保険」そのものを定義していないからなのだが、まず法の該当条文を見てみよう。「人の生存又は死亡に関し一定額の保険金を支払うことを約し保険料を収受する保険、一定の偶然の事故によって生ずることのある損害をてん補することを約し保険料を収受する保険その他の保険で第三条第四項各号(筆者注:生命保険業)又は第五項各号(筆者注:損害保険業)に掲げるものの引受けを行う事業」とある(2条1項。下線筆者)。要するに保険の引受けを行う事業が保険業といっているだけで、保険については定義していない。

この問題が顕在化したのは、2006年施行の改正法による。2006年より前は、保険業は「不特定多数」を相手方とする保険引受に限定されていた。つまり、従来、多くの事業主体が「特定者」だけが加入できるとの理由で「保険業には該当しない」ということができた。しかし、当時「特定者」だけを相手方とする根拠法のない共済のうち、不適切な事業形態のものがあり、これら根拠法のない共済を法で規制するために「不特定多数」要件を保険業の定義規定から削除した。これにより、「特定者」相手の保険も保険業となる可能性が生じた。

保険業に該当するかどうかについては、従来、少額短期保険業者向けの監督指針(以下、監督指針)Ⅴ(1)や事業者からの問い合わせに答えるノーアクションレターで解釈の方針が示されていたが、2023年11月30日に「保険業該当性に関するQ&A」1(以下、Q&A)によって、一括して解釈指針が示されることとなった。Q&Aは従来の解釈を変えるものではない2が、以下ではその内容を見ていこう。

まず、保険業かどうかを検討しなければならない場合とは、「ユーザーから何らかの金銭を受領し、一定の事象が発生した場合に金銭の給付や修理を行う等の補償サービスを提供しようとする場合」とされている(Q&A問1)。そうすると、冒頭の親睦会も延長保証も金銭を徴収し、金銭を支給又は補償サービスを提供するので検討対象になる。

次に検討すべきは、法令で除外されていないかということである(Q&A問2)。法の保険業の定義規定には除外規定がある(法2条1項1号~3号) 3。たとえば会社でひとつの親睦会を運営しており、かつその懇親会が弔慰金を支払うことが大きな目的の一つとしているようなケースでは、一の会社がその従業員を相手に行う保険として保険業から除外される(法2条1項1号ロ、Q&A問7)。すなわち法解釈上保険業ではあるが、行政の監督の必要性はないことから、法の対象外にする趣旨である。

さらに、会社内の一つの部の親睦会で会費はほとんどが宴会などの費用に充てられるが、弔慰金も支払うようなケースでは「一定の人的・社会的関係に基づき、慶弔見舞金等の給付を行うことが社会慣行として広く認められているもの」として、法解釈上も保険業に該当しない(監督指針Ⅴ(1)②注1、Q&A問9)。ただし、社会通念上妥当なものとして10万円を越えないこととされている(同前)。

さて、もうひとつの延長保証であるが、こちらは総合判断により保険業に該当するかどうかが判断されることとなる(監督指針Ⅴ(1)(注2)、Q&A問12、監督指針の文章は下記枠内。下線筆者)。
 

予め事故発生に関わらず金銭を徴収して事故発生時に役務的なサービスを提供する形態については、当該サービスを提供する約定の内容、当該サービスの提供主体・方法、従来から当該サービスが保険取引と異なるものとして認知されているか否か、保険業法の規制の趣旨等を総合的に勘案して保険業に該当するかどうかを判断する。なお、物の製造販売に付随して、その顧客に当該商品の故障時に修理等のサービスを行う場合は、保険業に該当しない。

延長保証は「物の製造販売に付随して」に該当するため、上記監督指針のなお書き以降によって、保険業に該当しないこととなる。これは民法562条の契約不適合責任(従前は瑕疵担保責任といった)を拡張した取引形態であるからである(Q&A問15)。これは上記「保険業かどうか検討しなければならない」とする範囲が広く、他の契約形態に該当するものも含まれるから、それを除外する趣旨である。さらに、デリバティブ(金融商品取引法)や保証4(民法)など他の法律で保険とは異なる取引類型とされているものも保険には該当しない(Q&A問8)。

結局、最後は「総合判断」により保険業に該当するかどうかを決めるというのは、文言として保険業を過不足なく定義することが困難であることを意味している。Q&Aによりかなり明確になったとは思われるが、保険に類似した新規事業を立ち上げるにあたっては、引き続きノーアクションレターあるいは規制のサンドボックス5を利用する必要があると思われる。
 
1 https://www.fsa.go.jp/common/law/hokenngaitouseiqanda.pdf 参照
2 安田栄哲・佐藤諒一「『保険業該当性に関するQ&A』の解説」金融法務事情No2229 P40
3 なお、JA共済などの制度共済も他の法律に根拠があり、法で除外されている。
4 ただし、保証証券業務(保険数理を使う保証形態)は保険業とみなされる(法3条6項)。
5 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/s-portal/regulatorysandbox.html 参照。justInCaseのわりかんがん保険では保険料が後払いであった点において、保険業に該当するかが問題となった。そのため規制のサンドボックスを活用した。
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保険研究部   専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴
  • 【職歴】
     1985年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
     2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
     2018年4月 取締役保険研究部研究理事
     2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
     2024年4月より現職

    【加入団体等】
     東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
     東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
     大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
     金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
     日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

    【著書】
     『はじめて学ぶ少額短期保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2024年02月

     『Q&Aで読み解く保険業法』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2022年07月

     『はじめて学ぶ生命保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2021年05月

(2024年04月04日「研究員の眼」)

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