2024年03月15日

コロナ禍で運動習慣は定着したか?~運動実施・非実施の差が拡大

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

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1――コロナ禍前~運動習慣がある割合は、2019年時点で、国の目標に達していない

運動習慣をもつ割合について、国による国民の健康づくり対策である健康日本21(第二次)では、2022年度に1回30分以上の運動を週2回以上実施し、1年以上継続している者の割合を、20~64歳の男性36%、女性33%、65歳以上の男性58%、女性48%にすることを目標としてきた。2022年10月に公表された最終報告書によれば、2019年度時点で20~64歳の男性24.1%、女性16.5%、65歳以上の男性41.5%、女性33.8%(いずれも年齢調整値)で目標に到達しなかった。ただし、この評価に使われた調査は、厚生労働省の「国民健康・栄養調査」の2019年結果である。コロナ禍の影響で、2020年以降調査が中止されており、コロナ禍を受けて、現在の運動実施状況がどうなっているかはわからない。

スポーツ庁による「スポーツの実施状況等に関する世論調査」でも、運動やスポーツの実施頻度等について調べており、コロナ前後も調査が実施されている。厚生労働省の国民健康・栄養調査とは、調査対象も、質問方法も異なるため、単純に比較することはできないが3、本稿では、スポーツ庁による「スポーツの実施状況等に関する世論調査4」の結果を使って、コロナ禍前後で運動実施状況にどのような変化があったかを概観したい。
 
3 厚生労働省「2019年度国民健康・栄養調査」によると、運動習慣あり(に1回30分以上の運動を週2回以上実施し、1年以上継続している者)の割合は、20~64歳男性24.1%(年齢調整前23.5%)、女性16.5%(年齢調整前16.9%)、65歳以上男性41.5%(年齢調整前41.9%)、女性33.8%(年齢調整前33.9%)である。スポーツ庁「スポーツの実施状況等に関する世論調査」によると、1年以上継続した運動・スポーツの日数、スポーツ実施率(汗をかく運動を30分以上)の割合は、20~64歳男性25.7%、女性18.6%、65歳以上男性44.5%、女性41.6%だった。
4 18~79歳男女を対象とするインターネット調査。回収数は、2018~2021年までは20000件、2022年は40000件で、全国を12地域に区分し、人口構成比に従って回収している。毎年11~12月頃に実施。その他調査の詳細は、スポーツ庁「スポーツの実施状況等に関する世論調査(各年)」のページを参照のこと。(https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/toukei/chousa04/sports/1381922.htm、2024年3月8日アクセス)。

2――コロナ禍前後の運動・スポーツ実施状況

2――コロナ禍前後の運動・スポーツ実施状況

1運動・スポーツ実施頻度~非実施者が増加したが、週5以上実施者の増加
運動・スポーツを実施した頻度(年間日数)5について、2018~2022年の推移を図表1に示す。

まず、運動・スポーツを年1回でも実施した割合は、2018年から2019年にかけて80%弱だったが、コロナ禍1年目にあたる2020年には80%を超えた。2021年以降は、2年連続して低下し、2022年は2018年よりも低くなっており、運動非実施者がこの5年間で最多となった。
図表1 運動・スポーツを実施した頻度(年間日数)の推移
運動・スポーツ実施者の実施頻度に着目すると、週5日以上(年251日以上)の割合は、2018年から2019年にかけて12%強だったが、2020年以降は14~16%と高くなった。

年齢群別にみても同じような傾向があり、コロナ禍で一時的に歯止めがかかったものの、2018年から見ると、2022年に運動実施者の割合は低下していた(図表略)。その一方で、週5日以上(年251日以上)運動を実施している割合は2020年以降で高くなっており、各年齢群で週5日ペースで運動を実施する人と、運動をしない人の二極化が起きていると考えられる。
 
5 週に5日以上(年251日以上)/週に3日以上(年151~250日)/週に2日以上(年101~150日)/週に1日以上(年51~100日)/月に1~3日(年12~50日)/3か月に1~2日(年4~11日)/年に1~3日/実施していない/わからない、の9つの選択肢が提示されているが、ここでは、4つに区分しなおした。
2コロナ禍の影響~2020年には就労者、若年、高収入層で運動増加。非就労者、高年齢、低収入層で運動減少。
続いて、前年と比べて運動・スポーツを実施する頻度がどのように変化したかについて尋ねた結果を図表2に示す。年によって変動はあるものの2018~2022年にかけて「減った」が「増えた」を常に上回っていた。

2018年からの推移をみると、「増えた」の割合が最も高かったのは2020年だった。また「減った」の割合が最も高かったのも2020年だった。コロナ禍による生活の変化や外出自粛の影響は、個々の生活に応じて運動をする方向にも、運動をしない方向にも影響があったと考えられる。「増えた」も「減った」も2021年は2020年と比べて低下し、2022年に「増えた」はさらに低下したのに対し、「減った」は横ばいとなった。2021年以降は、2020年のような大きな変化はなく、2020年のペースがおおむね続いているようだ。
図表2 前年と比べて運動・スポーツを実施する頻度の変化
もっともコロナ禍の影響が大きかったと思われる2020年について、運動・スポーツを実施する頻度の前年との変化を性別の就労・非就労、年齢群、世帯年収別にみると、いずれも「減った」が「増えた」を上回っていた(図表3)。セグメント別に見ると、男女とも就労者で「増えた」が高く、非就労で「増えた」が低く、就労者で運動実施の増加が顕著だったと考えられる。年齢では若いほど、「増えた」が高かった。34歳以下では「増えた」だけでなく「減った」も全体より高く、他の年代と比べてコロナ禍で運動習慣への影響が大きかったようだ。世帯年収では年収が高いほど「増えた」の割合が高い傾向があり、「収入なし・100万円未満」では「減った」が高かった。
図表3 前年と比べて運動・スポーツを実施する頻度の変化(2020年調査)
2020年は、全体としては「減った」が多かったが、相対的に若い就労世代と世帯年収が比較的高い人で「増えた」が多い傾向があった。

3増えた理由・減った理由~2020年には、コロナによるスポーツの必要性に対する意識の変化で運動増減。仕事が忙しくなくなったことで増加、場所や施設がないことで減少
運動・スポーツ等の実施が増えた人の増えた理由、および減った人の減った理由について2018年からの推移をそれぞれ図表4、図表6に示す。

増えた理由としては、2020年に「コロナウィルス感染症対策によるスポーツの必要性に対する意識の変化」が回答の選択肢として追加され、2020年と2021年は、これが最も高かった。この理由以外では、「仕事が忙しくなくなったから」が高く、次いで、年によって順位は変動するが「健康になったから」「場所や施設ができたから」「仲間ができたから」「運動・スポーツが好きになったから」等が続いた。

コロナ禍に注目して、2020年前後の変化が大きいものをみると、「仕事が忙しくなくなったから」は2020年に上昇した。コロナ禍における外出自粛や在宅勤務の推奨にともない、通勤や出勤準備に使う時間が短縮できるなど、時間に余裕ができた可能性がある。「コロナウィルス感染症対策によるスポーツの必要性に対する意識の変化」とともにコロナ禍の影響があると考えられ、図表1等に示したとおり運動実施者の増加につながったと考えられる。「場所や施設ができたから」「仲間ができたから」「運動・スポーツが好きになったから」は2020年に減少しており、コロナ禍によって、スポーツ施設等が感染拡大を抑止するために閉鎖する等、2019年以前のように仲間と一緒に、あるいは施設等で、運動・スポーツを楽しむ環境ではなかったことから、これらの理由で運動・スポーツの実施が増えた割合が2019年以前よりも低くなっていると考えられる。2021年以降は、2020年より上昇しているが、2019年以前の水準には届いていない。「健康になったから」も2020年に低下した。この理由は比較的年齢が高い層に多く、体調にあわせて運動を実施している場合、2019年以前であれば体調が良い時は運動を増やしていた人も、2020年には増やしにくかった可能性がある。この理由は、2021年以降増加し、2022年調査では2019年以前にかなり近くなっている。
図表4 運動実施日数が増えた人の増えた理由
増えた理由として2020年に高くなっていた「仕事が忙しくなくなったから」と「コロナウィルス感染症対策によるスポーツの必要性に対する意識の変化」について、性別の就労・非就労、年齢、世帯収入別にみると、「仕事が忙しくなくなったから」は男性就労者、34歳以下で高く、「コロナウィルス感染症対策によるスポーツの必要性に対する意識の変化」は女性就労者、50~64歳、世帯年収1000万円以上で高かった(図表5)。
図表5 増えた理由として「仕事が忙しくなくなったから」と「コロナウィルス感染症対策によるスポーツの必要性に対する意識の変化」を回答した割合(2020年調査)
現在、運動習慣がない理由として、仕事や家事が忙しく、運動するための時間がとれないことがあげられるが、コロナ禍で仕事が減ったり、在宅勤務の導入によって通勤時間が減る等して、比較的若い人や就労者では運動の時間を作った可能性が考えられる。

続いて、運動・スポーツの実施が減った理由としても、2020年に「コロナウィルス感染症対策によるスポーツの必要性に対する意識の変化」が選択肢として追加されたが、いずれの年も「仕事や家事が忙しいから」が最も高かった。次いで、年によって順位は変動するが「年をとったから」「面倒くさいから」「コロナウィルス感染症対策によるスポーツの必要性に対する意識の変化」が続いた。
図表6 運動実施日数が減った人の減った理由
2020年に高くなっているのは、「場所や施設がないから」と「コロナウィルス感染症対策によるスポーツの必要性に対する意識の変化」で、コロナ禍の影響が見られた。
図表7 減った理由として「コロナウィルス感染症対策によるスポーツの必要性に対する意識の変化」を回答した割合(2020年調査)
減った理由のうち、「仕事や家事が忙しいから」「年をとったから」をはじめ、多くの理由で2020年にいったん低下した後、2021年以降はまた上昇をしていたが、「場所や施設がないから」「仲間がいないから」「お金に余裕がないから」等は、2022年には2020年をさらに下回っていた。

「コロナウィルス感染症対策によるスポーツの必要性に対する意識の変化」も2020年以降低下しているが、2022年時点でもなお、減った理由としてあげられていることから、今もコロナ禍による影響が続いていた。

減った理由として2020年に高くなっていた「コロナウィルス感染症対策によるスポーツの必要性に対する意識の変化」について、性別の就労・非就労、年齢、世帯収入別にみると、男女の非就労者、50歳以上、世帯年収が1000万円以上で高かった(図表7)。年齢層が高い人で割合が高くなっていることから、高年齢者で重症化リスクが高いとされていたことによって、比較的年齢が高い層が運動と運動に伴う感染リスクを避けた様子がうかがえる。
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

経歴
  • 【職歴】
     2003年 ニッセイ基礎研究所入社

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