2024年03月15日

『逃げ恥』“百合ちゃん”人気に見る女性管理職の多様性への欲求~「中高年女性会社員の管理職志向とキャリア意識等に関する調査~『一般職』に焦点をあてて~」より(4)

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

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1――はじめに

2016年にTBSテレビで放送され、2021年にも特別版が放送された大ヒットドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』を楽しみに見ていた中高年は多いのではないだろうか。“契約結婚“した新垣結衣さんと星野源さん演じる“偽装夫婦”の関係が、本当の恋愛に発展していく展開がメインストーリーだったが、脇役で登場し、中高年女性から人気を博したのが、石田ゆり子さん演じる「百合ちゃん」だった。独身のキャリアウーマンで、管理職。仕事はできるが、グイグイと部下を率いる古典的な管理職タイプではない。上層部への忖度はせず、部下に溶け込んでフラットな関係を築き、自然体でチームをまとめる新しいタイプの管理職――。そのような自然体で活躍するドラマの中のキャラクターが、多くの女性たちから支持され、また、“希望の星”となったのではないだろうか。

現実の日本では、まだまだ女性管理職が少なく、自ら「管理職に就きたい」という女性も少ないのが現状だが、職場の管理職に、押しの強いグイグイ型だけではなく、“百合ちゃん”のようなタイプが増えれば、女性たちが持つ「管理職」のイメージも変わり、「自分もああいう風になりたい」という意識も芽生えてくるのではないだろうか。

本稿では、『逃げ恥』の“百合ちゃん人気”を念頭に、中高年女性会社員の管理職像などについて、一般社団法人定年後研究所とニッセイ基礎研究所が昨年10月に共同研究として行ったインターネット調査「中高年女性の管理職志向とキャリア意識等に関する調査~『一般職』に焦点をあてて~1のデータを用いて考察する。
 
1 調査対象は、全国の、従業員500人以上の大企業に正社員として勤める45歳以上で、コース別雇用管理制度がある企業では「一般職」と「総合職」の女性。コース別雇用管理制度がない企業では、「主に基幹的な業務や総合的判断を行う職種」と「主に定型的な業務を行う職種」に就く女性。及び、定年前にこれらのコースや職種に就き、定年後も同じ会社で、継続雇用で働いている女性。有効回答数1,326(「一般職」1,000、「元一般職」39、「総合職」258、「元総合職」29)。

2――管理職の多様化

2――管理職の多様化

2-1│求められる管理職像の変化
ビジネス界では近年、期待される“管理職像”が変化している。工業化時代のピラミッド型組織では、権限を持ったリーダーが部下に指示を飛ばし、職場に出勤する部下の業務の進捗を管理監督してチームを率いていたが、ポスト工業化時代の流動性が高いフラットな職場では、リーダーには、部下と丁寧にコミュニケーションを取り、部下の成長を支援することが求められているという2

経営学のリーダーシップ研究をみても、古典的な理論では、リーダーの個性や行動スタイルに着目されていたが、次第に、リーダーと部下の「関係性」が着目されるようになった。最近では、リーダーが部下に奉仕して成長へと導く「サーバント・リーダーシップ」や、リーダーがありのままの自分をさらけ出して突き進み、メンバーを引っ張っていく「オーセンティック・リーダーシップ」など、リーダーと部下の信頼関係に重きを置いた理論に注目が高まっている3

経営学の観点から見たリーダーの“あるべき姿”は別にしても、国内の企業では、パワー・ハラスメント防止措置が強化されたり、新卒の採用難や若手の離職によって人手不足が深刻化したりし、管理職のタイプも、部下を垂直関係でグイグイ引っ張るタイプから、部下の話をよく聞くタイプや、穏やかなタイプなど、多様化しているのではないだろうか。
 
2 ダイアン・ガーソン、リンダ・グラットン(2022)「リーダーシップの転換点:部下の管理監督から成長支援へ」Daimond Harvard Business review, May 2022.
3 入山章栄氏(2019年)『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社)
2-2│現在の女性管理職のタイプ
現在の職場の管理職像を探るため、筆者らが昨年10月に行ったインターネット調査「中高年女性の管理職志向とキャリア意識等に関する調査~『一般職』に焦点をあてて~」から、大企業で働く45歳以上の中高年女性約1,300人に対し、職場にいる女性管理職のタイプと、自身が管理職になるとしたら、どのようなタイプを目指すかを尋ねた結果を紹介する。

まず、現在、職場にいる女性管理職のタイプを尋ねると(複数回答、図表1)、最も多いのは「部下の意見をよく聞き、協調して仕事を進めていくタイプ」(“協調型”)で35.7%だった。2番目に多いのが、「明確な指示を出し、部下をグイグイ引っ張っていくタイプ」(“グイグイ型”)の30.8%だった。次いで、「温厚で、人望によって周囲をまとめていくタイプ」(“人望型”)の24%、「目標やソリューションを論理的に説明し、言葉で説得して統率するタイプ」(“論理型”)の22.3%、「あまり指示を出さず、部下の自主性にゆだねるお任せタイプ」(“お任せ型”)の18.3%と、三つのタイプが20%前後で続き、様々なタイプの女性管理職が出現していることが分かった。なお、「該当しない・分からない」が24.8%と高かったが、テキスト回答の記入内容を見ると、「風見鶏」や「自分ファースト」など、ネガティブな記述が大半だった。

当調査では、対象を女性管理職に限ったこともあってか、従来の管理職に多いと筆者が予想していた“グイグイ型”は2位であり、“協調型”がそれを上回っていた。2-1|では、最近では、部下との信頼関係を重視したリーダーシップ理論に注目が高まっていると述べたが、女性管理職に限って言えば、現在でも、部下の意見をよく聞く“協調型”が上位となっているようだ。
図表1 職場にいる女性管理職のタイプ(複数回答)
2-3中高年女性が志向する管理職のタイプ
次に、現在は管理職に就いていない中高年女性に対し、将来的に自身が管理職に就く場合は、どんなタイプを目指すか(過去に管理職だった女性は、どんなタイプを目指していたか)を尋ねた結果が図表2である。図表1とは違って、一つだけ回答を選んでもらった結果、“協調型”が約4割に上り、圧倒的に多かった。次いで、“グイグイ型”と“論理型”、“人望型”がいずれも2割弱で並んだ。

2-2|で、現在でも女性管理職に限れば、“協調型”が“グイグイ型”を上回っていることを紹介したが、中高年女性の「志向」を見ると、“協調型”は、2位以下に差をつけていちばん人気となり、主流になりつつあることが分かった。「はじめに」で述べた『逃げ恥』の“百合ちゃん”も、これに似たタイプと言えるのかもしれない。
図表2 自身が目指す(または目指していた)女性管理職のタイプ(単一回答)

3――管理職の多様性を認め、伝える

3――管理職の多様性を認め、伝える~管理職に就くことへの“抵抗感”を減らす

2では、現在の女性管理職のタイプが多様化していること、中高年女性が目指すタイプは“協調型”が多いことを紹介した。ただし、経済界全体でみれば、男性管理職が大多数であり、男女を合わせれば、管理職のタイプの分布も異なるだろう。また、現在の50歳代の女性会社員は、平成一けた台の入社が多く、「これまでに仕えた上司は、昭和入社の“グイグイ型”の男性が多かった」という人も多いかもしれない。そのような女性にとっては、「“グイグイ型”でなければ管理職になれない」という思い込みや不安が生まれる可能性がある。

“グイグイ型”が悪いということではないが、2-3|でみたように、現在の中高年女性が志向する管理職タイプは“協調型”が多く、次いで“グイグイ型”、“論理型”、“人望型”など、多様化しているのが現状だ。従って、企業が女性管理職の登用を進めようとするなら、管理職として必要な役割と成果は求めるにせよ、マネージメントのスタイルには多様性を認め、そのことを社員に伝えていくべきではないだろうか。 

女性活躍のために、それを研修で実践している企業もある。この共同研究では、アンケートと並行して、大企業11社に「ダイバーシティ・中高年社員活躍に関する大企業取組インタビュー調査」を実施したが、その中の1社は、女性社員たちへのマネージャー・トレーニング制度の中で、外部講師から、管理職の多様性について話してもらっているという。

同社のダイバーシティの担当者は「グイグイいくだけがマネージャーではなく、『自分の得意な方法でマネージメントすれば良い』と伝えて、管理職に就くことの“抵抗感”を減らしつつ、能力を伸ばすようにしている」、「一人で仕切るのではなく、みんなでやっていこうとするのが最近の管理職のやり方」と話していた。このようなメッセージによって、女性社員たちは、ステレオタイプ的な管理職像を目指す必要がないことを理解し、自らが管理職として働くイメージを掴みやすくなるのではないだろうか。同社の女性管理職比率は現在、全国平均を上回る2割弱となっている。

4――終わりに

4――終わりに

はじめに述べたように、自ら「管理職に就きたい」と名乗り出る女性は少ない。その消極性には、様々な要因があると考えられるが、管理職に対して偏ったイメージを持っていれば、プラスの方向には働かないだろう。

筆者も約15年前、当時勤めていた会社の上司から、「たまには『先輩風』を吹かせて、後輩たちを飲みに連れていって」と言われ、何か小さなトゲのようなものが、胸に刺さったように感じたのを覚えている。今振り返って、その「トゲ」の正体を考えると、当時の自分には至らない点が多々あったにせよ、先輩風を吹かせて、後輩たちをグイグイ引っ張る“姉御肌”でなければ、上のポジションには行けないよ、と告げられたように感じたからかもしれない。

管理職に登用する以上は、一定の役割と成果が求められるが、それをどうやって達成していくかは、個人によって異なるだろう。マネージメントのタイプやスタイルは、無理して他人の真似をしても、反ってうまくいかないことが多く、多様性を認めるべきではないだろうか。

中高年女性に『逃げ恥』の“百合ちゃん”が支持を集めたことは、ステレオタイプ的な管理職像に対する抵抗感の裏返しであり、多様性への欲求と言うこともできるだろう。企業が女性活躍を推進するならは、自社の理念を実践していくために期待する管理職像について整理し、もし多様性を認めるならば、そのことを積極的に女性社員たちに伝えていくことが重要ではないだろうか。
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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性の雇用と暮らし、高齢者の移動サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

(2024年03月15日「基礎研レター」)

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