2024年03月14日

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3-2.新規供給見通し
前述の通り、「梅田地区」と「淀屋橋・本町地区」がそれぞれ、オフィス面積全体の約3割を占める。現在、両エリアでは大規模開発計画が進行中であり、オフィス市場における存在感がさらに高まる見通しである。以下では、「梅田地区」と「淀屋橋・本町地区」のオフィス開発計画を概観したい。
(1) 「梅田地区」
「梅田地区」では、北区梅田3丁目の「大阪中央郵便局」跡地で、日本郵便、JR西日本、大阪ターミナルビル、JTBおよび日本郵政不動産が「JPタワー大阪」(地上 39 階建て・延床面積約22.7万m2)を開発中で、2024年7月に開業予定である10(図表-19 ①)。このうち、オフィスは11階から27階の17フロアで、賃貸面積は約6.8万m2、基準階面積は西日本最大級の約4千㎡となる予定である。

また、JR西日本は、JR大阪駅の混雑緩和等の観点から、新たな改札口を西側高架下に整備している。同時に、新改札口に隣接した地上 23 階建ての複合ビル「イノゲート大阪」(延床面積約6万m2、オフィス賃貸面積約2.3万m2)を開発中で、2024年秋に開業予定である11(図表-19 ②)。

さらに、JR大阪駅前では、三菱地所を代表企業とする開発事業者JV9社が、うめきた2期地区開発プロジェクト「グラングリーン大阪」(地区面積約9.1ha)を開発中である(図表-19 ③)。北街区のホテル、商業施設および都市公園の一部が2024年9月に先行開業し、2027年頃までに全面開業する予定である。このうち、オフィスは、南街区で「パークタワー」(6~27階・貸室面積約9.3万m2)と「ゲートタワー」(5~17階・約2万m2)が2024年11月末に竣工予定である12
図表-19 「梅田地区」におけるオフィス開発計画
 
10 日本経済新聞「梅田の中央郵便局跡地に「JPタワー大阪」 24年7月開業」2023/3/7
11 大阪ターミナルビル株式会社「イノゲート大阪HP」
12 「グラングリーン大阪」HP
(2) 「淀屋橋・本町地区」
「淀屋橋・本町地区」では、ダイビルが中央区南久宝寺町4丁目のオフィスビル(旧「御堂筋ダイビル」)の建て替えを行い、「御堂筋ダイビル」(地上20階建て・延床面積約2.0万m2)が2024年1月に竣工した13(図表-20 ①)。また、NTT都市開発が中央区淡路町4丁目で「アーバンネット御堂筋ビル」(地上21階建て・延床面積約4.2万m2[賃貸オフィス面積約2.3万m2])を開発し、2024年2月に竣工した14(図表-20 ②)。

その後も、複数の大規模開発が計画されている。中央日本土地建物と京阪ホールディングスは、淀屋橋駅東地区の「日土地淀屋橋ビル」と「京阪御堂筋ビル」を共同で、地上31階の複合ビル「(仮称)淀屋橋駅東プロジェクト」(延床面積約7.3万m2)に建て替えを行い、2025年5月末に竣工予定である15(図表-20 ③)。

また、淀屋橋駅西地区では、大和ハウス工業、住友商事、関電不動産開発が、3社が所有する敷地・建物を共同化し、地上29階のオフィス主体の複合ビル(延床面積約13.2万m2)を開発中で、2025年12月に竣工予定である16(図表-20 ④)。
図表-20 「淀屋橋・本町地区」におけるオフィス開発計画
 
13 ダイビル株式会社「「御堂筋ダイビル」竣工のお知らせ」(2024年1月31日)
14 NTT都市開発株式会社「関西最高水準のウェルネスオフィス「アーバンネット御堂筋ビル」竣工~2024年6月中旬グランドオープン予定~」(2024年3月6日)
15 「(仮称)淀屋橋駅東プロジェクト」HP
16 淀屋橋駅西地区市街地再開発組合(大和ハウス工業株式会社、住友商事株式会社、関電不動産開発株式会社)「御堂筋・玄関口の新たなランドマークとなるオフィスビルが誕生 「淀屋橋駅西地区第一種市街地再開発事業」着工」(2022年11月1日)
(3) 大阪市の新規供給予定面積
2023年の新規供給量は約0.7万坪となり、大規模ビルの竣工が相次いだ2022年(約5.0万坪)の1割程度の水準に留まった。

しかし、2024年は「JPタワー大阪」や「イノゲート大阪」、「グラングリーン大阪」等の大規模ビルが竣工し、新規供給量は約8.7万坪に拡大し、過去最大となる見込みである。翌2025年も淀屋橋駅周辺等で大規模ビルが竣工する予定で、新規供給量は約2.7万坪となる見通しである(図表-21)。
図表-21 大阪のオフィスビル新規供給見通し
3-3..賃料見通し
前述のオフィスビルの新規供給見通しや経済予測17、オフィスワーカーの見通し等を前提に、2028年までの大阪のオフィス賃料を予測した(図表-22)。

大阪府の就業者数は、情報通信業等を中心に増加し、オフィスワーカーの割合の高い非製造業では人手不足感が強いことから、大阪ビジネスエリアの「オフィスワーカー数」が大幅に減少する懸念は小さいと予想される。

一方、大阪でも、フリーアドレスを導入して固定席の割合を減らし、在宅勤務を取り入れたフレキシブルな働き方に即したオフィスの利用形態に変更する企業が増えている。企業は、賃貸面積の縮小や、自社オフィスからサードプレイスオフィス利用への変更等を実施するとみられる。

また、万博の経済波及効果は2兆7,457億円と試算され、オフィス需要に対してもプラスの効果が期待されるが、想定よりも、来場者が大幅に下回る、あるいは工期に遅れが生じる場合、上記の経済波及効果が未達となる懸念もあり、今後の動向に注視が必要である。

一方、新規供給については梅田駅や淀屋橋駅を中心に複数の大規模開発計画が進行中である。2024年に過去最大の大量供給を控えるなか、今後、大阪の空室率は上昇すると予想する。

このため、大阪のオフィス成約賃料は、需給バランスの緩和に伴い下落基調で推移する見通しである。2023年の賃料を100とした場合、2024年の賃料は「98」、2025年の賃料は「95」、2028年は「94」に下落すると予想する。ただし、2023年対比で▲6%下落するものの、2019年と同程度の賃料水準に留まり、大幅な賃料下落には至らない見込みである。
図表-22 大阪のオフィス賃料見通し
 
17 経済見通しは、ニッセイ基礎研究所経済研究部「中期経済見通し(2023~2033年度)」(2023.10.12)、などを基に設定。
 
 

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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

(2024年03月14日「不動産投資レポート」)

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