2024年03月14日

文字サイズ

3.大阪オフィス市場の見通し

3-1.新規需要の見通し
(1) オフィスワーカーの見通し
2023年の大阪府の就業者数は467.1万人(前年比+1.9万人)となり、2年連続で増加した(図表-11・左図)。

就業者を産業別にみると、2019年を100 とした場合、オフィスワーカーの割合が高い「情報通信業」が138、「学術研究,専門・技術サービス業」が108、「金融業,保険業」が105 となり、コロナ禍以降、全体(102)を上回るペースで増加している(図表-11・右図)。
図表-11 大阪府の就業者数
次に、大阪のオフィスワーカー数を見通すうえで重要となる「近畿地方」における「企業の経営環境」と「雇用環境」について確認する。

内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」によれば、「非製造業」の「企業の景況判断BSI3」(近畿地方)は、コロナ禍の影響により2020年第2四半期に「▲51.9」と一気に悪化した後、一進一退を繰り返しながら回復し、2023年第4四半期は「+6.0」となった(図表-12)。

また、「非製造業の従業員数判断BSI4」(近畿地方)は、「+25.5」(2020年第1四半期)から「+2.7」(同第4四半期)へ大幅に低下した後、回復が続いている。2023 年第4四半期は+28.3 となり、コロナ禍前の水準を大きく上回った(図表-13)。

大阪府の就業者数は、情報通信業等を中心に増加し、オフィスワーカーの割合の高い非製造業では人手不足感が強いことから、大阪ビジネスエリアの「オフィスワーカー数」が大幅に減少する懸念は小さいと考えられる。
図表-12 企業の景況判断BSI(非製造業)/図表-13 従業員数判断BSI(非製造業)
 
3 企業の景況感が前期と比較して「上昇」と回答した割合から「下降」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど景況感
が悪いことを示す。
4 従業員数が「不足気味」と回答した割合から「過剰気味」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど雇用環境の悪化を示す。
(2) 在宅勤務の進展に伴うオフィスの見直し
パーソル総合研究所「テレワークに関する調査/就業時マスク調査」によれば、大阪府のテレワーク実施率は、概ね2割から3割の範囲で推移しており、2023年7月調査では22%となった。(図表-14)。大阪市においても、「在宅勤務」を取り入れた働き方が一定程度定着している模様である。
図表-14 大阪府 テレワーク実施率
大阪府商工労働部の調査によれば、「テレワーク等の取り組み度合い」に関して、卸売業やサービス業では、「導入初期と比べてテレワークやリモートワーク等は縮小」との回答は半数を占めたが、オフィスワーカーの割合が多い情報通信業では、「導入初期と比べてテレワークやリモートワーク等は拡大」との回答が約3分の2を占めた(図表-15)。

うしたなか、オフィスの見直しに着手する企業は増えている。また、大阪府商工労働部の調査によれば、「既存の自社オフィスに関する取り組み」に関して、「レイアウトの変更(61%)」との回答が最も多く、次いで、「フリーアドレス等の導入・拡大(27%)」、「自社オフィスの縮小(19%)」との回答が上位であった(図表-16)。大阪でも、フリーアドレスを導入して固定席の割合を減らし、在宅勤務を取り入れたフレキシブルな働き方に即したオフィスの利用形態に変更する企業が増えている模様だ。また、一部の企業は、賃貸面積の縮小や、自社オフィスからサードプレイスオフィス利用への変更5等を実施するとみられる。今後、大阪でもオフィスの見直しが更に進むことが予想され、引き続きオフィス需要への影響を注視したい。
図表-15 テレワーク等の取り組み度合い/図表-16 既存の自社オフィスに関する取り組み
 
5 JLL日本によれば、大阪におけるフレキシブルオフィスの総賃貸面積(2023年)は、58,070㎡(対2019年末+40%)に増加。
(3) 大型イベント開催(大阪・関西万博)の経済波及効果への期待
2025 年4月から開催予定の大阪万博による経済効果への期待は大きく、ビジネス拡大の機会と捉える企業は多い。

大阪府・大阪市万博推進局が2023年12月に行ったアンケート調査によれば、「万博の内容について、興味や関心があるもの、実際に会場まで見に行きたいと思うもの」に関して、「空飛ぶクルマ・無人運行船・自動運転車などの次世代型モビリティ(34%)」との回答が最も多く、次いで、「海外参加国・国際機関のパビリオン(26%)」、「人と共存するロボットやアンドロイドなどの技術(21%)」、「民間企業のパビリオン(21%)」との回答が上位であった(図表-17)。万博には、最先端技術・知見の提供が期待されている。

また、大阪観光局によれば、2023年に大阪府を訪れた訪日外国人客の消費総額は、9,210億円となり過去最高水準を更新した6。万博に伴う国内外の観光客の増加による関西経済の活性化を期待する声も大きい7

アジア太平洋研究所の推計8によれば、万博の経済波及効果は、2022年推計の2兆5,276 億円から2兆7,457億円へと上方修正された(図表-18)。このうち、大阪府への波及効果は2兆621億円(2022年推計:1兆8,496 億円)と試算しており、オフィス需要に対してもプラスの効果が期待されている。

一方、大阪府・大阪市万博推進局の調査によれば、大阪・関西万博への来場意向は全体で33.8%(前年比▲7.4%)、大阪府内では36.9%(同▲9.5%)、府外では27.6%(同▲3.3%)となり、前年調査から低下した9

また、大阪シティ信用金庫「中小企業における大阪・関西万博に関する意識調査」(2023年7月)によれば、大阪・関西万博の大阪経済活性化への期待度に関して、「期待できる」との回答した企業は62.6%となり、前回(2022年7月)調査から▲10.0%減少した。同調査では、「長引く原材料価格の上昇や人手不足等により、工期に遅れが生じるなど先行きの不透明感から期待度が低下したもの」としている。

想定よりも、来場者が大幅に下回る、あるいは工期に遅れが生じる場合、上記の経済波及効果が未達となる懸念もあり、今後の動向を注視したい。
図表-17 万博の内容について、興味や関心があるもの、実際に会場まで見に行きたいと思うもの/図表-18 大阪・関西万博の経済波及効果
 
6 日本経済新聞「大阪インバウンド消費最高に 23年、伝統文化体験で魅了」2024/1/23
7 関西生産性本部「第35 回KPC 定期調査結果」
8 アジア太平洋研究所「大阪・関西万博の経済波及効果 -最新データを踏まえた試算と拡張万博の経済効果-」
9 大阪府・大阪市万博推進局「令和5年度大阪・関西万博機運醸成事業KPI把握のための調査・分析」2024年1月
Xでシェアする Facebookでシェアする

金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【「大阪オフィス市場」の現況と見通し(2024年)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

「大阪オフィス市場」の現況と見通し(2024年)のレポート Topへ