2024年03月06日

産業集積でみる東京オフィスエリアの特色~探索的空間解析によるオフィス需要の「ホットスポット」検出~

金融研究部 主任研究員 吉田 資

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2-2-2.「金融業,保険業」
「金融業、保険業」について、統計的に有意で「ホットスポット(赤色)」に分類された地区(町丁目)は2012年が128箇所、2021年が96箇所、「一人負け(青色)」に分類された地区は2021年が19箇所、2021年が12箇所となった(図表-7)。

「ホットスポット」の地区数は、約10年間で約3分の2に減少した。金融サービスのデジタルシフト等に伴い、金融機関では店舗の統廃合が進んでいること8等が影響していると考えられる。
図表-7 「金融業,保険業」 ホットスポット分析結果
次に、東京の主要オフィスエリア別に、「ホットスポット」の占める割合(2021年・面積ベース)を確認すると、「京橋・八重洲・日本橋(100%)」が最も大きく、次いで「西新宿(92%)」、「丸の内・大手町(75%)」、「新橋・虎ノ門(64%)」、「東池袋・南池袋(61%)」の順に大きい(図表-8)。

「ホットスポット」の占める割合が50%以上のエリアは、36エリアのうち7エリア(千代田区「2」、中央区「2」、港区「1」、新宿区「1」、豊島区「2」)で、前述の「情報通信業」と比較して、その数は限定的であった。また、「渋谷区」に属するエリアは、いずれも30%未満となり、渋谷区での「金融業、保険業」の産業集積は確認できなかった。
図表-8 「金融業、保険業」の 「ホットスポット」の占める割合(36エリア)
また、「ホットスポット」の占める割合の増減をみると、「2012年時点はホットスポットに分類されなかったが、2021年時点でホットスポットに分類された地区(赤色棒グラフ)」の占める割合は、「麹町・番町(20%)」が最も大きく、次いで「西新宿(14%)」、「銀座(12%)」の順に大きい(図表-9)。

一方、「2012年時点はホットスポットに分類されたが、2021年時点でホットスポットに分類されなかった地区(青色棒グラフ)」の占める割合は、「銀座(48%)」が最も大きく、次いで、「日本橋本町・日本橋室町(34%)」、「五反田・大崎(21%)」の順に大きい。10%以上の減少は11エリア(千代田区「2」、中央区「3」、港区「1」、新宿区「1」、渋谷区「1」、豊島区「2」、品川区「1」)に達し、東京都区部の広い範囲で「ポットスポット」が減少している(参考図表 図表-17)。

「金融業、保険業」は、産業集積の地区数が減少するなか、オフィスエリア別にみても、多くのエリアで産業集積の後退を確認できる。
図表-9 「金融業、保険業」の 「ホットスポット」の割合増減(36エリア)
 
8 日本経済新聞 「メガ・地銀、消える1000店舗 宙に浮く支店の賃貸」2021/07/12
2-2-3.「学術研究,専門・技術サービス業」
「学術研究,専門・技術サービス業」について、統計的に有意で「ホットスポット(赤色)」に分類された地区(町丁目)は2012年が228箇所、2021年が255箇所、「一人負け(青色)」に分類された地区は2012年が25箇所、2021年が30箇所となった(図表-10)。

「ホットスポット」の地区数は、約10年間で12%増加した。総務省統計局「サービス産業動向調査」によれば、「学術研究,専門・技術サービス業」の売上高は、2013年の2兆1,998億円から2022年の2兆8,562億円へと約1.3倍に増加した。特に、コンサルティングビジネスは、経営課題の高度化・専門化が進むなか、市場が拡大している9。こうした状況を背景に、東京都区部では「学術研究,専門・技術サービス業」の産業集積が進んでいるものと考えられる。
図表-10 「学術研究,専門・技術サービス業」 ホットスポット分析結果
次に、東京の主要オフィスエリア別に、「ホットスポット」の占める割合(2021年・面積ベース)を確認すると、「京橋・八重洲・日本橋(100%)」、「銀座(100%)」、「新橋・虎ノ門(100%)」が最も大きく、次いで「麹町・番町(92%)」、「西新宿(92%)」の順に大きい(図表-11)。

官公庁や都庁等へのアクセスの良さから、「新橋・虎ノ門」や「麹町・番町」、「西新宿」は「士業」(弁護士等)の事業所が多いエリアと認識されており、上記の分析結果と整合的だといえる。

「ホットスポット」の占める割合が50%以上のエリアは、36エリアのうち16エリア(千代田区「4」、中央区「3」、港区「2」、新宿区「2」、渋谷区「3」、豊島区「2」)に達した。「学術研究,専門・技術サービス業」は情報通信業とともに、東京のオフィス需要を下支えしている状況が伺える。
図表-11 「学術研究,専門・技術サービス業」の 「ホットスポット」の占める割合(36エリア)
また、「ホットスポット」の占める割合の増減をみると、「2012年時点はホットスポットに分類されなかったが、2021年時点でホットスポットに分類された地区(赤色棒グラフ)」の占める割合は、「恵比寿・広尾(41%)」が最も大きく、次いで「池袋・西池袋(40%)」、「西新宿(38%)」、「桜丘・南平台(33%)」、「飯田橋・九段(14%)」の順に大きかった(図表-12)。渋谷・新宿・池袋の副都心ターミナル駅周辺で、「ホットスポット」が大きく増加している。

一方、「2012年時点はホットスポットに分類されたが、2021年時点でホットスポットに分類されなかった地区(青色棒グラフ)」の占める割合は、「日本橋本町・日本橋室町(34%)」が最も大きく、次いで、「新宿・歌舞伎町(11%)」が大きかった。

「学術研究,専門・技術サービス業」は、東京23区全体で産業集積の地区が増加している。オフィスエリア別にみると、渋谷・新宿・池袋駅周辺等で産業集積が進む一方、後退したエリアは限定的であり、安定したオフィス需要が期待できる産業といえそうだ。
図表-12 「学術研究,専門・技術サービス業」の「ホットスポット」の割合増減(36エリア)
 
9 IDC JAPANによれば、コンサルティング市場は、2015年の6,463億円から2020年の8,623億円(対2015年比33%)に拡大。
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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