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- イマーシブコンテンツの評価軸-如何に「没入感」を評価すべきなのか
2024年03月05日
1――はじめに
現地で様々なジャンルのイマーシブコンテンツに触れ、同施設が「何を」提供しようとしているのか筆者なりに観察した。またオープン後、様々なメディアより「結局イマーシブとは何なのか」という問い合わせを数多く受けた。本稿では、イマーシブコンテンツ市場の現状を「傍観型」と「非傍観型」の2つに分類し、それぞれの特徴から「何が没入感を生み出す要素なのか」整理する。またイマーシブコンテンツを評価する上で、なにを軸に評価すべきなのか筆者なりの評価軸を提示する。
2――「傍観型」と「非傍観型」
まず前提として「イマーシブ」の説明をする必要がある。イマーシブは「没入感」と訳される言葉で、リアリティあふれる映像や音響といった演出によって、その世界に浸ることができるようなコンテンツをイマーシブコンテンツと呼ぶ。以前のイマーシブに関するレポートで論じた通り、従来から存在していた体験型・参加型エンタメ(コンテンツ)もイマーシブと呼ばれるようになったこともあり、様々な場面でイマーシブという言葉を目にするようになった。
そのコンテンツは幅広く、脱出ゲームやメイドカフェ、VRに至るまで、体験できる内容が大きく異なるが、現状では「イマーシブ」と言う言葉で一括りにしている。しかし、筆者はイマーシブコンテンツの没入感を生み出す要素は大きく分けて「傍観型」と「非傍観型」に分類できると考える。
「傍観型」とはVR体験や従来のミュージカルやコンサートのように自身が特に何もする必要がなく視覚的な情報で別世界に没入できるようなコンテンツを指す。傍観型コンテンツの特徴は、提供されるコンテンツが技術革新によって成立しているという点である。チームラボやイマーシブミュージアムは、映しだされるリアリティあふれる幻想的な映像によって非日常に身を置くことが出来たり、VRや3Dシアターなどはゴーグルなどのデバイスの効果によって自身がその場にいるかのような体験をすることができる。これらは作られるコンテンツ(映像)やそれを投影するデバイスの技術があって初めて成り立つものである。
特に昨年ラスベガスにオープンした「スフィア(Sphere)1」と呼ばれるコンサート会場は顕著な例である。同会場は外側がLEDパネルで覆われた高さ約112メートルの巨大な球体型のコンサート会場で30階建てのビルの高さに相当すると言われている。スフィアの内部には解像度16KのLEDスクリーンと、16万7,000個のスピーカーが設置されており、デジタル映像などを使用して現実と仮想世界を融合させ、現実にないものも知覚できるデジタル環境を生み出している。また、18,600人分の座席が設置され、全席で高速インターネットに接続可能で、会場の1万席には利用者に力、振動、動きなどを与えることにより皮膚感覚で刺激を与える「ハプティック・テクノロジー(触覚技術)」が組み込まれている2。ここでコンサート参加者はアーティストの演奏だけではなく、ハード(スフィアのデジタル技術)によって実現した、より高次のアーティストの演出との融合を体感することができる。この流れは世界的な潮流となっており、イマーシブに特化したコンサート会場の建設や、そのような施設を擁していない国々においても没入感のある映像を用いたコンサート演出がスタンダードとなりつつあり、従来のステージ上でのアーティストのパフォーマンスのみのコンサートは今後はスタンダードではなくなっていくだろう。そもそも、ジャンルを問わず、新しい技術が生み導入することでより新しいコンテンツやエンターテインメントの提供に努めてきたのがエンタメ産業であり、あるアーティストがイマーシブな演出をして成功すれば、他のアーティストも追随していくというのは自然な流れである。世界的な目で見れば「傍観型イマーシブ」の導入はスタンダードクォリティになっていくだろう。
そして、この流れはエンターテインメント市場のみならず、企業のプロモーションや商業施設にも導入されている。アサヒビール株式会社は、茨城工場併設の「スーパードライ ミュージアム」を1月13日からリニューアルオープンしているが、そこでは「スーパードライ SKY ROAD」と呼ばれる試飲会場までの通路にプロジェクションマッピングを投影し、容器へ充填後、商品が運ばれ、国内外で「スーパードライ」が消費されている様が没入感のあるコンテンツとして展示している。また商業施設で言えばここ20年、大型ショッピングモールを始めとした「コト消費」が意識されたショッピング施設が建設されてきたが、昨今では角川武蔵野ミュージアムのように、商業施設(売り場)に没入感が付与され、買物をするだけでなく、消費者が体験価値を見出せるようなな取り組みも増えてきた。技術やハードに投資できればこのような没入感をもたらす技術は、どの業界でも導入することが可能であり、エンターテインメント市場のみならずその技術を享受していく業界は拡大し続けるだろう。
ここで留意したいのはこの「傍観型イマーシブコンテンツ」はどれも消費者や体験者は「観ているだけ」で没入感に浸ることができ、ある意味、能動性や主体性を擁さなくても体験できてしまうモノなのである。以上を整理すると「傍観型イマーシブ」が没入感を生み出す要素は技術革新(デジタルテクノロジー)で、体験者は能動性がなくとも没入体験をすることができるという特徴があるといえるだろう。
かたや、観客自身がその世界の登場人物・当事者として演出に巻き込まれ、物語に積極的に関わりをもつことができる「イマーシブシアター」や、「いらっしゃいませご主人様」の一言で入店と同時に主とメイドという疑似的な関係性が構築される「メイドカフェ」などを始めとしたコンセプトカフェにおいて、非日常性や没入感を生み出しているのは「人」であり、俳優やキャストが生み出す「生のライブ感」がその源泉となっているわけだが、その場で生み出されるライブ性に消費者自身が巻き込まれ、ただ座っているだけではなく「何かをすること」を強いられることではじめて没入感に浸ることができるのが「非傍観型イマーシブ」である。従来のコンテンツで言えば「謎解き」や「脱出ゲーム」などもこれに当てはまるだろう。つまり「非傍観型イマーシブ」は生のライブ性によって生み出される非再現性に自身が巻き込まれることで「歩く・走る・思考する・役を演じる」と言ったようにそのコンテンツを成立させる当事者となって能動性や主体性が必要とされるという特徴を有している。
「傍観型」及び「非傍観型」それぞれ、没入感を生み出している要素が「デジタルテクノロジー」、「能動性」、とその要素が大きく異なる。我々は、「イマーシブ」と言う言葉を見た時に、その没入体験がどの要素によって生み出されているか見定める必要がある。そのため筆者は「何がイマーシブか判断するのが困難」な場合、コンテンツの内容ではなく、そのコンテンツを成立させている要素から読み解くことでイマーシブ議論を整理できると考える。
「傍観型」とはVR体験や従来のミュージカルやコンサートのように自身が特に何もする必要がなく視覚的な情報で別世界に没入できるようなコンテンツを指す。傍観型コンテンツの特徴は、提供されるコンテンツが技術革新によって成立しているという点である。チームラボやイマーシブミュージアムは、映しだされるリアリティあふれる幻想的な映像によって非日常に身を置くことが出来たり、VRや3Dシアターなどはゴーグルなどのデバイスの効果によって自身がその場にいるかのような体験をすることができる。これらは作られるコンテンツ(映像)やそれを投影するデバイスの技術があって初めて成り立つものである。
特に昨年ラスベガスにオープンした「スフィア(Sphere)1」と呼ばれるコンサート会場は顕著な例である。同会場は外側がLEDパネルで覆われた高さ約112メートルの巨大な球体型のコンサート会場で30階建てのビルの高さに相当すると言われている。スフィアの内部には解像度16KのLEDスクリーンと、16万7,000個のスピーカーが設置されており、デジタル映像などを使用して現実と仮想世界を融合させ、現実にないものも知覚できるデジタル環境を生み出している。また、18,600人分の座席が設置され、全席で高速インターネットに接続可能で、会場の1万席には利用者に力、振動、動きなどを与えることにより皮膚感覚で刺激を与える「ハプティック・テクノロジー(触覚技術)」が組み込まれている2。ここでコンサート参加者はアーティストの演奏だけではなく、ハード(スフィアのデジタル技術)によって実現した、より高次のアーティストの演出との融合を体感することができる。この流れは世界的な潮流となっており、イマーシブに特化したコンサート会場の建設や、そのような施設を擁していない国々においても没入感のある映像を用いたコンサート演出がスタンダードとなりつつあり、従来のステージ上でのアーティストのパフォーマンスのみのコンサートは今後はスタンダードではなくなっていくだろう。そもそも、ジャンルを問わず、新しい技術が生み導入することでより新しいコンテンツやエンターテインメントの提供に努めてきたのがエンタメ産業であり、あるアーティストがイマーシブな演出をして成功すれば、他のアーティストも追随していくというのは自然な流れである。世界的な目で見れば「傍観型イマーシブ」の導入はスタンダードクォリティになっていくだろう。
そして、この流れはエンターテインメント市場のみならず、企業のプロモーションや商業施設にも導入されている。アサヒビール株式会社は、茨城工場併設の「スーパードライ ミュージアム」を1月13日からリニューアルオープンしているが、そこでは「スーパードライ SKY ROAD」と呼ばれる試飲会場までの通路にプロジェクションマッピングを投影し、容器へ充填後、商品が運ばれ、国内外で「スーパードライ」が消費されている様が没入感のあるコンテンツとして展示している。また商業施設で言えばここ20年、大型ショッピングモールを始めとした「コト消費」が意識されたショッピング施設が建設されてきたが、昨今では角川武蔵野ミュージアムのように、商業施設(売り場)に没入感が付与され、買物をするだけでなく、消費者が体験価値を見出せるようなな取り組みも増えてきた。技術やハードに投資できればこのような没入感をもたらす技術は、どの業界でも導入することが可能であり、エンターテインメント市場のみならずその技術を享受していく業界は拡大し続けるだろう。
ここで留意したいのはこの「傍観型イマーシブコンテンツ」はどれも消費者や体験者は「観ているだけ」で没入感に浸ることができ、ある意味、能動性や主体性を擁さなくても体験できてしまうモノなのである。以上を整理すると「傍観型イマーシブ」が没入感を生み出す要素は技術革新(デジタルテクノロジー)で、体験者は能動性がなくとも没入体験をすることができるという特徴があるといえるだろう。
かたや、観客自身がその世界の登場人物・当事者として演出に巻き込まれ、物語に積極的に関わりをもつことができる「イマーシブシアター」や、「いらっしゃいませご主人様」の一言で入店と同時に主とメイドという疑似的な関係性が構築される「メイドカフェ」などを始めとしたコンセプトカフェにおいて、非日常性や没入感を生み出しているのは「人」であり、俳優やキャストが生み出す「生のライブ感」がその源泉となっているわけだが、その場で生み出されるライブ性に消費者自身が巻き込まれ、ただ座っているだけではなく「何かをすること」を強いられることではじめて没入感に浸ることができるのが「非傍観型イマーシブ」である。従来のコンテンツで言えば「謎解き」や「脱出ゲーム」などもこれに当てはまるだろう。つまり「非傍観型イマーシブ」は生のライブ性によって生み出される非再現性に自身が巻き込まれることで「歩く・走る・思考する・役を演じる」と言ったようにそのコンテンツを成立させる当事者となって能動性や主体性が必要とされるという特徴を有している。
「傍観型」及び「非傍観型」それぞれ、没入感を生み出している要素が「デジタルテクノロジー」、「能動性」、とその要素が大きく異なる。我々は、「イマーシブ」と言う言葉を見た時に、その没入体験がどの要素によって生み出されているか見定める必要がある。そのため筆者は「何がイマーシブか判断するのが困難」な場合、コンテンツの内容ではなく、そのコンテンツを成立させている要素から読み解くことでイマーシブ議論を整理できると考える。
(2024年03月05日「基礎研レター」)
03-3512-1776
経歴
- 【経歴】
2019年 大学院博士課程を経て、
ニッセイ基礎研究所入社
・令和6年度 東京都生活文化スポーツ局都民安全推進部若年支援課広報関連審査委員
【加入団体等】
・経済社会学会
・コンテンツ文化史学会
・余暇ツーリズム学会
・コンテンツ教育学会
・総合観光学会
廣瀬 涼のレポート
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【イマーシブコンテンツの評価軸-如何に「没入感」を評価すべきなのか】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
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