2024年02月19日

女性は「管理職」を目指さなければならないのか~女性のウェルビーイングの視点から考える~

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

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4――終わりに

2010年代半ば以降、政府が「女性活躍」や「輝く女性」という言葉を発信するようになってから、正社員として働いていても、何となく白けた気持ちを感じた女性は多いのではないだろうか。その理由の一つは、現在の自身の状況との距離感にあるのかもしれない。「これまで、会社ではやりがいのある仕事をさせてもらえなかったのに、今さら」と思う女性もいれば、「家庭を回すのが大変で、管理職どころではない」と失笑している女性もいるかもしれない。中高年の世代では、既に結婚・出産で退職した女性が多いこと、女性管理職が少ないこと、そもそも非正規雇用で働く女性が多いこと、家事労働が女性に偏っていることなどを考えれば、「女性活躍」という言葉が白々しく響く、というのも当然だと思う。

ただ、現在の状況がどうであっても、中高年女性には、間もなく”老後”がやってくる。働けるのは今のうちだ。20歳代、30歳代などの若い女性にとっては、結婚や出産、育児など、目の前のライフステージのことを考えるのに精いっぱいで、二つも三つも先のステージである”老後”まで視野が及ばないかもしれないが、やはり、いずれ”老後”はやってくる。「女性活躍」という言葉への距離感や抵抗感を解消できなかったとしても、老後、自身が困窮することがないように、働けるうちに、少しでもキャリアアップと年収アップを目指す方が、得策と言えるのではないだろうか。少なくとも、現在のように、ジェンダーギャップが大きい日本では、老後の年金水準には大きな男女格差があることは、若い女性たちにも知ってもらいたいと思う。

結婚して世帯になれば、夫の年収があるから大丈夫だろう、と思う人もいるかもしれないが、現実には、未婚率は上昇している。また、結婚しても、離別する可能性もあれば、女性の方が平均寿命が長いため、死別してシングルになり、細々と遺族年金で暮らす女性も多い。自身がしっかり働くのが、安心した老後を迎えるための、いちばん確実な自己防衛策ではないだろうか。

そして何より、本稿で紹介したように、筆者らの共同調査で、管理職を経験した女性の約7割が、その経験を、人生の中で肯定的に受け止めている。女性管理職が少ない日本では、これまでは、とにかく「登用」のステージばかりに注目が集まりがちだったが、このような「就任後」の当事者の意識をフォローできたことは、大きな意義があると筆者は感じている。

管理職の仕事自体が大変であり、職場の組織運営や働き方等にまだまだ課題があるとしても、「給料」や「社会的地位」というだけでは説明しきれない、女性にとって、人生の経験値になる「何か」が得られるなら、長い職業人生の後半で、その景色を覗いてみても良いのではないだろうか。
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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性の雇用と暮らし、高齢者の移動サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

(2024年02月19日「基礎研レポート」)

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