2024年02月06日

HPVワクチンと子宮頸がん検診の動向~2022年度に3回目接種者数は対象人口の3割超。男性のワクチン定期接種化に向けた議論開始、HPV検査が公的がん検診に追加

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

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3――子宮頸がん検診の動向

ワクチンを接種しないという選択をした場合はもちろん、ワクチンを接種したとしても、HPVワクチンでは防げない種類のHPVがあることや、HPV感染以外の原因によるリスクもあるため、定期検診も重要となる。子宮頸がんは、長い年月をかけて進行するので、初期の細胞に異型が見られる段階で発見することができれば、早期に治療を行うことができる。しかし、厚生労働省による国民生活基礎調査(2019年)によれば、子宮がん・子宮頸がん検診の受診率は、上昇傾向にあるものの69歳以下で43.7%(過去2年間)16で半数に満たない。

このような中、2024年度から要件を満たす自治体について、従来の子宮頸がん検診(2年に1度の細胞診単独法。子宮頚部の細胞の変化の有無を調べる。)から、HPV検査単独法(原則5年に1度、HPVの感染有無を調べる。)への切り替えを認めることになった。HPV検査は採取した細胞からウイルスの有無を調べるため、がんになる前にリスクがわかる。また、HPV検査単独法で陰性だった場合は5年に1度の検診で済むため、検診の負担が軽くなることが期待できる。

HPV検査単独法で陰性だった場合は5年後に再度検診を受ければ良い。HPV検査単独法で陽性だった場合は、これまでと同様に細胞診が行われ、細胞診で陽性だった場合は、精密検査を受けることになる。細胞診で陰性だった場合は、1年以内に改めてHPV検査を受けることになる。HPV検査の陽性者は、検査時点ではがん病変がないが、その一部の人で数年後に有病者となる可能性があることから、長期的な追跡管理が必要となる。また、HPV検査は、擬陽性が多くなることが知られている。HPV検査単独法への切り替えは、長期的な追跡調査が可能な自治体に認められる方向であるほか、検診受診者も、検査の目的や内容をしっかり理解する必要があるだろう。
 
16 厚生労働省「2019 年 国民生活基礎調査の概況」(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa19/dl/14.pdf、2024年1月30日アクセス)

4――常に新しく正しい情報を得ていくことが重要

4――常に新しく正しい情報を得ていくことが重要

2022年度にHPVワクチンの積極的勧奨は再開された。2022年度には、1回目の接種者数は、対象者人口の4割を、3回目の接種者は3割を超え、接種者は増加してきている。

しかし、2023年1月に行った接種対象者やその保護者を対象とする調査の結果、HPVワクチンのことを知っているのは、保護者で半数程度、接種対象者では3割に満たない程度であり、情報が行き届いていない可能性がある。また、特に、保護者の中に、ワクチンに対する不安が払拭できていない人もいるようだ。

ワクチンの接種に対する意見は分かれたとしても、現在HPVウイルスは多くの人が保有していることや、ワクチンによって排除しうると考えられていることから、積極的勧奨が再開されていること、定期接種の積極的勧奨を行っていなかったことで接種機会を逃してしまった女性に対して、キャッチアップ接種を、公費で行っていること(今年度中)、HPV感染によって、HPVワクチンの予防効果が減少するため、性交経験前に接種しておくことが望ましいこと等の情報提供は、引き続き重要だろう。

子宮頸がんのほとんどがHPVウイルスが原因となっていることから、ワクチン接種が遅れている日本では、効果が大きいとされる若年女性の接種率を上げることが優先されているが、男性の定期接種化に向けた議論も開始されており、それに先だって、若い男性を対象に費用の補助を行っている自治体もある。また、海外の報告では、45歳までの接種はHPVワクチンの効果が認められていることから17、男女、年齢条件を緩和して、ワクチン接種を補助する動きもある18。常に新しく正しい情報を得ていくことが重要だろう。

子宮頸がん検診にも変化が見られる。2024年度から要件を満たす自治体について、従来の2年に1回の子宮頸がん検診から、原則5年に1回のHPV検査単独法への切り替えが認められることになった。ウイルスの有無を調べることから、がんになる前にリスクがわかる。また、HPV検査単独法で陰性だった場合は5年に1度の検診で済むため、検診の負担が軽くなることが期待できる。しかし、陽性の場合は、これまでと同様に細胞診を受けることや、翌年もHPV検査を受ける必要があることが重要となるほか、HPV検査によって擬陽性が増えることが予想されるなど、検査を受ける側も検査の目的や内容をしっかり理解する必要がある。
 
17 日本婦人科腫瘍学会「一般の皆さまへHPVワクチン(子宮頸がんワクチン)についてQ&A」(https://jsgo.or.jp/hpvqa/contents.html、2024年1月30日アクセス)
18 明治安田生命「女性の活躍を支える健康支援策の拡充について~HPVワクチン接種・女性特有のがん検診受診の後押しや相談ホットライン・更年期休暇の新設~」(https://www.meijiyasuda.co.jp/profile/news/release/2022/pdf/20230314_01.pdf、2024年1月30日アクセス)、資生堂健康保険組合「HPVワクチン(子宮頸がん予防ワクチン)接種費用補助」(https://www.shiseidokenpo.or.jp/member/health/vaccine.html、2024年1月30日アクセス)、メディカルノート「福利厚生として「HPVワクチン接種サポート制度」を導入。4月9日(子宮の日)スタート、接種費用を全額補助(2023年10月に補助は終了している)」(https://medicalnote.co.jp/posts/hj9mvmJd、2024年1月30日アクセス)等。
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

経歴
  • 【職歴】
     2003年 ニッセイ基礎研究所入社

(2024年02月06日「基礎研レポート」)

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【HPVワクチンと子宮頸がん検診の動向~2022年度に3回目接種者数は対象人口の3割超。男性のワクチン定期接種化に向けた議論開始、HPV検査が公的がん検診に追加】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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