2024年01月31日

訪日外国人消費の動向(2023年10-12月期)-J-wave 2.0で訪日韓国人が大幅増、コト消費は7割強

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

文字サイズ

1――はじめに~昨年から本格再開のインバウンド消費、2023年末までの状況は?

昨年からインバウンドが本格的に再開している。前稿1にて2023年6月までの状況を捉えたところ、訪日外客2数はコロナ禍前の7割、消費額は95%まで回復し、円安による割安感から宿泊日数が伸び、1人当たりの消費額が増えていた。国別の内訳では、コロナ禍前は外客数も消費額も約4割を占めて存在感のあった中国は回復途上にある一方、米国や韓国、台湾などの伸びが目立っていた。また、訪日消費の内訳を見ると、日本人の消費と同様、モノからサービス(コト)へと変化していた。

本稿では、観光庁「訪日外国人消費動向調査」などを用いて、2023年12月までの状況を捉える。
 
1 久我尚子訪日外国人消費の動向~円安で消費額はコロナ禍前の95%、インバウンドもモノからコトへ」、ニッセイ基礎研レポート(2023/8/9)
2 訪日外客とは、外国人正規入国者から日本を主たる居住国とする永住者等の外国人を除き、外国人一時上陸客等を加えた入国外国人旅行者のこと。駐在員やその家族、留学生等の入国者・再入国者は訪日外客に含まれる。

2――訪日外客数

2――訪日外客数~コロナ禍前より1割増、韓国はJ-wave 2.0効果で大幅増、米国は引き続き円安効果

訪日外客数は2022年後半から回復し始め、2023年10月(2,516,623人)にコロナ禍前を超えるようになり(2019年10月2,496,568人、2023年同月は2019年同月より+20,055人、増加率+0.8%)、12月(2,734,000人:推計値)ではコロナ禍前と比べて約1割増えている(同2,526,387人、同+207,613人、同+8.2%)(図表1)。
図表1 月別訪日外客数の推移
国籍・地域別に見ると、コロナ禍前の2019年10-12月で最も多いのは中国(29.4%)で、次いで台湾(15.5%)、韓国(8.7%)、香港(8.4%)、タイおよび米国(6.0%)までが5%以上で続く(図表2)。なお、東アジアが約6割を占める。一方、2023年10-12月2023年10-12月で最多は韓国(26.8%)で、次いで台湾(16.0%)、中国(10.8%)、香港(8.2%)、米国(7.5%)までが5%以上で続き、同様に東アジアが約6割を占める。

また、訪日客数の上位国を中心に、2019年10-12月と2023年同期の増加率を比べると、韓国(217.4%)で大幅に上昇しているほか、米国(29.8%)やシンガポール(22.8%)、豪州(22.4%)での上昇も目立つ。一方、中国(▲62.3%)は大幅に低下している。なお、韓国の訪日客数の増加分(2019年10-12月65万282人→2023年同期206万3,724人で+141万3,442人)は中国の減少分(同219万1,816人→同82万7,071人で▲136万4,745人)を上回っており、訪日中国人旅行客の大幅減少は訪日韓国人旅行客の大幅増加で相殺されていることになる。
図表2 国籍・地域別訪日外客数
訪日韓国人旅行客が著しく増えている理由には、まず、比較時期が日韓関係の悪化した2019年であることがあげられる。2019年7月に日本が半導体の輸出管理を強化したことに対して韓国が反発し、韓国国内では日本製品の不買運動が長期化し、訪日旅行客数も夏頃から著しく減少した(2019年1月779,383人→同12月247,959人へと3分の1以下へ)。一方、足元では、「J-wave 2.0」とも言われるようだが、韓国でZ世代の若者などを中心にJ-POPやアニメ、小説などの日本文化が流行していることが3、訪日客増加につながっているようだ。

一方、米国やシンガポールなどについては、前稿でも述べた通り、引き続き円安による日本旅行に対する割安感の影響によるものと見られる。

また、大幅に減少している中国については、2023年8月に中国政府による規制(日本行きの海外旅行商品の販売中止措置、年収による観光ビザの発給制限など)は緩和されたが、その直後に東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出が開始されたことに対して中国政府が反発したことに加えて、中国経済の低迷などの影響があげられる。ただし、中国人の訪日は改善傾向にはある(外客数は2023年4-6月期▲86.9%→同10-12月期▲62.3%)。
 
3 金 敬哲「BTSジョングクも『NIGHT DANCER』を大絶賛…! 韓国でいま「J-POP人気」が爆上がりしているのはなぜか?」(2023/6/15)https://gendai.media/articles/-/111755?imp=0

3――訪日外国人旅行消費額

3――訪日外国人旅行消費額~コロナ禍前より4割増、円安効果や物価高、購買意欲などが影響

訪日外国人旅行消費額は、訪日外客数と同様、2022年後半から回復し始め、2023年7-9月(1兆3,801億円:2次速報値)にコロナ禍前を超えるようになり(2019年同期1兆1,818億円、2023年同期は2019年同期より+1,983億円、増加率16.8%)、10-12月(1兆6,688億円:1次速報値)ではコロナ禍前と比べて約4割増えている(同1兆2,128億円、同+4,560億円、同+37.6%)(図表3)。

なお、前節で見た通り、足元の訪日外客数はコロナ禍前より約1割増えている一方、消費額は約4割も増えているため、訪日外国人1人当たりの消費額が伸びていることになる。

実際に、一般客41人当たりの旅行支出額を見ると、2019年10-12月では平均17万434円だが、2023年同期では平均21万8,201円(+4万7,767円、増加率+28.0%)へと増加している。また、1人・1日当たりでも、やや増加している(2019年10-12月:1万9,590円、2023年4-6月:2万5,372円で+5,782円、増加率+29.5%)。日本での平均宿泊日数は同様だが(同8.7日、同8.6日で▲0.1日)、円安による割安感で宿泊料や買い物代などの消費単価が増加していること(後述)や日本国内の消費者物価の上昇などの影響があげられる。
図表3 四半期別訪日外国人旅行消費額の推移
国籍・地域別に見ると、2019年10-12月で圧倒的に多いのは中国(32.1%)で、次いで台湾(10.1%)、香港(7.9%)、米国(7.2%)までが5%以上で続く(図表4)。なお、東アジアが過半数を占める。一方、2023年10-12月で最多は台湾と中国(いずれも13.9%、ただし金額は台湾が若干多い)で、次いで韓国(12.9%)、米国(11.3%)、香港(8.7%)までが5%以上で続き、東アジアが約半数を占める。

また、消費額の上位国を中心に、2019年10-12月と2023年同期の増加率を比べると、訪日外客数と同様に韓国(288.6%)で大幅に上昇しているほか、米国(113.8)やシンガポール(96.6%)、台湾(90.3%)、オーストラリア(54.3%)、香港(51.5%)での上昇も目立つ。一方、中国(▲40.4%)は大幅に低下している。なお、これらの増減の考察は前節で述べた通りである。また、同様に韓国の訪日消費額の増加分(2019年10-12月552億円→2023年同期2,145億円で+1,593億円)は中国の減少分(同3,893億円→同2,322億円で▲1,571億円)を上回っており、訪日中国人旅行消費額の大幅減少は訪日韓国人旅行消費額の大幅増加で相殺されていることになる。

なお、各国籍・地域の全体に占める訪日外客数と消費額の割合の関係を見ると、訪日外客数が多い国籍・地域ほど消費額が多い傾向はあるものの、滞在日数や購買意欲の違いなどの影響も大きいようだ。例えば、韓国は、2023年10-12月の訪日外客数は最多だが、平均泊数(全目的で6.6日、観光・レジャー目的で3.1日)は全体(同8.7日、同6.4日)と比べて、特に観光目的では半分以下と短いため、消費額は3位にとどまる。一方、訪日外客数が5位の米国は平均泊数(同12.7日、同9.8日)が長いため(全国籍・地域の1.5倍以上)、消費額(1,879億円)は韓国(2,145億円)に次ぐ。

また、中国からの訪日は回復途上だが、コロナ禍前に中国人の「爆買い」が見られたように、他国の訪日客と比べて消費意欲が旺盛であるために、足元でも訪日外客数に対して消費額が多い様子がうかがえる(訪日客数は3位だが消費額は首位の台湾と並ぶ)。

国籍・地域別に1人当たりの旅行支出額を見ると、2019年10-12月で最多は英国(32万7,227円)で、次いで豪州(28万3,785円)、フランス(25万7,665円)、スペイン(25万2,626円)、ドイツ(22万7,538円)、ロシア(22万4,066円)、イタリア(20万8,964円)、中国(20万6,285円)、カナダ(20万940円)までが20万円を超えて続く(図表略)。一方、2023年10-12月で最多はスペイン(39万2,819円)で、次いで英国(38万6,526円)、イタリア(36万8,783円)、オーストラリア(35万3,678円)、ドイツ(35万3,437円)、フランス(34万2,408円)、米国(32万4,139円)、カナダ(32万518円)までが30万円を超えて続き、2019年と比べて、各国籍・地域ともおおむね増えている。
図表4 国籍・地域別訪日外国人旅行消費額
 
4 訪日外客からクルーズ客の人数(法務省の船舶観光上陸許可数に基づき観光庁推計)を除いたもの
Xでシェアする Facebookでシェアする

生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【訪日外国人消費の動向(2023年10-12月期)-J-wave 2.0で訪日韓国人が大幅増、コト消費は7割強】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

訪日外国人消費の動向(2023年10-12月期)-J-wave 2.0で訪日韓国人が大幅増、コト消費は7割強のレポート Topへ