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中高年女性会社員の4割は「学び直し」に関心あり~「中高年女性会社員の管理職志向とキャリア意識等に関する調査~『一般職』に焦点をあてて~」より(3)

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子
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1――はじめに
1 調査対象は、全国の、従業員500人以上の大企業に正社員として勤める45歳以上で、コース別雇用管理制度がある企業では「一般職」と「総合職」の女性。コース別雇用管理制度がない企業では、「主に基幹的な業務や総合的判断を行う職種」と「主に定型的な業務を行う職種」に就く女性。及び、定年前にこれらのコースや職種に就き、定年後も同じ会社で、継続雇用で働いている女性。有効回答数1,326(「一般職」1,000、「元一般職」39、「総合職」258、「元総合職」29)。
2――「学び直し」に対する中高年女性会社員の経験と関心~ 「中高年女性会社員の管理職志向とキャリア意識等に関する調査~『一般職』に焦点をあてて~」の分析結果より
これまで、厚生労働省の調査でも、例えば自己啓発の経験がある労働者の割合は男性の方が女性より高く、若年層の方が中高年よりも高い傾向が指摘されていたが2、当調査では、中高年女性でも、自発的な学び直しについて「経験がある」と「関心がある」を合わせれば過半数に上り、学び直しへの意識が高いことが分かった。
このような学び直しへの意識の高さの背景について考えると、前稿(中高年の「一般職」女性は年収がなかなか上がらない~「中高年女性会社員の管理職志向とキャリア意識等に関する調査~『一般職』に焦点をあてて~」より(2))でも紹介したように、当調査の回答者の約75%を占める「一般職」では、約4割が、「転勤を伴う異動」と「転勤を伴わない異動」のいずれも経験したことが無いなど、これまでの職務範囲が狭いことが、関連していると考えられる。会社の経営環境が変わったり、デジタルツールの導入などで必要とされるスキルが変わったりしているにも関わらず、入社以来、ずっと同じ部署で働き、自身のスキルアップが頭打ちになっていることが、新しい知識やスキルの獲得へのモチベーションにつながっている可能性がある。
2 厚生労働省「能力開発基本調査」(令和4年度)。
3――中高年女性の学び直しへの経験・関心をどう活かすか
中高年女性会社員のうち学び直しに関心がある層が43.5%に上ったとは言え、注意を払いたいのは、うち約4割を「実際に行う時間が無い」層が占めることである。時間が確保できないままでは、実践につながらない。したがって、「時間の確保」が重要な点となる。
当調査は女性のみを対象としているため、男女比較はできないが、ここで厚生労働省の「能力開発基本調査」(令和4年度)を見ると、「自己啓発を行う上での問題点」という設問で、男性は「仕事が忙しくて自己啓発の余裕がない」(58.5%)がトップだったのに対し、女性は「家事・育児が忙しくて自己啓発の余裕がない」(34.9%)がトップになっている。学び直しのネックになっている点が、男性は日々の業務の忙しさであるのに対して、女性は家事育児の負担の大きさであることを示している。
日本では、夫婦共働きでも家事育児の負担が妻に偏りがちであり、働く女性は家族の用事を済ませるだけで夜間も休日も過ぎ、自分のやりたいことまで手が回らない、というケースが多いのではないだろうか。仕事には休日があるが、家事育児には休日が無いため、女性の方が、制約が大きいという見方もできる。
そのような状況で、企業が中高年女性に対して学び直しを促進するためには、内容が直接、業務に貢献すると考えられる場合には、業務命令として行うOFF-JTに組み込み、勤務時間内に実施させたり、業務外の自己啓発とする場合には、学びの時間を確保できるように、就業時間に配慮したりする工夫が必要ではないだろうか。
中高年女性の学び直しへの経験・関心をどう生かすかを考える上で、もう一つ大切なのは、学び直しを実践した後に、どのように本業に生かすか、という点である。座学で学んだことを現場で役立てるためには、学んだ内容を扱う職務に就く必要がある。それは本人だけでは決められないので、あらかじめ上司と密に相談した上で、獲得した知識やスキルを使えるポジションに配置したり、希望するポジションへの公募を可能にしたりするなど、職務に結びつける工夫が必要だろう。そこで学び直しの成果を活用できれば、企業と本人の双方にメリットが生じ、企業の「人材戦略」に叶うものとなる。
そこで、中高年女性の現状が、それができる状態かどうかを確認するため、定年後研究所とニッセイ基礎研究所の調査に戻って「上司からどのようなキャリアや仕事の仕方を期待されていると感じますか」の回答をみると、図表2のようになった。「仕事のスキルを上げること」(32.4%)と「従来通りの業務の継続」(29.6%)が拮抗している。つまり、学び直しをして、スキルアップなどを希望する女性が過半数に上るのに対し、実際には、上司からスキルアップを期待されていると感じている女性は約3割、現状維持を期待されていると感じている女性が3割、という結果である。スキルアップを期待されていなければ、たとえ学び直しをしたとしても、配置などで考慮されず、業務に生かせない可能性がある。
企業にとって、人材戦略や人材開発が求められている以上、今後は、上司と女性会社員が学び直しの必要性や目的、内容等についてすり合わせ、事後に、配置によって本業に生かせるようにする取組が必要ではないだろうか。
4――終わりに
本稿で紹介した定年後研究所とニッセイ基礎研究所の共同調査からは、大企業に勤める中高年女性の過半数が、学び直しの経験または関心があるが、家庭との両立の忙しさから、学び直しを実践に移せない女性たちがいることや、仮に学び直しを実践できたとしても、自身の意識と、上司からの期待と間にギャップがあり、本業で生かせない可能性があることを紹介した。
これらを解消するためには、3でも述べたように、まず、学び直しをする「時間がない」問題については、企業が、自発的な学び直しの実践を社員任せにするのではなく、社内のOFF-JTを充実させ、意欲がある社員に対しては、性別や年齢、雇用形態やコース等に関わらず門戸を開き、勤務時間に学ぶチャンスを提供する方法が考えられる。また、学び直しの内容が、業務との関連が高い場合には、就業時間に配慮する方法も考えられる。
今後、学び直しへの注目が一層、高まっていくことが予想される中、学び直しを「生かす場がない」という問題は、今後も多くの企業にとって課題となる可能性がある。これを解消するためには、上司が社員とあらかじめコミュニケーションを取り、会社の経営課題と、社員の能力開発に関する意識をすり合わせ、本人に、学んだ内容を職場で生かすチャンスを与えることが必要となるだろう。
いずれにしても、企業が人材戦略の中に中高年女性をきちんと位置付けておくことが、前提となる。「人への投資」が注目を集めているが、その始めの一歩は、企業が、現在の労働者に、今後求めるべき役割を再考し、どのように成長してほしいかを整理し、本人にその期待を伝えることにあるのではないだろうか。
(2024年01月29日「基礎研レター」)
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03-3512-1821
- 【職歴】
2002年 読売新聞大阪本社入社
2017年 ニッセイ基礎研究所入社
【委員活動】
2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
2023年度 日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員
坊 美生子のレポート
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