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中高年の「一般職」女性は年収がなかなか上がらない~「中高年女性会社員の管理職志向とキャリア意識等に関する調査~『一般職』に焦点をあてて~」より(2)

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子
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1――はじめに
実は一般職でも、今まで勤続している「均等法第一世代」の女性たちは存在する。当然その後には、第二世代、第三世代とも言うべき、中年の一般職の女性たちが続いている。キャリアウーマンの先駆者でないとしても、女性の長期雇用の道を切り開いてきた彼女たちは、これまでどのようなキャリアを積み、それによってどのような生活基盤を築いてきたのだろうか。日本が本当の意味で「女性活躍」を実現し、世界的に遅れたジェンダーギャップを是正していくためには、幹部候補として採用された総合職だけではなく、彼女たちのような“中間層”とも言うべき一般職についても、キャリアアップを促していくべきではないだろうか1。
そのような観点から、一般社団法人定年後研究所とニッセイ基礎研究所は昨年10月、共同研究として、大企業で働く45歳以上の中高年女性会社員約1,300人を対象に、インターネット調査「中高年女性の管理職志向とキャリア意識等に関する調査~『一般職』に焦点をあてて~」を実施した2。一般職と総合職のコース別に、採用時と現在の仕事への意識、コース転換の意向や管理職志向、教育機会、年収など、幅広く、たくさんの分析を行った。調査結果全体は2月に公表予定であるが、本稿では、結果の一部として、一般職の年収分布について紹介する。
1 非正規雇用の女性たちの底上げも重要だと考えているが、本稿では論考の対象外としており、今後の筆者の課題としたい。
2 調査対象は、全国の、従業員500人以上の大企業に正社員として勤める45歳以上で、コース別雇用管理制度がある企業では「一般職」と「総合職」の女性。コース別雇用管理制度がない企業では、「主に基幹的な業務や総合的判断を行う職種」と「主に定型的な業務を行う職種」に就く女性。及び、定年前にこれらのコースや職種に就き、定年後も同じ会社で、継続雇用で働いている女性。有効回答数1,326(「一般職」1,000、「元一般職」39、「総合職」258、「元総合職」29)。
2――中高年一般職女性の年収分布
当調査では、現在の個人年収について、年齢階級と「総合職」/「一般職」というコース別に、八つのカテゴリーにわけて、分布を分析した。なお、コース別雇用管理制度がない企業でも、「主に基幹的な業務や総合的判断を行う職種」に就いている女性は「総合職」と同じカテゴリー、「主に定型的な業務を行う職種」に就いている女性は「一般職」と同じカテゴリーに分類して調査対象に加えた。
その結果は図表1の通りである。以下の表で、各カテゴリーに占める割合が20%以上で、分布の山となる年収階級(濃いオレンジ色で塗りつぶし)を見ると、まず「総合職」については、「45~49歳」では「400万円~600万円未満」、「50~54歳」では「600万円~800万円未満」と「400万円~600万円未満」、「55~59歳」では「600万円~800万円未満」が該当し、おおむね年齢階級が上がるにつれて、山がより高い階級に移っていることが分かった。「元総合職60歳以上」はnが小さいため、参考値である。
これに比べて「一般職」では、20%以上の年収階級は「45~49歳」と「50~54歳」、「55~59歳」のいずれも「200万円~400万円未満」と「400万円~600万円未満」の二つで、変わりなかった。「50~54歳」では唯一、「600万円~800万円未満」が10%を超え、「45~49歳」よりもやや上昇したが、全体としては、45歳から59歳までは、年齢階級が上がっても、分布の山には大きな変化が見られなかった。なお、「元一般職60歳以上」は「200~400万円」が約半数に増えているが、これは、定年退職後に継続雇用となるなどして、賃金水準が低下した女性が多いためだと考えられる。
つまり、一般職では中高年になると、年齢階級が上がっても、職務や職位がステップアップしないために、あまり昇給していない可能性がある。
「一般職」に多いと見られる事務職については、先行研究でも、加齢に伴う賃金上昇がほとんど見られないことが指摘されている。寺村(2012)によると、総務省の就業構造基本調査を用いて分析した結果、男性では、加齢の賃金への効果が大きいのに対し、女性の場合は、30~40歳代が賃金のピークで、その後は低下することが示されたという3。また、事務職の中で、どのような職務内容だと賃金を維持できるのかを分析したところ、「一般事務」、「会計事務」、「事務用操作機器」、「運輸・通信事務」、「外勤事務」の5つのうち、加齢によって賃金が上昇していたのは「会計事務」のみだったという。
3 寺村絵里子(2012)「女性事務職の賃金と就業行動―男女雇用機会쬣等法施行後の三時点比較―」『人口学研究』(第48号)2012.6
3――中高年一般職女性のキャリア不足
同調査によると、これまでに、「転勤を伴う異動」と「転勤を伴わない異動」のいずれも経験したことがない女性は、「総合職」では29.5%だったのに対し、「一般職」では42.6%に上った。当調査は、従業員規模500人以上の大企業に勤める女性を対象としているため、様々な部署があると考えられるが、一般職の約4割は、入社以来、一度も異動を経験したことがなく、ずっと同じ部署で働いていることになる。異動は、社員の職務範囲を広げ、知識を増やすと考えられるが、一般職の約4割は、一度もその機会を与えられていない。
また、同じく職場で「チームリーダーの仕事」の経験の有無を尋ねると、「経験がない」と回答したのは「総合職」では34.8%に対し、「一般職」では58.5%に上った。チームリーダーの仕事は職務のレベルを上げ、会社での経験値を上げるものだと考えられるが、中高年一般職女性の約6割は、これまでに一度もその機会を与えられていないことが分かった。このようなキャリア不足が、中高年の一般職女性が、年齢階級が上がっても賃金があまり伸びない要因となっていると考えられる。
4――終わりに
企業は今後、中高年であっても、一般職女性であっても、一人ひとりの職務範囲を拡張するなどして、能力開発を図り、人的資本を活用していくべきではないだろうか。つまり、中高年の一般職女性を「女性活躍」の対象から除外しないということである。近年、物価高によって、企業に対する賃上げへの圧力は高まっているが、持続的な賃上げを実現するためにも、中高年の一般職女性を含めた一人ひとりに、生産性向上を促していく必要があるだろう。
また、中高年の一般職女性の側にも、同じことが言えるのではないだろうか。入社時は困難であった仕事も、経験を通じて次第に精通していく。それ以上、ステップアップする余地がなくなったら、自ら新しい仕事にチャレンジして、キャリアアップを目指すことを期待したい。本稿のタイトルにした「中高年の『一般職』女性は年収がなかなか上がらない」に共感する女性は多いと思うが、自身の年収アップのためには、その原資を自ら生み出すように取り組むことも必要だろう。自らその姿勢に転じた時に、「女性活躍」は、他人事ではなくなるのではないだろうか。
(2024年01月29日「基礎研レター」)
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03-3512-1821
- 【職歴】
2002年 読売新聞大阪本社入社
2017年 ニッセイ基礎研究所入社
【委員活動】
2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
2023年度 日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員
坊 美生子のレポート
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