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新たな金融手法「ブレンデッド・ファイナンス」-気候変動対策への活用
総合政策研究部 准主任研究員 鈴木 智也
1――はじめに
ただ、これだけ大規模な投資を、公的資金だけで賄っていくことは難しい。2020年以降、ポスト・コロナやインフレ対策、複雑化する国際情勢への対応で、財政に余裕のある国は多くない。この資金ギャップを埋めるには、民間資金を大規模に動員していくことが欠かせない。
その手段として、いま注目を集めているのが、ブレンデッド・ファイナンス(Blended Finance)という金融手法である。ブレンデッド・ファイナンスは、公的資金と民間資金を組み合わせて、投資規模を拡大する仕組みであり、主に信用格付が低く民間資金が投じられ難い、発展途上国向けの資金調達手段として利用されて来た。それが近年、先進国のクリーン・エネルギー関連投資においても活用の範囲を拡げようとしている。
本稿では、このような古くて新しいブレンデッド・ファイナンスの金融手法に着目し、今後、拡大が見込まれる気候変動対策(GX分野)への活用について考察する。
1 IEA「Net Zero Roadmap A Global Pathway to Keep the 1.5 °C Goal in Reach」(2023年9月)
2 UN「Sharm el-Sheikh Implementation Plan」(2022年11月20日)
3 IRENA「Global landscape of renewable energy finance 2023」(2023年2月)
2――ブレンデットファイナンスの仕組み
このように公的資金がリスク吸収する仕組みは幾つかある。例えば、カナダに本拠地を置くブレンデッド・ファイナンスの国際的な推進組織「コンバージェンス(Convergence4)」は、この仕組みを4つの一般的なアプローチに分類している。すなわち、(1)譲許的資本、(2)保証・リスク保険、(3)技術支援、(4)助成金の4つである[図表1]。
(2) 保証・リスク保険は、公的機関等がプロジェクトに保証や保険を提供して信用補完する。保証には、投資額の全額または一部を保障するものや、政治的リスクなど特定のリスクを補償するものがあり、損失が出た場合だけ支出が必要となる保証は、資金効率的で開発金融ツールとしての期待が大きい。実際、OECDの調査5では、直接投融資より多くの民間資金が動員できるとされる。
(3) 技術援助は、主に公的機関が補助金などを提供し、プロジェクトの準備や実施、より広範なビジネス環境の整備など様々な活動を支援する。資金調達から運営全般にわたる計画を最適化し、そのために必要な研究や調査(デュー・ディリジェンス)、運営人材を維持・強化するための教育を施し、プロジェクト全体のリスクを低減する。
(4) 設計段階の助成金は、プロジェクトの実現可能性や開発効果を改善し、民間資金を大規模かつ持続的に呼び込むため、プロジェクトの立ち上げ・設計段階で提供される。
最も一般的に使用される手法は、公的資金が提供する譲許的資本(株式や低利融資など)であり、7割を超えるプロジェクトで使用されている[図表2]。
4 Convergence は、2015年に世界経済フォーラム(WEF)および経済協力開発機構(OECD)が主導するイニシアチブ"Redesigning Development Finance Initiative”の一環で設立された民間組織。発展途上国におけるブレンデッド・ファイナンスに焦点を当て、発展途上国における民間資金の投資を促進することを目指す。
5 OECD「THE ROLE OF GUARANTEES IN BLENDED FINANCE」(2021年5月)
3――環境変動対応型ブレンデッド・ファイナンスの現状
世界では、気候変動に対する関心が高まっているにも関わらず、気候変動対応型のブレンデッド・ファイナンスが減少している背景には、国際的に悪化したマクロ環境の変化がある。例えば、2020年以降に深刻化したコロナ禍では、ロックダウンや経済活動の自粛が続き、各国の経済社会が麻痺し、各国の財政負担が増加した。また、2022年に勃発したロシア・ウクライナ戦争では、物流網の混乱や一次産品の高騰で、各国の物価が大きく高騰した。さらに、パキスタンやリビアで大規模な洪水が被害をもたらすなど、緊急の人道的支援が必要となる案件が増えている。こうしたマクロ面の動きが重なり、気候変動に割く資金が世界的に減少したことが影響したとされる。
なお、気候変動への取組みは、原因物質の温室効果ガスを削減する「緩和(Mitigation)」、気候変動の悪影響を軽減する「適応(Adaptation)」、両者の特性を併せ持つ「ハイブリッド(Hybrid)」の3つに分けることができる。
気候変動対応型のブレンデッド・ファイナンスにおいては、そのほとんどが緩和であり、年間取引件数の約6割(25件程度)、年間投資総額の約7割(65億ドル程度)を占めている。緩和は、温室効果ガスの排出削減に直接つながるため、定義が明確で目標の設定がしやすく、排出量取引を通じて投資収益を上げやすいなど、投資を手掛けやすい特徴がある。
取組み別に次に多いのはハイブリットである。ハイブリッドは、年間取引件数の約25%(10件程度)、年間投資総額の約2割(18億ドル程度)を占めている。農業分野が取組みの中心であり、インフラ、金融サービス、住宅、不動産など幅広い領域が対象となる。緩和と適応の両者の特徴を併せ持つことが特徴であり、農業分野では二酸化炭素の排出防止は緩和、食糧供給の確保が適応に該当する。
資金集めに最も苦労するのは適応である。適応は、年間取引件数の約15%(6件程度)、年間投資総額の約1割(7億ドル程度)を占めるに過ぎない。高リスク・低リターンとの認識が持たれる適応は、目的達成に掛かる時間の長さや、投資家の基準を満たさない取引規模の小ささ、投資成果を図るのに標準化された基準がないといった特徴が影響し、なかなか投資規模を拡大できないでいる。
民間資金のリスクを低減する手法については、気候変動対応型のブレンデッド・ファイナンスにおいても譲許的資本が中心である。譲許的な手段としては、シニア債(Senior Debt)の利用が一般的であり、次いで劣後債(Subordinate Debt)の利用が多い[図表4]。以前は、複数の譲許的手段を用いられて来たが、最近は投資家を惹きつけるため、よりシンプルな構造に変わって来たようだ。
6 Convergence「State of Blended Finance 2023」(2023年10月25日)
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- 【職歴】
2011年 日本生命保険相互会社入社
2017年 日本経済研究センター派遣
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2021年より現職
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・日本証券アナリスト協会検定会員
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