2023年12月27日

日経平均バブル後高値更新3万5000円へ~2024年の株価見通し~

金融研究部 主席研究員 チーフ株式ストラテジスト 井出 真吾

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1――サマリー

2023年の日経平均は大幅上昇した。日米の金融政策が転換点にあること、米景気の減速などで24年前半は不安定な状況が続きそうだが、日本企業の業績は好調が見込まれており、夏~秋にかけて3万5000円程度までの上昇は期待できそうだ。

2――日銀の緩和維持で再び上昇、FRBのハト派豹変も追い風

2――日銀の緩和維持で再び上昇、FRBのハト派豹変も追い風

日経平均株価は2023年7月3日にバブル後の最高値3万3753円をつけた後、軟調な展開が続いた。一時は3万円割れも危ぶまれたが、12月13日の米FOMC(連邦公開市場委員会)で利下げについて議論されたことが明らかになり、同19日に日本銀行が金融政策の「現状維持」を決定すると騰勢を強め、一時3万3,800円を回復した。
【図表1】2023年の日経平均は大幅上昇
11月にはインフレ退治を優先するため12月に再び利上げする可能性すら示唆していた米FRB(連邦準備制度理事会)がハト派に豹変、早期のマイナス金利解除(利上げ)に踏み切るのではないかと一部で警戒されていた日銀が緩和姿勢を維持したことで、投資家心理が急速に和らいだ格好だ。

3――好調持続が見込まれる日本企業の業績

3――好調持続が見込まれる日本企業の業績

日本企業の業績が好調だ。3万3000円台でも日経平均の予想PER(株価収益率)は15倍程度で、ファンダメンタルズ的には割高感は全くないと言える。最新の業績見通しによると、23年度は約65%の企業が増益を見込んでおり、純利益の合計額は会社予想ベースで6.4%増、市場予想では9.5%増だ。会社予想が保守的なのは毎年の“恒例行事”であることを考えると、過去最高益を更新することはほぼ確実だ。市場予想どおりの場合、23年度のROEは9.4%となる。
 
さらに24年度についても11%の大幅増益が見込まれている(市場予想ベース)。この場合のROEは10.0%で(23年度純利益の5割を株主資本に加算すると仮定)、過去最高だった17年度の10.4%に近づく。理論的にはROEが改善すれば株価が上昇しやすいのは当然だが、海外投資家も日本株の魅力を再認識するかもしれない。
【図表2】好調が期待される日本企業の業績
理由は2つ。まず24年の賃上げがほぼ確実視されることだ。23年4月~6月に海外投資家は日本株を7.2兆円(現物、先物合計)買い越したが、最大の理由は「歴史的水準の賃上げ」だという。日本は物価も賃金も上昇し、「いよいよインフレの時代に入ったようだ。ならば日本株は買いだ!」というわけだ。その後の円安で海外投資家の日本株ポジションは一時含み損に陥ったとみられるが、円安一服と株価上昇で再び含み益を確保しているだろう。
 
FRBの利上げは終盤にあり24年にも利下げに踏み切るとみられている。一方、日銀が動くとすれば緩和縮小方向しか考えられず、海外投資家にとっての「円安リスク」は遠のいた。そこに2年連続の大幅な賃上げが重なれば、海外投資家の「日本株買い第2弾」が来ても全く不思議ではない。新NISAスタートで国内個人投資家の資金流入が見込まれることも需給面でプラス要因だ。24年度業績の堅調さを確認できる夏~秋にかけて日経平均3万5000円回復も期待してよいだろう。

4――リスクは米国景気の急減速

4――リスクは米国景気の急減速

問題は米国景気が底堅さを維持できるかどうかだろう。超過貯蓄(コロナ禍の外出自粛で使わずに済んだお金)や給付金などが消費を下支えしてきたこともあり、23年の米国消費は市場の想定以上に堅調に推移した。
 
しかし、さすがに米国民にインフレ疲れが出てきたのか、ミシガン大学消費者信頼感指数が4カ月連続で低下するなど消費者マインドは悪化傾向が目立ち、10月の米小売売上高は前月比0.1%減と、23年3月以来7カ月ぶりに減少した。しかも内訳をみると食料品など生活必需品の売れ行きはまずまずだが、家具やスポーツ用品など不要不急のモノは減少幅が大きかった。
 
年末商戦の売れ行きは悪くなかったものの、人々が値引きを待っていた様子や無利息の後払い(要はツケ)の購入額が予想を遥かに上回った。あと数ヶ月ほど様子を見ないと確かなことはわからないが、米国の消費に陰りが出始めたようにも見える。クレジットカードの延滞が急増していることや、10月に返済が再開した学生ローン(奨学金)の延滞率が6割にのぼったというニュースも気がかりだ。
【図表3】米国のクレジットカード延滞率が急上昇
IMF(国際通貨基金)やOECD(経済協力開発機構)によると、米国の実質GDP成長率は23年の2%強から24年は1.5%程度に減速するという。このくらいの減速ならFRBが目指している「ソフトランディング」の範疇であり、マーケットにも大きな問題は生じないだろう。
 
だが今後、FRBによる高金利長期化で米国景気が急減速した場合、米国株下落が日本株に悪影響を及ぼすリスクには注意が必要だ。かねて指摘してきたように米国株はバブルの様相を呈している。図表4のとおり、S&P500ベースの23年の予想EPS(1株あたり純利益)は23年1月時点よりも低い。24年は23年より改善が見込まれているものの、やはりゆるやかな低下傾向が続いている。それにもかかわらず株価は22年末から23%上昇した(23年12月25日時点)。NASDAQに至っては予想EPSがほぼ横ばいなのに株価は43%の上昇だ(同)。
 
米国株が上昇した主な理由は、23年の米国景気が想定以上に底堅く推移したこと、FRBの利上げ終了と24年の利下げ開始が視野に入ったことだが、株価はファンダメンタルズでは説明できない水準まで上昇している。FRBの利下げ開始時期が市場の期待よりも後ずれするなど何らかの要因で市場心理が悪化すれば、米国株は10%~20%の下落余地がある。
【図表4】米国株は割高か
その場合、日本株も無傷ではいられない。もし米国景気の急減速が市場で意識されれば円高(ドル安)も急ピッチで進む可能性が高い。米国株下落と円高のダブルパンチで、日経平均は3万円程度まで下落するリスクもある。
 
仮にこうしたリスクが顕在化するとしたら、恐らく24年前半だろう。というのもFRBは遅くとも24年の年央以降には利下げに踏み切ると思われ、また米国景気が急減速するならば、それは24年前半に起こるとみられるからだ。日米の金融政策が転換期に差し掛かっている24年前半は、まだ不安定な状況が続きそうだ。
 
 

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金融研究部   主席研究員 チーフ株式ストラテジスト

井出 真吾 (いで しんご)

研究・専門分野
株式市場・株式投資・マクロ経済・資産形成

経歴
  • 【職歴】
     1993年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 (株)ニッセイ基礎研究所へ
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本ファイナンス学会理事
     ・日本証券アナリスト協会認定アナリスト

(2023年12月27日「基礎研レポート」)

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