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疾病の罹患や加齢にともなう症状に関する不安と、その9年間の変化。

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子
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1――はじめに
高齢化や、慢性疾患の増加にともなって疾病構造が変わってきただけでなく、地域によって高齢化のスピードや必要な病床が異なることを踏まえて、地域の実情にあわせた医療・介護等計画をたてる等、医療や介護政策も地域差を重視するようになるなど、医療等を受ける環境が変わってきた。SNSの普及にともない、疾病等に関する情報の収集方法も変わってきている。また、最近では新型コロナウイルス感染症の流行と、それにともなう健康上の不安や医療機関のひっ迫などを目の当たりとして、疾病等に関する不安や医療・介護サービスを受ける際の不安も変わってきていると考えられる。
そこで本稿では、ニッセイ基礎研究所が2023年6月に実施した「生活に関する調査1」と2014年8月に実施した「日常生活における不安等に関する調査2」を使ってこの9年間の変化を紹介する。
1 「生活に関するアンケート」学生を除く全国に住む 20~79歳の男女を対象とするインターネット調査。実施時期は2023年6月、有効回答2,583(男性1,288、女性1,295)。
2 「日常生活における不安等に関する調査」学生を除く全国に住む 20~69歳の男女を対象とするインターネット調査。実施時期は2014年8月、有効回答4,131(男性2,051、女性2,080)。
2――不安に感じる人が多い疾病や症状
男女別にみると、すべての項目で女性が男性を上回った。特に「加齢により身体的機能が衰えて思ったように動けなくなる」「認知症になる」は女性が15ポイント前後上回った。年齢群別にみると、全体で不安を感じる人が多かった上位3項目である「加齢により身体的機能が衰えて思ったように動けなくなる」「認知症になる」「ガン、心疾患、脳血管疾患にかかる」は年齢が高いほど高く、50歳以上が全体と比べて有意に高かった。「病気・ケガによって(後遺)障害(身体・精神)がのこる」「感染症・伝染性の病気にかかる」も年齢があがるほど高く、65歳以上が全体と比べて有意に高かった。また、「長期の入院・通院を要する病気にかかったり、ケガをする」「糖尿病・高血圧など上記以外の生活習慣病にかかる」は、50~64歳が全体と比べて有意に高かった。一方、「メンタルヘルスを損なう」は20~69歳(特に、35~49歳)が全体と比べて高く、「後天性難病にかかる」は年齢による大きな差はなかった。なお、20~34歳では「メンタルヘルスを損なう」が「加齢により身体的機能が衰えて思ったように動けなくなる」や「糖尿病、高血圧など上記以外の生活習慣病にかかる」を上回り5番目にあげられた点が特徴的だった。
「加齢により身体的機能が衰えて思ったように動けなくなる」「ガン、心疾患、脳血管疾患にかかる」「長期の入院・通院を要する病気にかかったり、ケガをする 」「病気・ケガによって(後遺)障害(身体・精神)がのこる」「糖尿病、高血圧など上記以外の生活習慣病にかかる」については、性別、年齢群別にみても特に大きな差は見られなかった。
3 前回調査は20~69歳を対象に実施したので、今回調査についても20~69歳を対象に集計した結果と比較した。
3――おわりに
前回調査(2014年)の結果と比較すると、「認知症になる」「感染症・伝染性の病気にかかる」「メンタルヘルスを損なう」「後天性難病にかかる」で不安を感じる割合に差があった。差がもっとも大きかったのが「感染症・伝染性の病気にかかる」で、前回調査と比べて11.7ポイント上昇していた。既存の感染症については、若い世代が免疫をもたない感染症や、子どもが特にうつりやすい感染性の病気が多いこと、生活習慣病や加齢にともなう症状等のリスクが相対的に低いことなどから、前回調査ではどちらかと言えば若年齢で不安が高い傾向があったが、新型コロナウイルス感染症では、高年齢者の健康被害が大きかったことから、今回調査では高年齢で不安を感じる人が多く、特に高年齢者で前回調査との差が大きくなったと考えられる。
「認知症になる」は多くの年代で少しずつ上昇しており、この9年間で幅広い年代で不安が高まったと考えられる。高齢化がさらに進み、高齢者の行方不明者の増加が課題になる等、認知機能が低下した高齢者を見聞きする機会が増えていること等が背景として考えられる。「メンタルヘルスを損なう」は、前回調査も今回調査も、40歳代をピークとしながらも20~49歳までが高く、40歳以上では年齢が高くなるほど低下する傾向があるという点では変わらないが、今回調査では50~69歳で上昇していた。以前と比べて高齢になっても社会のプレッシャーが大きいのかもしれない。「後天性難病にかかる」は20歳代を除いて低下、特に30~49歳で低下していた4。
なお、健康日本21(第二次)の最終報告によれば、ガン、心疾患、脳血管疾患や高血圧、糖尿病といった生活習慣病については、この10年ほどでがんの年齢調整死亡率や脳血管疾患・虚血性心疾患の年齢調整死亡率の減少、血糖コントロール不調者割合の減少などの改善があったが、今回の調査では前回調査と大きな変化は見られなかった。生活習慣病は、その後の生活にも影響を与える疾病であるため、死亡率が改善したとしても、従前と変わらず不安を感じている可能性がある。一方で、厚生労働省の「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」によると、人々は、ガンについて、今なお、稀な病気だと考える傾向があることや、ガン患者の生存率を現実より低く見積もる傾向があり、人々のがんに対するイメージは従前と変わっていないことが指摘されている。同様に、他の生活習慣病についても不安は軽減しにくい可能性がある。
4 「後天性難病にかかる」を不安に思う割合が低下した理由はわからないが、2014年に「難病の患者に対する医療等に関する法律」が成立し、指定難病が定められたこと等により、前回調査を行った2014年には難病に関する記事や話題が多かった可能性があり不安を感じる人がいたかもしれない。
(2023年12月27日「基礎研レター」)

03-3512-1783
- 【職歴】
2003年 ニッセイ基礎研究所入社
村松 容子のレポート
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