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- 改正ベトナム保険事業法(7)-財産保険・ダメージ保険(その1)
2023年12月21日
2|時価以下で付保された財産保険契約(48条)
保険事業法48条は、時価以下で付保された財産保険契約についての規定を定めている。時価以下で付保された財産保険契約とは、時価1000万円の建物に500万円の火災保険を付すような形の付保形態である。具体的に条文は以下の通りである。
(1) 時価以下で付保された財産保険契約とは保険契約締結時に市場価格より低く保険金額を設定した保険契約をいう(同条1項)。
―このような保険契約を日本では一部保険と呼んでいる。条文としては保険法19条に定めがあるが後述する。
(2) 時価以下で付保された財産保険契約においては、保険企業等は契約締結時の時価に対する付保した保険金額に対する割合に応じた補償のみに支払い義務を負う(同条2項)。
―保険法19条は全く同じ内容を規定している(=比例案分主義という)。具体的には「保険金額が保険価額に満たないときは、保険者が行うべき保険給付の額は、当該保険金額の当該保険価額に対する割合を、てん補損害額に乗じて得た額とする」としている。つまり、さきほどの1000万円の建物に500万円の財産保険を付した場合において、300万円の損害が発生したときには150万円の保険金が支払われる(300万円×500万円/1000万円=150万円)。
保険事業法48条は、時価以下で付保された財産保険契約についての規定を定めている。時価以下で付保された財産保険契約とは、時価1000万円の建物に500万円の火災保険を付すような形の付保形態である。具体的に条文は以下の通りである。
(1) 時価以下で付保された財産保険契約とは保険契約締結時に市場価格より低く保険金額を設定した保険契約をいう(同条1項)。
―このような保険契約を日本では一部保険と呼んでいる。条文としては保険法19条に定めがあるが後述する。
(2) 時価以下で付保された財産保険契約においては、保険企業等は契約締結時の時価に対する付保した保険金額に対する割合に応じた補償のみに支払い義務を負う(同条2項)。
―保険法19条は全く同じ内容を規定している(=比例案分主義という)。具体的には「保険金額が保険価額に満たないときは、保険者が行うべき保険給付の額は、当該保険金額の当該保険価額に対する割合を、てん補損害額に乗じて得た額とする」としている。つまり、さきほどの1000万円の建物に500万円の財産保険を付した場合において、300万円の損害が発生したときには150万円の保険金が支払われる(300万円×500万円/1000万円=150万円)。
3|重複保険(49条)
保険事業法49条は重複保険について規定する。条文は以下の通りである。
(1) 重複保険とは、補償、目的物、期間、担保事故が同じものである二以上の保険契約であって、保険加入時に保険金額の合計が時価を超えるものをいう (同条1項)。
―重複保険を定義するもので、説明は省略する。
(2) 保険事故が発生した場合には、保険企業等は自社が付保した保険金の全体に対する割合を基準として保険金として支払う。各社の払う保険金額の合計は時価を超えてはならない(同条2項)。
―日本の取扱いはベトナムと若干異なる。保険法では各保険企業等は被保険者に対して、それぞれ付保した保険金額の全額を支払う義務を負うとする(21条1項)。そして、実際に支払いを行った保険企業等は他の保険企業等に対してその負担分について求償を求めることができるとする(同条2項)。負担分は、各社が付保した保険金額を全体の合計付保保険金額で割って、それに実際に支払われた保険金額を乗じたものとなる。手続は異なる(各社が独立して全額に責任を有する)が、各保険企業等の間の負担割合の算出はベトナムと日本で異ならない。
保険事業法49条は重複保険について規定する。条文は以下の通りである。
(1) 重複保険とは、補償、目的物、期間、担保事故が同じものである二以上の保険契約であって、保険加入時に保険金額の合計が時価を超えるものをいう (同条1項)。
―重複保険を定義するもので、説明は省略する。
(2) 保険事故が発生した場合には、保険企業等は自社が付保した保険金の全体に対する割合を基準として保険金として支払う。各社の払う保険金額の合計は時価を超えてはならない(同条2項)。
―日本の取扱いはベトナムと若干異なる。保険法では各保険企業等は被保険者に対して、それぞれ付保した保険金額の全額を支払う義務を負うとする(21条1項)。そして、実際に支払いを行った保険企業等は他の保険企業等に対してその負担分について求償を求めることができるとする(同条2項)。負担分は、各社が付保した保険金額を全体の合計付保保険金額で割って、それに実際に支払われた保険金額を乗じたものとなる。手続は異なる(各社が独立して全額に責任を有する)が、各保険企業等の間の負担割合の算出はベトナムと日本で異ならない。
5――おわりに
今回の解説部分で特徴的であったのが、2点挙げられる。一点目は保険事業法では保険目的物の時価を超える保険金額での財産保険契約の締結が認められていないという点である。日本でも保険法18条1項で保険企業等がてん補する損害の額は時価が原則となっているが、これは任意規定とされている。そして同条2項によって約定保険価額による契約が許容され、再調達価額を保険価額とする財産保険契約の締結が許容されているという相違がある。再調達価額保険を禁止することを判断したベトナムでの事情は不明であるが、火災保険などでは補償として不十分な場合もあるのではないだろうか。
二点目は、保険契約者が複数の保険企業等とした重複保険であって、時価を超える保険金額を設定した場合の取扱いである。保険事業法では、各保険企業等の設定した保険金額の全体に対する割合のみについて支払い責任を負う。対して、日本では各保険企業等が、それぞれ設定した保険金額全額について支払責任を負い、各保険企業等の負担割合は、各保険企業間で精算する方式を取っていることである。日本の方が保険契約者にとって簡明である。他方、保険事業法では重複契約をわざわざ契約した保険契約者に一定の負担を課すもののようにも思える。どっちがよいかは価値判断によるのだろう。
次回は財産保険・ダメージ保険の2回目を解説する。
二点目は、保険契約者が複数の保険企業等とした重複保険であって、時価を超える保険金額を設定した場合の取扱いである。保険事業法では、各保険企業等の設定した保険金額の全体に対する割合のみについて支払い責任を負う。対して、日本では各保険企業等が、それぞれ設定した保険金額全額について支払責任を負い、各保険企業等の負担割合は、各保険企業間で精算する方式を取っていることである。日本の方が保険契約者にとって簡明である。他方、保険事業法では重複契約をわざわざ契約した保険契約者に一定の負担を課すもののようにも思える。どっちがよいかは価値判断によるのだろう。
次回は財産保険・ダメージ保険の2回目を解説する。
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03-3512-1866
経歴
- 【職歴】
1985年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
2018年4月 取締役保険研究部研究理事
2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
2024年4月より現職
【加入団体等】
東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等
【著書】
『はじめて学ぶ少額短期保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2024年02月
『Q&Aで読み解く保険業法』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2022年07月
『はじめて学ぶ生命保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2021年05月
(2023年12月21日「保険・年金フォーカス」)
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