2023年12月20日

コロナ禍明けの家計消費-外出型消費は回復傾向だが、全体では低迷が続く

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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3――コロナ禍の影響を受けた主な費目の動き~外出型消費は改善傾向だが多くはコロナ禍前を下回る

1|コロナ禍で減少した支出~外出型消費は改善傾向だが国内旅行以外はコロナ禍前を下回って低迷
(1) 旅行・レジャー~国内旅行はコロナ禍前に回復、海外旅行は途上だが改善傾向、レジャーは回復鈍化
まず、コロナ禍で支出額が減った費目について捉える。旅行について見ると、「宿泊料」や「パック旅行費」は、コロナ禍においても、GoToトラベルや全国旅行支援といった政府による需要喚起策が実施された時期2に盛り上がりが見られる(図表4(a))。特に「宿泊料」は、コロナ禍でもマイクロツーリズム(感染予防対策のため、公共交通機関ではなく自家用車で移動し近場の宿泊施設のみを利用する旅行)需要が捉えられたことで、2022年までの3年間においても、施策の時期にはコロナ禍前を大幅に上回る月もある。なお、今年5月以降では、コロナ禍前を下回る月もあるものの、7月の増加率(対2019年同月実質増減率+23.2%)は、これまでの3年間(2020年:同▲39.3%、2021年:同▲28.0%、2022年:同+11.5%)と比べて大幅に上昇しており、5類引き下げによって夏休みの旅行需要が一層、増した様子がうかがえる。

交通費を含む「パック旅行費」でも同様に施策の時期に盛り上がりが見られ、2022年以降は改善傾向が強まっているが、未だコロナ禍前の水準を下回っている。この背景には、2022年のオミクロン株の感染拡大下では重篤化リスクの低さから緊急事態宣言等が発出されなくなったため、消費者が外出行動を活発化したが、この時点では海外旅行は水際対策(ワクチン接種や陰性証明等の必要性、罹患時の行動制限など)によって国内旅行と比べてハードルが高かったこと、また、2023年の5類引き下げ以降は行動制限がなくなったとはいえ実質賃金が増えない中では、円安で海外旅行の費用も上昇しているために需要は会っても消費が抑制されている可能性などがあげられる。つまり、国内旅行需要はコロナ禍前の水準を上回って回復しているようだが、海外旅行需要は回復途上にあるようだ。

レジャーについては、この4年弱の間、いずれも(「映画・演劇等入場料」、「文化施設入場料」、「遊園地入場・乗物代」)改善傾向が続いている(図表4(b))。ただし、2022年に比べて2023年の回復基調は鈍化しており、今年5月以降も必ずしもプラスに転じているわけではない。よって、物価高の進行で娯楽費へ充てられる予算が減っているために消費を抑制している可能性もあり、賃金とあわせて今後の動向を注視する必要がある。
 
2 2020年7月下旬に開始され、感染拡大によって12月下旬に一旦停止。2021年4月から自県民の県内旅行を推進する「県民割」が、その後、対象を地域ブロックに広げた「ブロック割」を2022年10月上旬まで実施。その後は対象を全国に広げた「全国旅行支援」が実施されている。2023年4月以降の「全国旅行支援」は各都道府県の予算がなくなり次第、順次終了。
(2) 交通~外出活発化で改善傾向にあるものの、バスやタクシーは供給不足で伸びきれず、鉄道需要へ移行?
交通費についても、この4年弱の間、いずれも(「鉄道運賃」、「航空運賃」、「バス代」、「タクシー代」)改善傾向が続いているが、未だコロナ禍を下回っているものが多い(図表4(c)・(d))。

ただし、「鉄道運賃」は、今年7月(2019年7月比+6.0%)や10月(同年10月比+12.9%)ではコロナ禍前を上回っているため、5類引き下げで外出行動が活発化した影響でコロナ禍前の水準への回復が視野入ってきた様子がうかがえる。また、「鉄道運賃」と「宿泊料」の盛り上がりの時期が一致するため、「鉄道運賃」の需要増は通勤や通学需要というよりもプライベートの外出需要によるものと見られる。

また、「バス代」や「タクシー代」は、2023年10月までの時点では未だコロナ禍前の水準を上回った月が存在しないが、これは需要というよりも供給側に課題がありそうだ。コロナ禍での廃業や高齢化による運転手の持続的な減少に加えて、インバウンドが本格的に再開したことで、日本人の外出型消費の需要が回復していても供給不足で需要に対応しきれていない可能性がある。とすれば、前述の「鉄道運賃」の支出増はバスやタクシーでの移動需要の一部が移行したものとも考えられる。
(3) アパレル・メイクアップ用品~外出活発化でメイクアップ用品は改善傾向、アパレルは従来から低調
外出行動に関連する費目として、「背広服」や「婦人用洋服」について見ると、2019年10月の消費税率引き上げ時との比較による影響が大きいようだが(9月に低下し10月に上昇しやすい)、おおむねコロナ禍前を大幅に下回って低迷しており、5類引き下げによる改善傾向も特段見られないようだ(図表4(e))。この背景には、物価高による消費抑制の影響もあるのだろうが、中長期的に需要が弱まっていることもあげられる。スーツについては、コロナ禍前からオフィス着のカジュアル化(クールビズ、カジュアルフライデーなど)でスーツ需要が低迷していた中で、テレワークの進展でオフィスへの出社機会が減少したことで、需要が一層、弱まった可能性がある。また、「婦人用洋服」をはじめとしたアパレル製品は全体的に低迷している背景には、2000年代以降、ファストファッションが台頭し、ネットショッピングやフリマアプリの利用が進展することで、消費者は低価格で流行やデザインを楽しむことのできる商品を購入しやすくなったことがあげられる。

一方、「ファンデーション」や「口紅」は依然として、コロナ禍前を下回っているものの、2021年や2022年と比べて2023年では改善基調が強まっている(図表4(f))。また、今年5月以降では、「ファンデーション」や「口紅」においても、「宿泊料」や「鉄道運賃」と同様に2023年7月頃や10月(10月は消費税率引き上げによる影響もあるが)に盛り上がりが見えるため、5類引き下げによる外出行動の活発化で改善傾向が強まっている可能性がある。また、メイクアップ用品はマスク着用が減った影響もあげられる。
(4) 対面サービス~診療やマッサージ、理美容は必需性が高いために早期から改善、足元で診療代は増加
「医科診療代」や「マッサージ料金等(診療外)」、「理美容サービス」については、いずれも必需性が高いため、外出行動に関わる費目の中では比較的早期に改善傾向を示している(図表4(g))。なお、「理美容サービス」は、未だコロナ禍前の水準をやや下回っているが、「医科診療代」や「マッサージ料金等(診療外)」はコロナ禍前を上回っている。「医科診療代」の改善については、特にコロナ禍当初は医療機関の供給体制の制約から、通常の診療や人間ドック等の検診控え傾向があったが、これらが平常化したことに加えて、2023年はインフルエンザなどの他の感染症も流行し始めたことで、医療機関の受診が増えていることがあげられる。
(5) 外食~5類引き下げ以降は「飲酒代」の改善傾向が強まるが、職場需要減でコロナ禍前を2割程度下回る
2019年10月の消費税率引き上げの際、食料品は軽減税率制度の適用対象で8%に据え置かれたが、外食は10%に引き上げられたため、相対的に割高な印象となり、反動減の影響が生じた費目である。よって、「食事代」と「飲酒代」は、いずれの年も10月に盛り上がりが見える(図表4(h))。

また、2022年頃から、「食事代」も「飲酒代」も改善傾向が強まっている。特に「飲酒代」は2023年に大きく改善し、5月以降はコロナ禍前と比べて▲1~2割台で推移している。とはいえ、どちらもコロナ禍前の水準を未だ下回っており、テレワークの進展で就労者の外食機会(昼食、職場の飲み会や二次会)が減少したことや、物価高進行下の消費抑制傾向などの影響を踏まえながら、今後の動向を注視する必要がある。
図表4 二人以上世帯のコロナ禍で影響を受けた主な品目(小分類)の推移(対2019年同月実質増減率)
図表4(続き) 二人以上世帯のコロナ禍で影響を受けた主な品目(小分類)の推移(対2019年同月実質増減率)
2|コロナ禍で増加した支出~コロナ禍をきっかけに出前需要が大幅伸長・定着、デジタル娯楽需要は堅調
(1) 内食・中食~出前は大幅に伸長、巣ごもり生活で増した内食需要は利便性の高い食品や外食需要へ移行
ここからは、コロナ禍の巣ごもり生活で支出額が増えた費目について捉える。内食(自炊)や中食(総菜や冷凍食品、出前)に関連する費目はコロナ禍前をおおむね上回って推移している(図表4(i))。特に「出前」はコロナ禍前の2~3倍の水準で推移している(ただし、当該品目の消費者物価指数が存在せず、名目値で見ていることに注意)。この背景には、コロナ禍による巣ごもり生活で需要が増すとともに(外食の代替、テレワーク中のランチ需要など)やサービスを開始した飲食店が増えたことで供給量が増えたこと、中長期的にも需要が増していること(共働き世帯や単身世帯などの利便性重視志向の高い世帯が増加)があげられる。

「パスタ」や「生鮮肉」は、2023年でもおおむねコロナ禍前と同等の水準を維持しているものの、減少傾向を示している。一方、「冷凍調理食品」は2020年と比べて2021年以降の方が増加幅は大きい傾向がある。これは、既出レポート3で指摘したように、巣ごもり生活が続き、家の中での食事回数が増える中で、家の中での日常的な食事については一層、手軽さが求められるようになり、多少の手間を要する「パスタ」よりも、さらに手軽な「冷凍食品」や「出前」へと需要の一部が移行した影響(前述の世帯構造の中長期的変化も後押し)、また、5月以降は外食の再開で外食需要にも移行した影響による。
(2) デジタル娯楽~デジタル化の進展で外出活発化でも堅調
巣ごもり生活では家の中で楽しむ娯楽需要も増した。「電子書籍」やソフト、アプリ類は、いずれもコロナ禍前の水準を超えて堅調に推移している(図表4(j))。5類引き下げで外出行動は活発化しても、デジタル化の進展という土台があるために、需要が弱まる傾向は見えにくい。

「ゲーム機」は、コロナ禍当初の3月は全国一斉休校の影響で、子ども達の需要と見られる盛り上がりがある(図表4(k))。同様に感染が再拡大した夏休み時期などにも盛り上がりがあるが、その後は、新端末の販売時期(2020年11月にSONYのPlayStation5発売)など他の要因による影響が大きいようだ。
(3) テレワーク関連~コロナ禍当初はパソコンや家具の需要増、次の買い替えサイクルまでは需要が見えにくい
コロナ禍でテレワークが進展する中で、家の中での作業環境を整えるために、「パソコン」や「一般家具」の支出額も増加した(図表4(l))。特に、2020年夏頃は国民1人当たり一律10万円の「特別定額給付金」の影響で大きく伸びている。その後は、感染拡大時期と重なる部分もありつつ、増減しながら緩やかに減少傾向を示している。これは、オフィスへの出勤が増えて需要が弱まったというよりも、耐久消費材であるため、一旦、購入すると、次の買い替えサイクルまでは需要が見えにくくいためと考えられる。
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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