2023年12月19日

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1.はじめに

前回のレポート1では、全国的に需要が高まっているサードプレイスオフィスについて、その拠点展開や、提供サービス内容等に関して概観した。今回のレポートでは、コロナ禍を経たサードブレイスオフィス利用の方向性に関する考察や、テレワーク人口の分布とサードプレイスオフィスの拠点展開との比較分析等を行った上で、今後のオフィス市場に及ぼす影響等について考えたい。

2.コロナ禍を経たサードブレイスオフィス利用の方向性

2.コロナ禍を経たサードブレイスオフィス利用の方向性

以下では、コロナ禍を経たサードブレイスオフィス利用の方向性について、(1)「テレワーク」対応としての利用、(2)BCP対応としての利用、(3)地方のサテライトオフィスとしての利用、(4)スタートアップ企業やフリーランスの拠点としての利用の4つの観点から考察する。
2-1.「テレワーク」対応としての利用
パーソル総合研究所「テレワークに関する調査」によれば、全国のテレワーク実施率は、新型コロナウィルス感染拡大への対応で、2020年4月に13%から28%へ大きく上昇した後、おおむね25%以上で推移していたが、足もとでは22%へと低下した(図表-1)。新型コロナウィルスの5類感染症移行等に伴い、テレワーク(在宅勤務)実施率は低下傾向にあると言える。

一方、日本生産性本部「働く人の意識に関する調査」によれば、「今後もテレワークを行いたいか」という質問に対し、テレワークを行いたい意向(「そう思う」と「どちらか言えばそう思う」の合計)は、62%(2020 年5 月)から87%(2023 年7 月)へ増加した。また、国土交通省「令和4年度テレワーク人口実態調査」によれば、現状よりもテレワーク実施頻度を増やしたいとの回答は、全ての地域で50%を超えている(図表-2)。今後もテレワークを取り入れた働き方を希望する就業者は地域を問わず増えているようだ。

企業にとって、優秀な人材確保は重要な経営課題である。また、高齢者および女性就業者の雇用増加や、「介護離職の防止」に対する積極的な取り組みが求められている。多様な人材確保や柔軟な就業制度などを通じて生産性を高める観点からも、テレワークを定常的に採用する企業は今後も増加すると考えられる。
図表-1従業員のテレワーク実施率(全国)/図表-2 テレワークの希望実施頻度
日本生産性本部「テレワークに関する意識調査」によれば、「テレワークで働くときの課題」について、「課題だが解決していない」との回答は、「机、椅子、照明など物理的環境の整備(35%)」や「家族や他人に仕事を邪魔されない個室や間取りといった空間の整備(30%)」の項目が約3割を占めた(図表-3)。自宅での執務環境に悩む就業者は多いと言える。

こうしたなか、国土交通省「令和4年度テレワーク人口実態調査」によれば、「テレワークの実施場所」として、「在宅(自宅)(93%)」との回答が最も多いものの、共同利用型オフィスの「サテライト2(19%⇒22%)」や喫茶店等での一時的利用の「モバイル3(15%⇒17%)」との回答もわずかながら増えている(図表-4)。テレワークを取り入れたハイブリットな働き方が定着するなか、より快適な就業環境を求めて、サードプレイスオフィスを利用する就業者の増加が予想される。
図表-3 テレワークで働くときの課題/図表-4 テレワークの実施場所
 
2 自社の他事業所、または複数の企業や個人で利用する共同利用型オフィス等。
3 訪問や出張に行き帰り等にコワーキングスペースや喫茶店等に一時的に立ち寄って、テレワークを行うケース。
2-2.BCP対応としての利用
内閣府「企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」によれば、大企業における事業継続計画(BCP)の策定状況について、「策定済み」との回答は増加し、2021年度には71%に達した(図表-5)。「重視しているリスク」について、「地震(98%)」との回答が最も多く、次いで「感染症(新型インフルエンザ、新型コロナ等)(88%)」、「火災・爆発(64%)」の順に多い(図表-6)。コロナ禍を経て、自然災害等に加えて感染症リスクへの対策も強く認識されて、多くの企業でのBCP策定が一層進んでいる。

帝国データバンク「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2023年調査)」によれば、「事業中断リスクに備えた実施・検討内容」について、「多様な働き方の制度化(テレワーク、時差出勤、サテライトオフィスなど)」との回答は23%となり、大企業に限定すると33%を占めた。
図表-5 BCP策定状況/図表-6 想定しているリスク
これまで、業務効率化やコミュニケーションの円滑化等の目的から、都心のオフィスビルに集約する企業は多かった。一方、BCP対応として、事業拠点の分散等を目的として、サテライトオフィスを設置する企業も増えているようだ(図表-7)。今後、BCP対応としてサテライトオフィスを設置する際に、サードプレイスオフィス利用を選択する企業が増える可能性が考えられる。
図表-7 BCP対応としてのサテライトオフィス開設事例
2-3.地方のサテライトオフィスとしての利用
政府は、コロナ禍でテレワークが浸透したこと等を背景に、都市部に立地する企業などに勤務したまま地方に移住して地方で仕事をする「転職なき移住」を推進している4

内閣府「地方創生テレワーク5推進に向けた調査報告書」によれば、「地方オフィスの施設タイプ」について、地方オフィスを開設した企業に質問したところ、「自社単独オフィス開設(事務所用賃貸物件等を利用)(56%)」との回答が最も多かった。一方、未開設企業に同様の質問をしたところ、「既存の共用サテライトオフィス(専用スペースもしくはコワーキングスペース)を利用」との回答が44%を占め、「自社単独オフィス開設(事務所用賃貸物件等を利用)(27%)」や「自社単独のオフィス建設(5%)」といった回答を大きく上回った(図表-8)。これから地方にオフィスの開設を検討する企業は、コワーキングスペース等のサードプレイスオフィスを志向しているようだ。

また、「地方オフィスを設置する自治体の選定条件」について、地方オフィスを開設した企業に質問したところ、「交通の便の良さ(37%)」、との回答が最も多く、次いで、「マーケット・営業先としての魅力(31%)」、「地域との地縁(経営者や推進担当の出身地など)(27%)」の順に多かった。また、未開設企業に同様の質問をしたところ、「交通の便の良さ(57%)」との回答が最も多く、次いで、「サテライトオフィスや通信環境等の整備状況(45%)」、「住環境、自然環境、交通の便などのバランス(44%)」の順に多かった(図表-9)。交通利便性等とともに、コワーキング等の整備状況を勘案して、オフィス開設の自治体を選定する企業が多いと言える。

総務省「地方公共団体が誘致又は関与したサテライトオフィスの開設状況調査」によれば、地方公共団体が誘致又は関与したサテライトオフィスの開設数は、2017 年度の429 拠点から2021 年度には1,348 拠点と約3 倍に増加した。地方自治体のサポート等を背景に、日本全国でサテライトオフィスの開設が進んでおり、サードプレイスオフィス需要を下支えしている。
図表-8 地方オフィスの施設タイプ/図表-9 地方オフィスを設置する自治体の選定条件
 
4 内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局「サテライトオフィスの整備等の促進に向けた関連施策について」(令和4年6月)
5 「地方創生テレワークとは、地方におけるサテライトオフィスでの勤務等の地方創生に資するテレワークであり、 地方の活性化に貢献するもの」(内閣府HPより)
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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