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- 2024年の中国の経済政策方針~「安定重視」のスタンスで経済の好転を目指す
2023年12月15日
3.金融リスク対策:システミックリスクを「断固として」防ぐ構え
金融リスクに関しては、「不動産」、「地方債務」、「中小金融機関」の3つが挙げられ、「システミックリスクの回避というボトムラインを断固として守る」とされた。昨年の「システミックリスクの回避というボトムラインを守る」という表現に対し、「断固として」との表現が添えられていることから、金融リスク発生に対する危機感と、その回避に向けた意志が強まったことが確認できる。10月30日~31日にかけて開催された中央金融工作会議においても、金融リスク対策の基調として「スピードと安定の関係をしっかりと捉え、安定という大局を前提にしてタイミング、度合い、効果を把握して着実にリスクを解消する」との考えが示されていた。この基調に沿って対応が進むだろう。
もっとも、これらリスクに対する新たな取り組みを示唆するコメントはみられなかったため、今後の具体的な動きをみていく必要がある。とくに注目されるのは、やはり不動産不況への対応だ。連鎖する3つのリスクの発火点となりうるだけに、安定化は焦眉の急である。不動産を巡っては、7月の政治局会議における不動産政策緩和の方針を受けて地方政府による購入促進策が広まった後、10月の中央金融工作会議を経て、民営を含むデベロッパー向けの資金繰り支援策も進みつつある(図表4)。ただし、つなぎ融資は弥縫策に過ぎず、根本的には住宅販売が回復しない限り、デベロッパーの本格的な資金繰り改善は見込みづらい。このため、買い控えを続ける消費者のマインドを改善させうる踏み込んだ措置がとられるかがポイントとなるだろう。
例えば、現地で提言されている対応としては、今回の不動産不況の発端となったデベロッパー向け融資総量規制(3つのレッドライン)の緩和や、国有資本を活用した不動産救済基金の設立、住宅価格の安定維持のために一部都市で採用されている価格制限の緩和などがある(既に緩和している都市も存在する模様)。融資規制緩和によるデレバレッジの一時中断や、価格制限緩和による価格下落加速の恐れなど副作用に対する警戒は必要ではあるものの、目先の安定回復が最重視されるなか、出口が見えない不動産不況に対してどのような追加策がとられるのか、あるいはとられないのか注視が必要だ。
もっとも、これらリスクに対する新たな取り組みを示唆するコメントはみられなかったため、今後の具体的な動きをみていく必要がある。とくに注目されるのは、やはり不動産不況への対応だ。連鎖する3つのリスクの発火点となりうるだけに、安定化は焦眉の急である。不動産を巡っては、7月の政治局会議における不動産政策緩和の方針を受けて地方政府による購入促進策が広まった後、10月の中央金融工作会議を経て、民営を含むデベロッパー向けの資金繰り支援策も進みつつある(図表4)。ただし、つなぎ融資は弥縫策に過ぎず、根本的には住宅販売が回復しない限り、デベロッパーの本格的な資金繰り改善は見込みづらい。このため、買い控えを続ける消費者のマインドを改善させうる踏み込んだ措置がとられるかがポイントとなるだろう。
例えば、現地で提言されている対応としては、今回の不動産不況の発端となったデベロッパー向け融資総量規制(3つのレッドライン)の緩和や、国有資本を活用した不動産救済基金の設立、住宅価格の安定維持のために一部都市で採用されている価格制限の緩和などがある(既に緩和している都市も存在する模様)。融資規制緩和によるデレバレッジの一時中断や、価格制限緩和による価格下落加速の恐れなど副作用に対する警戒は必要ではあるものの、目先の安定回復が最重視されるなか、出口が見えない不動産不況に対してどのような追加策がとられるのか、あるいはとられないのか注視が必要だ。
地方債務や中小金融機関については、従来の延長線上での対応が続く可能性が高い。例えば地方債務に関しては、上述の地方政府による借り換え債発行のほか、融資平台に対するリスケやロールオーバーの実施により、当面は延命が図られるだろう。多くの融資平台は、事実上ゾンビ企業となっているとみられるが、その淘汰は経済の安定化が確認されてからとなる見込みであり、早くとも25年以降に進展することになると考えられる。なお、制度改革の文脈において「新ラウンドの財政・税制改革を計画する」との言及があった。地方債務問題の根底には、中央・地方政府間の財源や行政事務の分担がアンバランスであることや、土地使用権収入に取って代わる財源が目下存在しないことなど、制度面の問題がある。これを改革する方針は習政権発足後に示されているものの、目立って進展がみられないのが実情であり、24年中、改革の動きがなんらか進展をみせるかも注目に値する。
中小金融機関については、地方政府による資本注入や、主に同一地方内での合併、再編がここ数年行われており(図表5)、その動きが続くと予想される。今後、不動産や地方債務のデレバレッジが金融機関の破たんへと発展し、それを容認する日が訪れる可能性はあるが、現時点では金融機関の破たん法制がいまだ検討段階にあり、本格的な破たんの発生は回避されると考えられる。
中小金融機関については、地方政府による資本注入や、主に同一地方内での合併、再編がここ数年行われており(図表5)、その動きが続くと予想される。今後、不動産や地方債務のデレバレッジが金融機関の破たんへと発展し、それを容認する日が訪れる可能性はあるが、現時点では金融機関の破たん法制がいまだ検討段階にあり、本格的な破たんの発生は回避されると考えられる。
4.おわりに:マインドと経済の好転に向け、バランスと実効性がポイントに
以上みた通り、24年の経済政策運営では安定を取り戻すことが最優先課題となる見込みだ。今後の政策動向を評価していくうえでは、様々な政策目標が併存するなか、どのようなバランスで政策が展開されるのか、また、実効性ある対策が打ち出されるのかがポイントとなる。
前者に関しては、経済の安定が最優先であるとはいえ、それ以外にも重要課題は多い。端的なのは、安定と改革のバランスだ。これは、習政権発足後、一貫して腐心しているものだ。例えば、不動産のデレバレッジという改革を進める必要がある一方で、足元では安定確保のために不動産セクターの救済も必要とされている。今回安定を優先させることで、デレバレッジの取り組みは小休止となってしまうが、いつまでも先送りができるわけではない。これは、地方債務の問題も同様である。また、経済の安定・発展という目標と、近年強調されるようになった国家安全とのバランスや、規制強化によりダメージを受けた民営企業と国有企業とのバランスなども指摘できる。今回の会議では、「内需拡大とサプライサイド構造改革」や「質の高い発展と高水準の安全」などについて「一体的に調整」して取り組む考えが示されており、双方に目配せをしながら政策を進めていくことになるとみられるが、安全に関して「発展と安全のバランスは動的なものであり、相互補完により高まっていく」と指摘されたように、いずれに力点を置くかは時々の状況に応じて変わってくるだろう。その変化を見極めていく必要がある。
後者に関しては、「(政策が)完全に実行に移され、最終的な効果が党中央における政策決定の意図に確実に合致するようにする必要がある(中略)形式主義や官僚主義は断固として正す」ほか、政策の実施に際して「協同・連動の強化」や「協同・連携」の強化が謳われた点に注目したい。マインドの改善に向けて「経済宣伝、世論の誘導を強化し、中国経済の光明論を声高らかに謳う」とされ、宣伝活動の強化も進められるようだが、実感が伴わなければその効果は半減してしまう。このため、各部門や各地方が指導部の方針を正しく理解して実行に移していくか、また、関係者間で適切な横連携がとられるのか、24年の政策運営に限った話ではないものの、政策の効果が指導部の想定通りにあらわれるかを左右するポイントとなるだろう。
前者に関しては、経済の安定が最優先であるとはいえ、それ以外にも重要課題は多い。端的なのは、安定と改革のバランスだ。これは、習政権発足後、一貫して腐心しているものだ。例えば、不動産のデレバレッジという改革を進める必要がある一方で、足元では安定確保のために不動産セクターの救済も必要とされている。今回安定を優先させることで、デレバレッジの取り組みは小休止となってしまうが、いつまでも先送りができるわけではない。これは、地方債務の問題も同様である。また、経済の安定・発展という目標と、近年強調されるようになった国家安全とのバランスや、規制強化によりダメージを受けた民営企業と国有企業とのバランスなども指摘できる。今回の会議では、「内需拡大とサプライサイド構造改革」や「質の高い発展と高水準の安全」などについて「一体的に調整」して取り組む考えが示されており、双方に目配せをしながら政策を進めていくことになるとみられるが、安全に関して「発展と安全のバランスは動的なものであり、相互補完により高まっていく」と指摘されたように、いずれに力点を置くかは時々の状況に応じて変わってくるだろう。その変化を見極めていく必要がある。
後者に関しては、「(政策が)完全に実行に移され、最終的な効果が党中央における政策決定の意図に確実に合致するようにする必要がある(中略)形式主義や官僚主義は断固として正す」ほか、政策の実施に際して「協同・連動の強化」や「協同・連携」の強化が謳われた点に注目したい。マインドの改善に向けて「経済宣伝、世論の誘導を強化し、中国経済の光明論を声高らかに謳う」とされ、宣伝活動の強化も進められるようだが、実感が伴わなければその効果は半減してしまう。このため、各部門や各地方が指導部の方針を正しく理解して実行に移していくか、また、関係者間で適切な横連携がとられるのか、24年の政策運営に限った話ではないものの、政策の効果が指導部の想定通りにあらわれるかを左右するポイントとなるだろう。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2023年12月15日「経済・金融フラッシュ」)
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03-3512-1787
経歴
- 【職歴】
・2006年:みずほ総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ)入社
・2009年:同 アジア調査部中国室
(2010~2011年:北京語言大学留学、2016~2018年:みずほ銀行(中国)有限公司出向)
・2020年:同 人事部
・2023年:ニッセイ基礎研究所入社
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
三浦 祐介のレポート
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