2023年11月16日

2023~2025年度経済見通し(23年11月)

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1.2023年7-9月期は前期比年率▲2.1%のマイナス成長

2023年7-9月期の実質GDPは、前期比▲0.5%(前期比年率▲2.1%)と3四半期ぶりのマイナス成長となった。

民間消費が、物価高の悪影響などから前期比▲0.0%と2四半期連続で減少したほか、設備投資(前期比▲0.6%)、住宅投資(同▲0.1%)も減少し、国内民間需要が揃って減少した。

輸出は前期比0.5%と2四半期連続で増加したが、輸入が同1.0%と3四半期ぶりに増加し、輸出の伸びを上回ったことから、外需寄与度が前期比▲0.1%(年率▲0.5%)と成長率を押し下げた。

マイナス成長自体は4-6月期の高成長(前期比年率4.5%)の反動という側面もあり、悲観する必要はないが、懸念されるのは社会経済活動の正常化が進む中でも消費、設備などの国内民間需要が停滞していることである。
 
名目GDPは前期比▲0.0%(前期比年率▲0.2%)と4四半期ぶりの減少となったが、実質の伸びは上回った。GDPデフレーターは前期比0.5%(4-6月期:同1.4%)、前年比5.1%(4-6月期:同3.5%)となった。輸入物価の上昇を国内に価格転嫁する動きが続き、国内需要デフレーターが前期比0.3%の上昇(4-6月期:同0.7%)となったことに加え、輸出デフレーターが前期比2.8%の上昇となり、輸入デフレーターの伸び(前期比1.9%)を上回ったことがGDPデフレーターを押し上げた。
名目GDPと実質GDPの推移 2023年7-9月期の1次速報と同時に、基礎統計の改定や季節調整のかけ直しなどから過去の成長率が遡及改定された。実質GDP成長率は、2023年4-6月期が前期比年率4.8%から同4.5%へ下方修正されたほか、2022年10-12月が同0.2%のプラス成長から同▲0.2%のマイナス成長へと下方修正された。

実質GDPの水準は2023年4-6月期にコロナ禍前のピーク(2019年7-9月期)を0.1%上回ったが、7-9月期がマイナス成長となったことで再びコロナ禍前のピークを下回った(▲0.4%)。一方、名目GDPは2023年7-9月期には小幅なマイナスとなったものの、それまで高い伸びが続いてきたことから、コロナ禍前のピークを4.8%上回っている。
(輸出が景気の牽引役となることは期待できず)
世界経済の成長率は3%前後(当研究所の試算値)で推移し、一定の底堅さを維持しているが、世界の貿易量は2022年10-12月期に前年比で減少に転じた後、減少幅の拡大傾向が続いている。コロナ禍からのペントアップ需要もあり非製造業は回復傾向を維持しているが、IT関連の在庫調整などから製造業の停滞が続いていることがその背景にある。世界の企業景況感を示すグローバルPMIは、非製造業は中立水準の50を上回っているが、製造業は2022年9月以降、50を下回る水準で推移している。
世界の実質GDPと貿易量の関係/グローバルPMIの推移
当研究所では、米国の実質GDPは累積的な金融引き締めの影響で、2023年7-9月期の前期比年率4.9%から2023年10-12月期が同1.0%、2024年1-3月期が同0.4%と大幅に減速し、2023年7-9月期に前期比年率▲0.2%のマイナス成長となったユーロ圏は2023年10-12月期も同0.3%とほぼゼロ成長にとどまると予想している。また、中国はゼロコロナ政策の終了を受けて、2023年の実質GDP成長率は2022年の3.0%から5%台へと高まるが、2024年、2025年には4%台へと低下するだろう。
日本から見た海外経済の成長率 この結果、日本の輸出ウェイトで加重平均した海外経済の成長率は、2021年の6%程度から2022年に3%程度まで大きく減速した後、2023年から2025年にかけても3%前後で推移し、引き続き1980年以降の平均成長率の4%程度を下回るだろう。

日本の輸出は2022年度の前年比4.5%から2023年度に同3.2%へと減速した後、2024年度が同1.8%、2025年度が同2.4%と低めの伸びが続くことが予想される。輸出が景気の牽引役となることは当面期待できないだろう。
(経済対策による押し上げは限定的か)
政府は11/2に「デフレ完全脱却のための総合経済対策」を閣議決定し、11/10には一般会計の追加歳出13.1兆円の2023年度補正予算案を閣議決定した。経済対策の内訳は、(1)物価高から国民生活を守る、(2)地方・中堅・中小企業を含めた持続的賃上げ、所得向上と地方の成長を実現する、(3)成長力の強化・高度化に資する国内投資を促進する、(4)人口減少を乗り越え、変化を力にする社会変革を起動・推進する、(5)国土強靱化、防災・減災など国民の安全・安心を確保する、となっている。

政府は経済対策による実質GDPの押し上げ効果を年率1.2%程度(今後3年程度)と試算している1。しかし、前年度に比べた補正予算の規模は2021年度から縮小が続いていること、補正予算の編成が年度末近くになり予算が消化しきれない可能性が高いことを考慮すれば、この試算は過大と考えられる。実際、予算の未使用額は2020年度が34.7兆円(うち翌年度繰越額が30.8兆円、不用額が3.9兆円)、2021年度が28.7兆円(うち翌年度繰越額が22.4兆円、不用額が6.3兆円)、2022年度が29.3兆円(うち翌年度繰越額が18.0兆円、不用額が11.3兆円)と非常に大きなものとなっている。
歳出総額(一般会計)の推移/補正予算と未使用額(翌年度繰越額+不用額)<一般会計総額>
一方、物価高に対する国民負担の緩和策として盛り込まれた所得・住民税減税、低所得者向け給付、電気、都市ガス、ガソリン、灯油等の激変緩和策は家計の実質可処分所得の押し上げに寄与することが見込まれる。当研究所では、これらの家計支援策による実質可処分所得の押し上げ幅は2023年度に5.2兆円(うち、減税・給付金が2.2兆円、物価高対策が3.0兆円)、2024年度が6.0兆円(うち、減税・給付金が4.4兆円、物価高対策が1.6兆円)と試算している。
政府の家計支援策による実質可処分所得の押し上げ効果 ただし、賃上げのように恒常的と考えられる所得増と比べて、一時的な減税・給付金による消費押し上げ効果はそれほど大きくない。内閣府の検証では、過去の定額給付金や地域振興券による消費押上げ効果は、給付額の20~30%程度とされている。今回の所得・住民税減税と低所得者向け給付を合わせると5兆円程度の規模となるが、個人消費の押し上げ効果は0.4%程度、GDP比で0.2%程度にとどまるだろう。
 
1 経済対策による実質GDPの押し上げ効果は、2020年4月の「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」が4.4%程度、2020年12月の「国民の命と暮らしを守る安心と希望のための総合経済対策」が3.6%程度、2021年11月の「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」が5.6%程度、2022年10月の「「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」が4.6%程度と試算されていた。
(2024年の春闘賃上げ率は前年を若干上回る見通し)
2023年の春闘賃上げ率は3.60%(厚生労働省の「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」)と30年ぶりの高水準となった。2024年の春闘を取り巻く環境を確認すると、有効求人倍率は低下傾向にあるものの引き続き1倍を大きく上回る水準となっており、失業率が2%台半ばで推移するなど、労働需給は引き締まった状態が続いている。また、法人企業統計の経常利益(季節調整値)は過去最高水準にあり、消費者物価上昇率は高止まりしている。
賃上げを巡る環境の推移 賃上げの環境を過去と比較するために、労働需給(有効求人倍率)、企業収益(売上高経常利益率)、物価(消費者物価上昇率(除く生鮮食品))について、過去平均(1985年~)からの乖離幅を標準偏差で基準化してみると、3指標がいずれもプラスとなっており、その合計は過去最高となった2022年を若干上回る水準となっている。賃上げの環境は引き続き良好と判断される。

連合は、2023年春闘の賃上げ要求を2015年以降掲げてきた4%程度(定期昇給相当分を含む)から5%程度に引き上げたが、10/19に発表した2024年春闘の基本構想では、要求水準を5%以上へと若干引き上げた。こうした状況を踏まえ、今回の見通しでは、2024年の春闘賃上げ率を3.70%と前年を若干上回ることを想定した。
所定内給与の要因分解 名目賃金(一人当たり現金給与総額)は、2023年4-6月期が前年比2.0%、7-9月期が同1.0%と2023年の春闘賃上げ率が30年ぶりの高さとなった割に伸びが低い。生産活動の停滞を反映し所定外給与が低迷していること、賃金水準が相対的に低いパートタイム労働者比率が上昇していることが平均賃金の押し下げ要因になっているためである。春闘の結果との連動性が高い一般労働者の所定内給与は、2023年1-3月期の前年比1.3%から4-6月期が同1.7%、7-9月期が同1.9%と、2023年春闘のベースアップ(2%程度)と同程度まで伸びを高めたが、パートタイム比率の上昇によって労働者全体の所定内給与は前年比で1%台前半の伸びにとどまっている。

しかし、総務省統計局の「労働力調査」では、非正規雇用比率が2023年4-6月期、7-9月期と2四半期連続で低下しており、今後は毎月勤労統計のパートタイム労働者比率の上昇にも歯止めがかかることが見込まれる。また、高水準の企業収益を背景とした特別給与の増加が続くことに加え、生産活動の回復に伴い所定外給与も持ち直しに向かうことが予想される。名目賃金の伸びは今後徐々に高まっていく可能性が高いだろう。
実質賃金は消費者物価の上昇ペース加速を主因として2022年4月以降、前年比でマイナスが続いている。今後、名目賃金の伸びは高まるものの、消費者物価上昇率が高止まりするため、実質賃金の下落はしばらく続く可能性が高い。実質賃金上昇率がプラスに転じるのは、消費者物価上昇率が2%を割り込むことが見込まれる2024年度後半と予想する。

2022年度の名目雇用者報酬は前年比2.0%と2年連続の増加となったが、消費者物価の上昇ペースが加速したことから、実質雇用者報酬は同▲1.7%と減少に転じた。2023年度は名目雇用者報酬が前年比2.3%と伸びを高めるものの、物価上昇率の高止まりが続くことから、実質雇用者報酬は前年比▲0.9%と2年連続で減少することが見込まれる。2024年度は名目雇用者報酬が前年比2.9%と伸びを高める中、物価の上昇ペースが鈍化することから、実質雇用者報酬は同0.9%と3年ぶりに増加するだろう。
名目賃金と実質賃金/実質雇用者報酬の予測
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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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【2023~2025年度経済見通し(23年11月)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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