2023年11月08日

シングル高齢者の増加とその経済状況-未婚男性と離別女性が最も厳しい

基礎研REPORT(冊子版)11月号[vol.320]

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

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1―はじめに

未婚率の上昇や離婚件数の増加などによって、配偶者がいないシングルの高齢者が増加している。多くの高齢者が子や孫と暮らしていた時代には、配偶者と死別して「シングル」となっても、家計や日常生活に大きな問題はなかったであろうが、二世帯・三世帯家族が減少した現在は、シングルになって困難が生じる高齢者もいるだろう。そこで本稿では、シングル高齢者の増加ぶりや経済状況について、政府統計や、(公財)「生命保険文化センター」(以下、文化センター)が2020年10~11月に実施した「ライフマネジメントに関する高齢者の意識調査」*1のデータを用いて分析する。
 
*1 全国の60歳から90歳以上の男女個人を対象に、留置聴取法にて実施。回収は2,083。本稿の分析では、その中から65歳から90歳以上までの回答結果を使用した(有効回答数は1,730)

2―シングル高齢者の増加

まず、国勢調査から、シングル高齢者の割合を確認したい。2020年と1985年の中高年の男女別の配偶関係について、5歳ごとに、それぞれが人口に占める割合を比べたものが図表1である。
[図表1]姓・年齢別に見た配偶関係別構成割合の変化
まず男性についてみると、1985年時点では、50歳から70歳までは10人中9人が有配偶だったが、2020年時点では、未婚や離婚が大幅に増え、例えば65歳だと10人中1人が未婚、8人が有配偶、1人が離別または死別、という状況になった。

次に女性をみると、1985年時点には、いずれの年齢でも未婚や離婚は5%未満で、死別を除けば、シングルは社会の中の少数派に過ぎなかったが、未婚と離別が次第に増加し、2020年時点では、65歳のうち、大雑把に言うと10人中1人が未婚、7人が有配偶、1人が離別、1人が死別という状況になった。

3―シングル高齢者の現在または過去の雇用形態

このように増加を遂げているシングル高齢者は、どのような経済基盤で生活しているのだろうか。まず、現在または現役時代の雇用形態等について、文化センターの調査結果を用いて、配偶関係別にみていく[図表2]。なお、当調査では、配偶関係の選択肢は「未婚」、「配偶者あり」、「離別・死別」の3種類である。
[図表2]配偶関係別に見た雇用形態等(現在または現役時代)
​まず男性は、配偶関係別に決定的な差はないものの、「未婚」だと、雇用形態のうち「派遣社員・契約社員」と「パート・アルバイト」を合わせた非正規雇用の割合が1割を超え、全体よりも高い。「非正規雇用に就き、経済的基盤を築けていないために、家庭を形成しづらく、未婚が多い」と考えられる。

次に女性は、「未婚」だと「正社員」の割合が約4割に上り、他の配偶関係に比べて2倍の大きさとなっている。結婚・出産・育児というライフイベントを機に退職することが殆どないため、就業継続しやすいと考えられる。一方、離婚した女性は、安定雇用が必要だと考えられるが、「離別・死別」でも「正社員」や「公務員」といった常用労働者は合わせて約2割にとどまり、最大ボリュームは「パート・アルバイト」(約4割)だった。離婚時の年齢が高かったために、正社員に就けなかった、という女性も多いのではないだろうか。また、男女間で同じ配偶関係同士を比較すると、女性の方が、より雇用が不安定な人が多かった。

4―シングル高齢者の年収

それでは、シングル高齢者は、現在、どれぐらいの年収を受け取っているのだろうか。同調査より、配偶関係別に、年収階級ごとの構成割合を分析した。なお、同調査では、年収階級の選択肢は「収入はない」「100万円未満」「100~500万円未満」「500~1,000万円未満」「1,000~2,000万円未満」「2000万円以上」の6区分である。以下では、「収入はない」と「100万円未満」を合わせた層を「低年収層」として整理する。なお、いずれも「未婚」の有効値は小さいが、参考値として表記する。

まず男性では、低年収層が最も多いのは「離別・死別」(25.2%)、次に多いのは「未婚」(18.2%)、最も少ないのは「配偶者あり」(15.3%)だった。

女性で低年収層が最も多いのは「配偶者あり」(65.8%)、次に多いのは「離別・死別」(38%)、最も少ないのは「未婚」(24.1%)だった。配偶者が主に家計を担い、専業主婦やパートで働く有配偶女性は、低年収でも構わないが、シングルで低年収だと厳しいだろう。

なお、100万円未満の年収で暮らすことは実際、困難であるため、低収入層の中には、親の年金や子の仕送りなどを頼りに暮らしている高齢者もいるだろう。また、一部には無年金の高齢者もいると考えられる。

5―シングル高齢者の年金受給状況

次に、収入のうち公的年金の受給状況について、性・配偶関係別に分析したものが図表3である。
[図表3]配偶関係別に見た高齢者の年金受給状況
まず男性の場合、年金受給額が「0円」の割合は「未婚」では14.8%、「離別・死別」では8.2%、「配偶者あり」では3.4%だった。「0円」と回答した人の中には、受給開始年齢を繰下げている人もいるかもしれないが、厚生労働省によると、2021年度、厚生年金保険の受給権者で繰下げを行った人は1.2%、国民年金では1.8%に過ぎない*2。従って、多くは無年金状態だと推測される。

ここで、年金受給額が100万円以下を「低年金層」とすると、「未婚」では約4割、「離別・死別」では約2割、「配偶者あり」では約1割が低年金層だった。

次に女性についてみていきたい。年金受給額が「0円」の割合は、「未婚」と「離別・死別」では1割弱、「配偶者あり」では約3%だった。男性同様、この中には無年金の女性が多く含まれると推測される。また「低年金層」は、「未婚」では約4割、「離別・死別」では約3割、「配偶者あり」では約1割だった。
 
*2 厚生労働省「令和3年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」

6―シングル高齢者世帯の資産の状況

それでは、このような低収入や低年金のシングル高齢者は、収入不足を補う資産を保有しているのだろうか。同調査より、世帯の金融資産を配偶関係別に分析した。

まず男性では、最も低い区分である「100万円未満」は、やはり「未婚」が最も多く、約4割を占めた。続いて「離別・死別」が約3割、「配偶者あり」が約2割だった。女性については「、離別・死別(」2割強)、続いて「配偶者あり(」約2割)「、未婚(」約1割)の順に、低資産が多かった。

7―終わりに

以上をまとめると、未婚化や離婚の増加等により、2020年には、男女いずれも、65歳の4人に1人はシングルという状況になっている。そこで、シングル等の経済状況に関して、「雇用形態等」と「年収」、「年金受給状況」、「世帯の金融資産」の四つの指標について分析すると、特に、男性では未婚、女性では離別・死別が、概ね最も厳しい状況にあることが分かった。現役時代の就労収入が低水準である人が多く、老後もそのまま、無年金や低年金といった形で、低収入状態が続く。不足分を補う資産も脆弱である。

今後もシングル高齢者が増えると予測される中、未婚男性や離別女性らの老後を安定させるには、当然のことだが、現役時代、特に老後が迫る中高年時代に、雇用形態や労働条件を改善することが必要だろう。特に女性は、ライフイベントの影響が大きく、雇用条件が悪くなりやすい。「女性の活用・活躍」は企業にとっても課題であることから、今後は企業においても、中高年女性の労働条件改善や再就職支援の取り組みが広がることを期待したい。

また、国を挙げて少子化対策が推進される中で、男性の就業条件の低さが未婚につながっている可能性についても、より検討されるべきだろう。
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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性の雇用と暮らし、高齢者の移動サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

(2023年11月08日「基礎研マンスリー」)

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