2023年11月08日

中期経済見通し(2023~2033年度)

基礎研REPORT(冊子版)11月号[vol.320]

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1―高インフレ、低成長が続く世界経済

2020年以降、新型コロナウイルスの感染拡大を抑制するため、各国で社会・経済活動の制限が導入され、世界経済は急停止を余儀なくされてきた。しかし、2021年以降はワクチンの普及やウイルスの弱毒化などにより重症化率・致死率が低下、2022年に入ってからは多くの国で感染予防を目的とした社会・経済活動の制限は廃止された。2022年末には中国もいわゆる「ゼロコロナ政策」を終了させ、経済再開に舵を切った。2023年には日本の感染症法の位置づけが「5類感染症」に移行した。

現在は、過度にウイルスのリスクを意識することなく経済活動が行われ、コロナ禍以降に止まっていた国際間の「人の移動」はコロナ禍前の水準付近まで回復、感染症による直接的な経済活動への影響はほぼ解消した。

一方、ロシアによるウクライナ侵攻を契機とした世界的な高インフレは引き続き経済の下押し圧力となっている。商品価格の高騰は一服しているが、先進国ではコロナ禍以降に、労働供給力が縮小し、人手不足感が強まっていたこともあり、企業の価格転嫁(値上げ)が続き、労働者の賃上げ要求も激化したためインフレの内生化が進んだ。総じてインフレ率は既にピークアウトしているものの、中央銀行の目標を大きく上回り、先行きの不確実性も高い状況が続いている。

世界経済は、新型コロナウイルス感染症の影響で2020年に▲2.8%の大幅マイナス成長となった後、2021年はその反動で6.3%の高成長となったが、2022年以降はコロナ禍からの回復が進展する一方で、高インフレとそれに伴う金融引き締めの影響で減速が続いている。世界経済の実質経済成長率は2022年に3%台半ばまで低下した後、2023年には3%程度まで減速することが見込まれる。

その後はインフレ率の低下で持ち直すものの、少子高齢化を背景とした新興国の成長鈍化を主因として予測期間にわたって成長率は鈍化傾向をたどり、予測期間末には2%台後半まで低下することが見込まれる。

2―日本経済の見通し

1|実質GDPはコロナ禍前のピークを上回る
日本経済は、新型コロナウイルス感染症の影響で2020年度に急速に落ち込んだ後、持ち直しの動きが続いている。2022年後半までは感染拡大のたびにマイナス成長となるなど、一進一退から脱することができなかったが、2022年10-12月期から3四半期連続でプラス成長となったことで、実質GDPの水準は2023年4-6月期にはコロナ禍前のピーク(2019年7-9月期)を0.2%上回った。

ただし、実質GDPの内訳を見ると、政府消費、輸出が高い伸びとなる一方、民間消費、住宅投資、設備投資の国内民間需要はコロナ禍前の水準を依然として下回っている。2023年5月には、新型コロナの「5類」への移行によって社会経済活動の制限は基本的になくなったが、経済の正常化にはまだ距離がある。
2|今後10年間の実質GDP成長率は平均1.1%を予想
1980年代には4%台であった日本の潜在成長率は、バブル崩壊後の1990年代初頭から急速に低下し、1990年代終わり頃には1%を割り込む水準まで低下した。2000年以降は1%程度まで持ち直す局面もあったが、新型コロナの影響で戦後最悪のマイナス成長となった2020年度以降はゼロ%台前半の低い伸びにとどまっている[図表1]。
[図表1]潜在成長率の寄与度分解
潜在成長率は概念的には景気循環に左右されないはずだが、実際には現実の成長率の影響を強く受ける。潜在成長率は、労働投入量、資本投入量、全要素生産性によって決まる。このうち、全要素生産性上昇率は一般的に、現実のGDPから労働投入量、資本投入量を差し引いた残差をHPフィルターなどで平滑化して求められる。このため、現実のGDP成長率が低くなれば、全要素生産性上昇率も低くなり、それに応じて潜在成長率も低くなる。また、景気悪化時には設備投資の抑制や雇用情勢の悪化によって、資本投入量、労働投入量が減少し、このことも潜在成長率の低下要因となる。

足もとの潜在成長率の低下は、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた経済活動の急速な落ち込みによってもたらされたものであり、真の意味で日本経済の実力が落ちてしまったと考える必要はない。

先行きの潜在成長率はコロナ禍からの回復過程で上昇傾向が続くだろう。労働投入量はほぼ横ばいにとどまるが、設備投資の回復によって資本投入量の増加幅が拡大すること、働き方改革の進展、人手不足対応の省力化投資、デジタル関連投資などから全要素生産性の上昇率が高まることにより、潜在成長率は2020年代半ばには1%程度まで回復することが見込まれる。ただし、2020年代後半以降は人口減少、少子高齢化のさらなる進展によって労働投入量のマイナス幅が拡大することから、潜在成長率は若干低下し、2030年代前半にはゼロ%台後半となるだろう。

実質GDP成長率は、中長期的には潜在成長率の水準に収れんする。当研究所推計のGDPギャップは2022年度時点で▲2%程度(GDP比)となっているが、当面は潜在成長率を上回る成長が続く公算が大きい。このため、GDPギャップのマイナス幅は縮小傾向が続くが、同時に潜在成長率が高まるため、マイナス幅の縮小ペースは徐々に緩やかとなり、GDPギャップが解消されるのは2027年度となるだろう。実質GDP成長率は2030年度まで1~1%台前半で推移した後、2030年代前半は潜在成長率の低下に伴い、ゼロ%台後半となるだろう。この結果、日本の実質GDP成長率は予測期間(2024~2033年度)の平均で1.1%になると予想する[図表2]。

今回の予測では、再びデフレに戻ることがないことを想定している。名目GDP成長率は予測期間(2024~2033年度)の平均で2.2%、名目GDPの水準は2024年度に600兆円、2031年度に700兆円を突破するだろう。
[図表2]実質GDP成長率の推移
3|今後10年間の消費者物価上昇率は平均1.6%を予想
消費者物価上昇率(生鮮食品を除く総合)は2022年4月以降、日本銀行が物価安定の目標としている2%を上回る水準で推移している。今回の物価上昇は、当初はそのほとんどが原油高、円安に伴う輸入物価の急上昇を起点としたエネルギー、食料の大幅上昇によるものだった。しかし、価格転嫁の動きは幅広い品目に広がり、ここにきて賃金との連動性が高いサービス価格の上昇率も高まっている。

中長期的な物価上昇率の水準に大きな影響を及ぼすのは予想物価上昇率である。高い物価上昇率が続いたことで、企業や家計の予想物価上昇率は大きく高まっている。ただし、予想物価上昇率は足もとの物価動向に左右される傾向があることには注意が必要だ。中長期的な予想物価上昇率の水準が従来から大きく上昇したと判断するためには、景気悪化や国際商品市況の下落などによって物価低下圧力が高まった時に予想物価上昇率が大きく下がらないことを確認する必要がある。

一方、物価高が一定期間継続したことで、企業の値上げに対する抵抗感が薄れたこと、インフレの経験がなかった世代を中心に「物価は上がらないものだ」という見方が変化したことは、先行きの予想物価上昇率の底上げに寄与するだろう。

消費者物価上昇率(生鮮食品を除く総合)は、2022、2023年度と物価目標の2%を上回るが、2024年度は円高の進展に伴う輸入物価の低下によって財価格の上昇ペースが鈍化することから1.6%と2%を割り込み、2025年度には原油安が加わることもあり1.4%とさらに伸びが鈍化するだろう。

予測期間前半は需給バランスの改善が物価の押し上げ要因となり、2027年度には1.8%まで伸びが高まるが、円高に伴う輸入物価の押し下げにより財価格の上昇率が緩やかにとどまることから、2%には到達しない。一方、賃上げ率は予測期間中、ベースアップで2%程度の推移が続くことを想定しており、ベースアップとの連動性が高いサービス価格も2%程度の上昇が続くだろう。

予測期間後半は、予想物価上昇率や賃金上昇率の高まりが物価を押し上げる一方、財価格の上昇率が低めにとどまること、GDPギャップのマイナスが解消し、需給面からの押し上げが減衰することから、1%台半ばの伸びが続くだろう。消費者物価上昇率(生鮮食品を除く総合)は今後10年間の平均で1.6%になると予想する[図表3]。
[図表3]消費者物価(生鮮食品を除く総合)の予測
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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

(2023年11月08日「基礎研マンスリー」)

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