2023年11月02日

少子化問題に影を落とす若年層の経済状況

坂田 紘野

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2│世代内格差の拡大
第二に、若年層、と一括りにできるほど、現在の若年層の経済状況は似通ってはいない点も指摘できるだろう。若い世代における経済状況の世代内格差は拡大傾向にある。そのため、貧しい若年層はかつてよりも経済的に厳しい状況に置かれていることが想定される。

格差の度合いを測るための指標としては、ジニ係数が広く用いられている。ジニ係数は、0から1までの値をとる、分布などの均等度を示す指標であり、0に近いほど分布が均等、1に近いほど不均等であることを示す。厚生労働省の調査から各世代内における所得(当初所得)のジニ係数の推移を確認すると、中高年世代はジニ係数が小さくなる傾向がみられる世代が多いのに対し、30代が世帯主である世帯のジニ係数は、大きくなっている(図表10)。これは、30代における労働所得の格差が大きくなっている、すなわち世代内格差が広がっていることを意味している。
(図表10)世帯主の年齢階級別ジニ係数(当初所得)
格差の拡大という点においては、非正規雇用労働者の賃金が低いことが、依然として大きな課題であり続けている。正社員・正職員と比較して、非正規雇用に当たる正社員・正職員以外の労働者の賃金は、男女いずれの場合も低い水準に留まっている。それに加えて、非正規雇用労働者の賃金カーブはほぼ横ばいに推移していることから、労働者にとって、将来賃金が上昇するだろうとの期待感も乏しいものとなってしまう(図表11)。結果として、労働者の抱く将来への経済的な不安は大きくなってしまう。
(図表11)正規・非正規雇用労働者の賃金カーブ
もっとも、将来の賃金上昇期待が乏しく、将来の経済不安を抱えているのは非正規雇用労働者に限った話ではないかもしれない。前述の図表4の通り、確かに20代においては男女ともに実質賃金水準は上昇傾向にある。しかし、他の年代を確認すると、女性については社会進出が進んだこともあり全年代で上昇傾向が見られるものの、男性の実質賃金水準は中高年世代のほとんどで低下しているのが現状だ(図表12)。
(図表12)年齢階級別実質賃金水準の推移

5――おわりに

5――おわりに

本稿において確認した通り、若年層の現在の経済的状況や将来の見通しは良好とは言い難い。

少子化問題について検討する際、個人の結婚・出生の選択の自由は最大限に尊重しなければならない。しかし、個人、あるいは世帯の希望が経済的要因等によって歪められていないかは考慮する必要があるように思われる。実際、はじめて少子化問題をテーマの1つに据えたことで注目を集めた、2023年の「年次経済財政報告」(経済財政白書)は、年収区分と未婚率の関係やその男女差から、経済環境の変化がライフスタイルや嗜好に影響を及ぼし、それが結婚行動に影響する可能性を示唆している。このことを踏まえると、「新しい資本主義」における諸取組を推進し、構造的な賃上げを実現することは、少子化問題の改善という観点からも極めて重要であると言えるだろう。また、「加速化プラン」によって、子育て世帯への経済的支援等を進めることもまた、重要性は高いと思われる。

しかし、構造的な賃上げ、あるいはその前提ともいえる三位一体の労働市場改革やそれに伴う経済成長の実現等は、残念ながら一朝一夕に達成することは難しいだろう。一方で、「少子化は、我が国が直面する、最大の危機である」と示されているように、少子化対策は日本の喫緊の課題となっている。そうであるならば、非正規雇用である等を含めた経済的な要因で、未婚であったり、子どもを持たなかったりしている若年層が結婚し、子どもをもつことができるよう、経済的に支援する施策を実施することも一考に値するのではないだろうか。

いずれにしても、少子化と若年層の経済的状況は関連しており、今後その双方が改善に向かっていくことが期待される。
 
 

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坂田 紘野

研究・専門分野

(2023年11月02日「基礎研レター」)

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