2023年11月01日

気候リスク保険のジェンダー配慮-マクロ、メソ、マイクロ -- 各レベルでカギとなる取り組みは...

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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4|マクロ、メソ、マイクロのレベルに応じたジェンダー配慮が必要
気候リスク保険には多様なモデルがあり、ジェンダー配慮は、保険の内容や特徴に応じて行われることが求められる。その際、マクロ、メソ、マイクロの3つのレベルで、取り組み方は大きく異なるものとなる。11

マクロレベルの場合、公的医療保険等の社会保障制度とセットで、ジェンダー配慮を組み込んでいくことが考えられる。つまり、気候リスクのみならず、女性に特徴的なリスクを包括的に保障していくということである。様々なリスクへの備えを行うことで、女性に、トータルで安心、安全を提供していくということになる。

メソレベルの場合、気候リスク保険の契約者として、どの機関が女性に働きかけるべきか、がポイントとなる。例えば、貧困が原因で災害リスクへの対処が困難な場合、マイクロ金融を行う金融機関が契約者となって保険加入を促すことが考えられる。一方、被災時の食糧難がリスクとして見込まれる場合、協同組合や農業団体が中心となって女性にアプローチすることが求められる。

マイクロレベルの場合、女性に保険加入を促す保険者の役割が、間接保険よりも大きくなる。一般の保険募集と同様、どのような顧客にリスク情報を提供するか、どのような層をターゲットとして保険加入を促すか、といったマーケティングが行われる。そして、リスク対応として適切な保障内容や、危険選択等のリスク管理、関連サービスの提供方法など、保険事業としての具体内容の設計が行われる。その際、顧客に直接アプローチする代理店や募集人等の保険仲介者に、女性の参加を促すことが重要なポイントとなるものと考えられる。
 
11 “Applying a Gender Lens to Climate Risk Finance and Insurance” Katherine S Miles and Martina Wiedmaier-Pfister (InsuResilience Global Partnership, November 2018)

4――おわりに (私見)

4――おわりに (私見)

本稿では、気候変動がジェンダー問題に及ぼす影響と、その対処となる気候リスク保険へのジェンダー配慮の組み込みについて簡単に見ていった。

現在、開発途上国を中心に、様々な機関による取り組みが始まっている。ただし、現時点で、確立した方法はない。どういったアプローチが女性に受け入れられやすいか、どういう保険が気候リスクに関するジェンダー平等に効果的か、といった評価はこれから徐々に定まっていくものと思われる。

特に、マイクロレベルの気候リスク保険においては、保険会社による保険制度等の設計が、有効性のカギとなる。

気候変動とジェンダー問題、そして、そこに保険がどのように役立つことができるか ― 様々な取り組みを通じて、その答えが明らかになっていくものと考えられる。引き続き、このテーマに関する国内外の動向を、ウォッチしていくこととしたい。

(参考資料)
 
「気候変動に伴う災害リスクにおけるジェンダー不平等への取り組み」(UN WOMEN日本事務所サイト)
 
“Overview of linkages between gender and climate change”(United Nations Development Programme, 2015)
 
「気候変動政策におけるジェンダー視点の重要性」 平田知子 (参議院環境委員会調査室, 立法と調査 2022.11 No.451)
 
「COP27に向けた準備会合の現地からの最新報告:適応・ジェンダーを中心に」 遠藤理紗 (SB56報告会グラスゴーからシャルム・エル・シェイクへ ~COP27に向けた国際交渉の最新報告~, 「環境・持続社会」研究センター(JACSES), 2022年7月13日)
 
“Achieving gender equality and the empowerment of all women and girls in the context of climate change, environmental and disaster risk reduction policies and programmes” (Committee on the Status of Women Sixty-sixth session, United Nations, Agreed conclusions, 14-25 March 2022)
 
「気候変動、環境及び災害リスク削減の政策とプログラムの文脈におけるジェンダー平等と全ての女性と女児のエンパワーメントの達成」(第66回国連女性の地位委員会 2022年3月14~25日, 合意結論, 内閣府男女共同参画局による仮訳)
 
「気候変動教育とユース・リーダーシップの再考 : 調査レポート」(Plan International, July 2021)
 
「気候変動とジェンダーに関する調査報告書」(Plan Youth Group, 2023年3月)
 
「気候リスク保険を強化し災害の影響を受けやすい地域を支援」(国連大学環境・人間の安全保障研究所(UNU-EHS), 2019年12月24日)
 
“Mainstreaming Gender and Targeting Women in Inclusive Insurance: Perspectives and Emerging Lessons”(GIZ, IFC, 2017)
 
“Applying a Gender Lens to Climate Risk Finance and Insurance” Katherine S Miles and Martina Wiedmaier-Pfister (InsuResilience Global Partnership, November 2018)

 
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

(2023年11月01日「基礎研レター」)

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