2023年10月10日

2022年健康寿命はコロナ禍の影響で伸び悩み?コロナ禍の影響はどの程度か。

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

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1――はじめに

平均寿命の増加分を上回る健康寿命の延伸は、国の目標の1つとされている。「寿命の増加分を上回る健康寿命の延伸」とは、寿命と健康寿命の差である不健康期間を短縮しようというものだ。

厚生労働省の簡易生命表によると、2021、2022年と2年連続して平均寿命は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19。以下、「新型コロナ」とする。)の影響などによって男女とも短縮した。では、健康寿命はどうだろうか。

本稿では、「2022年簡易生命表」を使った「2022年健康寿命」の概算結果を紹介する。正式な数値は、厚生労働省からの公表を待たれたい。本稿では、さらに、新型コロナによる死亡を除去した生命表を作成して、新型コロナによる死亡を除去した2022年時点の健康寿命の試算も試みた。

「健康」の定義は、人や環境により様々な考え方があると思われる。国が公表する健康寿命においては、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」と定義し、「国民生活基礎調査1」で3年に1回尋ねている「あなたは現在、健康上の問題で日常生活に何か影響がありますか」という設問の結果を用いて算出していることから、本稿ではこの定義を使う。
 
1 「国民生活基礎調査」は毎年実施されているが、健康寿命の算出に使用する設問を含む健康調査は3年に1回実施されているため、それにあわせて健康寿命も3年ごとに公表されている。

2――2022年健康寿命の試算

2――2022年健康寿命の試算

1|健康寿命は男性短縮、女性はやや延伸
厚生労働省から公表されている直近の健康寿命は、2019年時点のもので、男性が72.68年、女性が75.38年である。図表1に示すとおり、健康寿命は国が公表している2001年以降、男女とも延伸し続けてきた。

2022年の健康寿命について、「2022年簡易生命表」と、「2022年国民生活基礎調査」の結果を使って、筆者が、2019年の算出方法に倣って計算してみたところ、男性が72.57年、女性が75.46年となった2(正式の数値は厚労省の公表を待っていただきたい)。2019年と比べて、この3年間で男性が0.11年短縮し、女性が0.08年延伸した計算となる。健康寿命が1回前(3年前)と比べて短縮したのは、健康寿命を公表するようになってから初めてのことだ。

また、平均寿命と健康寿命の差、すなわち不健康期間は男性が8.5年、女性が11.6年と、男女とも過去最短となった。
図表1 平均寿命と健康寿命の推移
 
2 厚生労働科学研究「健康寿命における将来予測と生活習慣病対策の費用対効果に関する研究」のロジックを使って計算をした。
2|男性の健康寿命の短縮の背景に、平均寿命の短縮
男性の健康寿命の短縮の背景に、平均寿命の短縮があると思われる。2021年と2022年の平均寿命は、新型コロナの影響等により2年連続で短縮した3。健康寿命は、大まかに言えば、各年齢の生存者数とその年齢における健康な人の割合で算出するため、寿命が短縮することも健康寿命短縮の要因となる。

平均寿命は、これまでもおおむね延伸し続けてきたため、今後も平均寿命が延伸することを前提として、健康寿命の延伸が、人々の健康状態や社会の仕組みの改善を示す指標と考えられてきた。しかし、平均寿命が短縮してしまったことで、今回は健康状態や社会の仕組みの改善が見えにくい可能性がある。
 
3 厚生労働省「令和3年簡易生命表の概況」「令和4年簡易生命表の概況」によると、死因別では、2021年は新型コロナや老衰等による死亡が、2022年は新型コロナ、老衰に加えて心疾患(高血圧性のものをのぞく)等による死亡が、平均寿命を前年よりも短縮させた主な要因とされている。平均寿命に対する寄与年数は、新型コロナによるものが大きい。
3|日常生活に影響がある人の割合は、高齢部分で引き続き低下
それでは、健康上の問題で日常生活に影響がある割合は、どの程度改善しているのだろうか。
健康寿命の計算に使われているのは、「国民生活基礎調査」の「あなたは現在、健康上の問題で日常生活に何か影響がありますか」という設問である。2022年の結果は、男性全体の12.9%、女性全体の15.4%が「健康上の問題で日常生活に影響がある」と回答していた。

男女それぞれ年齢群別に、2016年調査からの推移を図表2に示す。2022年は、2019年と比べて、コロナ禍を経たこの3年間で65~79歳で横ばい、80歳以上では低下していた。高齢部分の改善は、2016年以前も含めて継続的なものとなっている。特に、高齢女性の改善幅は大きい。
図表2 健康上の問題で日常生活に影響がある割合の推移

3――新型コロナによる死亡を除去した場合の健康寿命計算の試み

3――新型コロナによる死亡を除去した場合の健康寿命計算の試み

簡易生命表とあわせて、厚生労働省からは、代表的ないくつかの死因について、その死因を除去した場合の平均余命の延び4、および特定の死因別死亡確率5が5歳刻みで公表されている。これによると、2022年生命表において、新型コロナによる死亡を除去した場合の平均寿命は、男性0.24年延びて81.29年、女性0.20年延びて87.29年だった6。2019年と比べると、新型コロナの影響を除外しても平均寿命は男女とも短縮していた。

これらの公表されている情報から新型コロナによる死亡を除去した場合の生命表の再現を試みたうえで、その生命表を使用して、2022年の健康寿命を試算した7

その結果、新型コロナによる死亡を除去した時の健康寿命は男性が72.71年、女性が75.56年と算出され、新型コロナによる死亡を含んだ結果よりもそれぞれ0.14年、0.10年延伸した。2019年と比べると、新型コロナによる死亡を除去すれば健康寿命は男女とも延伸していた。

厚生労働省から公表されている特定の死因を除去した平均余命の延びや、特定の死因による死亡確率は、人はいずれ何らかの死因で死亡することを前提として、一定の仮定に基づく推計8ではあるが、新型コロナによる影響が一時的なものだと考えれば、健康寿命は引き続き男女とも延伸していると考えても良さそうだ。

なお、厚生労働省から公表されているのは、新型コロナがなかった場合の5歳ごとの平均余命の延びと、各年齢(5歳刻み)の人が、将来新型コロナで死亡する確率だけであり、示された数値の有効桁数も少ない。そのため、ここでの試算はやや粗いものであることにも注意いただきたい。
 
4 厚生労働省「令和4年簡易生命表」4表 特定死因を除去した場合の平均余命の延び(https://www.e-stat.go.jp/stat-search/file-download?statInfId=000040077196&fileKind=0
5 厚生労働省「令和4年簡易生命表」第3表 死因別死亡確率(https://www.e-stat.go.jp/stat-search/file-download?statInfId=000040077195&fileKind=0)
6 新型コロナの副反応を原死因としたものは含まない。
7 5歳刻みの新型コロナによる死亡を除去した時の平均余命の延びから、新型コロナによる死亡を除去した時の各年齢以上の定常人口と各年齢における生存数の関係を算出し、それと整合的な各年齢の死亡率を逆算した。確認のため、上記のように逆算で算出した各年齢の死亡率を使って、新型コロナによる死亡確率(今後、その要因で死亡する確率)を算出し、公表資料と大きな乖離がないことを確認した。
8 厚生労働省「令和4年簡易生命表」簡易生命表の概要・作成方法(https://www.e-stat.go.jp/stat-search/file-download?statInfId=000040077197&fileKind=2

4――おわりに

4――おわりに

1|2022年健康寿命の状況
以上のとおり、2019年と比べて簡易生命表による平均寿命は、男女とも短縮しており、日常生活に影響がある割合は高齢部分で引き続き改善していた。特に高齢女性の改善は大きい。

2019年の計算方法に倣って2022年のデータで健康寿命を計算したみたところ、男性が72.57年、女性が75.46年となった(正式な数値は、厚生労働省からの公表を待たれたい)。2019年と比べて、この3年間で男性が0.11年短縮し、女性が0.08年延伸した計算となる。日常生活に影響がある割合の改善は、健康寿命延伸にプラスの効果があったと思われるが、平均寿命の短縮がマイナスの効果となったことにより、男性は健康寿命自体も短縮していたが、女性は健康寿命が少し延伸するにとどまったと考えられる。

新型コロナによる死亡を除去した計算を試みた結果、2019年と比べて男女とも健康寿命は延伸していた。新型コロナによる死亡の影響が一時的だと考えるとすれば、健康寿命は引き続き延伸していると考えても良さそうだ。
2|健康政策との関係
健康寿命について、国では、2019年に策定された健康寿命延伸プランでは、2040年までに健康寿命を、2016年の男性72.14年、女性74.79年と比べて男女とも+3年とすること、平均寿命の増加分を上回る健康寿命の増加を、健康日本21(第二次、第三次)では、地域差の縮小を目標としている。

今回の結果では、不健康期間(寿命と健康寿命の差)は男女とも過去最短となった。国では、平均寿命の増加分を上回る健康寿命の延伸、すなわち不健康期間の短縮を目標としているが、それはあくまで平均寿命が延伸することを前提としたものであり、今回の新型コロナのように急に亡くなってしまうことは、仮にそれによって不健康期間が短縮したとしても決して期待した状態ではないだろう。「平均寿命の延伸と、その増加分を上回る健康寿命の延伸」が重要である。

健康寿命の地域差について、女性ではこの10年で地域差が拡大していることから9、自治体等では、健康行動の促進や日常生活を充実させるためにサービスを充実させてきた。しかし、2022年については、平均寿命が短縮してしまったことで、こういった取組みの成果が、健康寿命の延伸からは見えにくい可能性がある。

2019年に「健康寿命延伸プラン」を策定するにあたり、「健康寿命のあり方に関する有識者研究会」や「健康寿命の延伸の効果に係る研究班」で健康寿命を政策指標として使う場合の課題が整理された10。現在の健康寿命については、3年ごとにしか計算できないことや、調査対象者数が少ないため、市町村別や二次医療圏別では計算結果の精度が確保できないといった調査設計上の課題が指摘され、毎年、地域ごとに算出できる補完的指標として、介護保険関連データを使って要介護2以上にならない期間を示す「平均自立期間」の活用を提案していた。しかし、コロナ禍においては感染を恐れて介護サービスを利用しなかったり、感染拡大を抑止するために部分的にサービスをストップするなどの対策がとられたため、介護保険の利用もイレギュラーに推移しており、コロナ禍においては人々の健康状態やサービスの充実状況を把握しにくい可能性がある。
 
9 村松容子「健康日本 21(第三次)2024 年度始動に向けた議論」ニッセイ基礎研究所 基礎研レター(2023年6月27日)(https://www.nli-research.co.jp/files/topics/75048_ext_18_0.pdf?site=nli
10 村松容子「政策指標としての「健康寿命」が抱える課題」ニッセイ基礎研究所 保険年金フォーカス(2019年4月23日)(https://www.nli-research.co.jp/files/topics/61417_ext_18_0.pdf?site=nli
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

経歴
  • 【職歴】
     2003年 ニッセイ基礎研究所入社

(2023年10月10日「基礎研レポート」)

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