2023年10月10日

新築マンション市場の動向(首都圏・全国2023年6月)-最高値更新、今後は供給戸数減少が加速の見通し

基礎研REPORT(冊子版)10月号[vol.319]

金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子

文字サイズ

1―首都圏新築マンション市場では、高値更新と供給減が続いている

不動産経済研究所によると、2023年6月の首都圏新築マンション平均価格は6,550万円( 前年同月比+1.6%)、発売戸数は1,906戸( ▲0.4%)、初月契約率は67.8%(前月比▲6.5%、前年同月比+0.2%)であった。また、2023年上半期(1-6月)の平均価格は8,873万円(前年同期比+36.3%)と最高値を更新、発売戸数は1万502戸(▲17.4%)となった。

傾向を見るために発売価格と発売戸数それぞれを直近12ヶ月の移動平均に変換してみると、2023年6月の価格は7,924万円( 前年同月比+12.6%、2013年同月比+57.5%)、発売戸数は2,280戸( ▲17.3%、▲44.3%)となった[図表1]。首都圏新築マンション市場では、価格の高値更新と供給戸数の減少が続いている。
[図表1]首都圏新築マンションの発売戸数と平均価格
また、10年前の2013年同期比では、東京23区が+129.9%、東京都下が+34.3%、神奈川県が+37.1%、埼玉県が+32.0%、千葉県が+27.0%と、10年間で東京23区の新築マンションの価格が約2.3倍になる一方で、それ以外のエリアは約1.3倍にとどまっている。m2単価についても東京23区の上昇率が前年同期比+51.5%、2013年同期比+126.4%と突出している[図表2]。

今の首都圏新築マンション価格の上昇は、東京23区所在の住戸の価格上昇の寄与が大きい。
[図表2]首都圏新築マンションの単価と総額の変化率(エリア、都県別、2023年上期)

2―新築マンションの価格は戸当たり価格の見かけ以上に上昇している

首都圏新築マンションの面積は、東京23区が横ばい、その他のエリアが縮小傾向である。60m2を下回る間取りでは売行きが悪くなるため、価格水準の高い東京であっても一定の規模は確保されている[図表3]。

面積と単価の戸当たり価格への影響をみると、東京23区はm2単価の上昇が価格上昇の原因となっている。
[図表3]首都圏マンションの平均面積(エリア、都県別)
これに対し、東京都下と神奈川は面積が縮小したが、単価については一進一退で[図表4]、面積を縮小して価格を維持している。また埼玉と千葉は面積を縮小してもm2単価の上昇で価格が上昇している。つまり、面積縮小が進むエリアでは新築マンションの戸当たり価格上昇の見かけ以上に実質的な価格が上昇している。
[図表4]首都圏マンションの単価(エリア、都県別)

3― 住宅価格がさらに上がると思う人が買っている

このように価格上昇が続く背景の一つには、投資需要の高まりがあるようだ。リクルートが2022年12月に行った調査によると、2022年に住宅の購入を検討した人のうち「住宅の買い時だ」と思っていた人が全体の44%と、2019年の54%より▲10%と減少した。しかし、この人たちに買い時だと思った理由を尋ねると、「これからは、住宅価格が上昇しそう」と答えた人が47%おり、2019年の26%よりも増えていた。

一方で「住宅ローン金利が安い」と考える人は2019年の41%から35%に、「住宅価格がお手頃」と考える人は29%から25%に、「ローン減税が有利」と考える人は18%から14%に減少した。

一見矛盾しているように見えるが、価格帯によって需要者動向が異なると考えると答えが見えてくるのではないだろうか。つまり、標準的な価格帯のマンションについては割高に感じる人が増えて売れ行きが鈍る一方で、市場全体の一部である立地も設備もよい高価格帯のマンションについては資金的に余裕のある人が「さらに価格が高くなる」と考えて積極的に購入し、市場全体では高価格が多くなり平均価格が引き上げられていると考えられる。

4―デベロッパーは将来のマンション用地を確保できていない

供給者側を見てみると、マンション用地の取得額は減少している。MSCIリアルキャピタル・アナリティクスによると、2023年7月21日までに判明した関東圏のマンション用地の取得額は約158億円、2023 年1-6月累計の前年同期比は▲81.3%とマイナスであった[図表5]。

一部のデベロッパーは十分な用地を確保していることが確認できる。しかし、多くのデベロッパーは、用地取得競争の激化と用地価格の高騰、建築費の高騰から、新たな用地を仕入れることが困難になっているようだ。マンション用地購入からマンション完成までには、最短で2年程度の期間が必要である。今年の下期のマンション用地取得額が前年同期の取得額を大きく上回らない限り、2、3年後の新築マンション供給戸数は減少傾向が加速する可能性が高い。
[図表5]関東圏のアパート用地の取引額と前年比

5― マンション供給エリアは全国で拡大している

なお、用地取得競争の激化から全国の地方都市にも新築マンションの供給が広がっている。

不動産経済研究所によると、2022年のマンションデベロッパー上位20社合計の年間販売戸数のうち、44%が首都圏で、24%が近畿圏で、30%が首都圏・近畿圏以外で供給されている[図表6]。

購入者は販売エリア近隣の高額所得者などで、価格も上昇している。

2022年の全国の新築マンション発売戸数は7万2967戸で、2023年は約7.5万戸(前年比+2.8%)の供給が見込まれている。マンションは最も土地を効率的に利用する用途の1つであり、今後も全国で供給が続くと考える。
[図表6]新築マンションの供給戸数ランキングと各圏域での供給割合(2022年)

6―まとめ

首都圏新築マンションは、価格の上昇と供給減が続いている。初月契約率は70%を割り込む月もあるものの、概ね良好な状態である。ただし、今の首都圏マンション市場で売れている物件の多くは、立地もグレードも良い高価格帯のマンションである。

特に東京23区の一部については、さらに価格上昇が期待できると考えて投資目的で購入する人もおり、価格の上昇率が突出している。一方で、東京都下や首都圏3県では停滞をはじめたエリアも散見される。たまたまその時期に販売された高額な物件が月次の平均価格を引き上げる事象も確認でき、特に首都圏新築マンションの価格については、平均値で見るだけではなく細分化したエリア別に動向を見ていく必要があると考える。

デベロッパーのマンション用地取得額が大きく減少し、これから新築マンション供給は一層少なくなることが予想されることから、今後も新築マンションの発売価格は高値水準での推移が続くだろう。

なお、資産防衛の観点からは、購入予定のマンションが中古マンションとなった際の価値について、保守的に考えた方が良いと思われる。

また、日銀の金融緩和の方針については注意が必要である。金融緩和政策が変更されて長短金利が引き上げられると、住宅ローン金利も引きあがるため、新規にマンションを購入したい人の借入可能額の減少を通じて住宅価格が下落する可能性があるだろう。
Xでシェアする Facebookでシェアする

金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴
  • 【職歴】
     2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
     2006年 総合不動産会社に入社
     2018年5月より現職
    ・不動産鑑定士
    ・宅地建物取引士
    ・不動産証券化協会認定マスター
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

    ・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

(2023年10月10日「基礎研マンスリー」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【新築マンション市場の動向(首都圏・全国2023年6月)-最高値更新、今後は供給戸数減少が加速の見通し】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

新築マンション市場の動向(首都圏・全国2023年6月)-最高値更新、今後は供給戸数減少が加速の見通しのレポート Topへ